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歌姫キキ

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「おはようございます。お久しぶりですね」
 サクラに帰還した翌日。俺はいつも通り、銀の雫で紅茶を飲む。
「ああ、なんとか帰ってこれたよ」
 いつものミオとの会話だ。
「聞きましたよ。実家に帰ってたんですってね。無事帰れましたか?」
「ああ、特に何事もなく帰ることができたよ。帰りも平和だった。運がよかったな」
「サクラの周りは魔物が多いですからねえ。トラブルなかったようでよかったです」

「他のメンバーはよく来ていたのか?」
「お店にですか? ええ、皆さん時々来ていましたよ。元気そうでした。」
「そうか、それはよかった」

「そういえばキキがライブに来るらしいですね。カミトさんもチケット申し込みましたか?」
キキ。歌姫だったか。正直あまり詳しくない世界だ。
「ああ、なんか聞いたことあるな。ただ、あまり興味がなくてよく知らないんだ」
「えええ、キキをあまり知らないんですか? それはちょっと変わっている方ですね。キキは世界の歌姫と呼ばれていて、世界中を巡って実施しているライブツアーがすごい人気なんですよ」
「そうなのか。なんで有名なんだ?」
「まず、歌声がすごい良いんですよ。少し高い音程で感動するレベルのバラードを歌うことが多いのですが…… 聞いたらわかります。心が震えますよ。後は歌詞ですね。自分で作詞作曲しているらしいのですが女の子ならよくわかる歌詞になっていて、ついつい引き込まれちゃうんですよね。性格もすごい良くてファンサービスも熱心にする方なんですよ」
「そうなのか。じゃあ女性人気が高い感じか?」
「女性人気はもちろんですが、男性人気も高いですよ。見た目は可愛らしい女の子なんです。まだ20代のセイレーンらしいんですけど、これぞ可愛いという感じで」

「ほう、男女ともに人気なのか。それは興味深いな。」
「急に興味が湧いてきてんですね。全くもう。ただ残念ですがもうチケットは売り切れていると思います…… 次回は是非ライブ参加して見てください。演出が華やかでスケールも大きいので見ているだけで楽しめると思いますよ。私はなんとか1枚ゲットできたので行ってきます」
「いいね、是非感想教えてくれ」


 いつもの時間に冒険者ギルドに向かう。待ち合わせ場所にライエル、マルク、アズサの姿を見かける。
「久しぶりだな、無事帰ってきたよ」
「おお! 無事だったか。よかった」
「元気そうでよかったよ。心配してたよ」
「こっちは特に何も変わったことはなくクエストをこなしていたわ。今日からまたよろしくね」
メンバーが暖かい。いいチームだな。俺は頷くと、今日の受ける依頼について議論を始めるのだった。

「そういえばカミトは知っているか? キキの話」
「ああ、さっきミオから聞いたよ。すごい歌手らしいな」
「うん、僕も王都で昔1回ライブ行ったけど、凄かったよ。これが世界の歌手かあ、って思うくらい他の歌手とはレベルが違うね。行きたかったなあ」
「マルクは行かないのか?」
「3人ともチケットの抽選に外れたわ。すごい倍率だったらしいよ。サクラ中の住人は申し込んだんじゃないかしら?」
「そんなにか。俺も申し込んでおけばよかったなあ」

「当日、ライブ会場の近くに行けば音くらいは聞こえるんじゃないか? ちょっと行ってみるか」
「それ、問題になってるからダメよ。昔そうやって音を聞きにくる者がいっぱいいてトラブルになったらしいから、警備員がいっぱい見張っていると思う」
「だめかあ。残念だな」

 クエストへ向かう間、こちらでもキキの話で盛り上がる。思った以上にキキは有名人で人気なんだな。一度会ってみたい、そう俺は素直に感じたのだった。


「キキ様、後2日でサクラに到着します」
「やっと到着するかー。もう移動は疲れたなあ。魔物は早いけど揺れるからしんどいよお」
「まあ少し我慢ください。後2日の辛抱です」
「はーい」
キキとその一行は魔物の車に乗ってサクラに向かって移動していた。

「サクラって辺境の大都市なんだっけ?」
「はい、そうです。街自体に有名な場所があるわけではないですが、魔物を討伐する最前線の街として栄えています。多くの強力な冒険者がいるそうで、それで有名ですね」
「冒険者かあ。荒くれ者ばっかりなのかなー。ライブ荒れないといいけどね」
「対魔物討伐のエキスパートという感じですので、どちらかというと騎士に近い性格のものが多いらしいですよ。治安は良いらしいですし、そこまで心配されなくても大丈夫かと」
「そっか。それはよかった。新しい街に行くのは楽しみだねー。面白い出会いがあるといいんだけど」

「今回は例の件もありますので気をつけてくださいね。出来れば不要な外出は控えていただければと……」
「僕じゃなくて宝石が狙いでしょ? 大丈夫だよ。僕はいつも通り気にせず過ごすよ。変に護衛とかもつけないですね」
「まあそうですが…… かしこまりました。お気をつけくださいね」
「うん、まあとりあえずライブ頑張るよ! いつも通りよろしくね」
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