PSIー異能犯罪捜査班ー

ちゃば

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File 1 最初の捜査

case3

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「おっはようございまーす!」
「……おはようございます」

 晃がせっせと自分のデスク周りを整備していると、かなりテンションに差のある二人の女性の声が部屋に響き渡った。
 慌てて振り返れば、そこには諜報部の制服を身に付けた女性諜報官達の姿がある。

「おはようございます!」
「やや?! もしや君が噂の新人ちゃんかな?!」

 晃の姿を認め駆け寄ってきた小柄な捜査官は、チャームポイントの八重歯を惜しげも無く披露して満面の笑みを浮かべている。
 ともすれば未成年でも通用する様な幼い顔立ちに前髪を上げた金髪がアンバランスさを醸し出していた。

「はい、本日付で戦闘部に配属になりました百武晃です。よろしくお願いします」
「うんうん、よろしくね! あたしは和智円わちまどか、んでもってこっちがあたしのバディの見境雪子みさかゆきこだよ」

 和智と名乗った童顔の彼女は、一歩背後で立ち止まる自身のバディを紹介する様に前に押し出した。
 消して小さくは無い晃よりも高身長ですらりとした女性は、色素が薄く緩いウェーブがかかった髪に、とろりとした垂れ目、極め付けに左の目の下に泣き黒子があった。
 晃は、まさに絵に描いたような美人を前に、思わず見惚れてしまう。

(うわぁ、綺麗な人……さっきの人もそうだけど、異捜ココってやたら顔面偏差値高くない?)

 雪子は目を見張る晃に近寄ると、すらりとした手を差し出した。

「……よろしく」
「はい、よろしくお願いします!」

(うひゃー、手もすべすべ! うわ、睫毛すごい!)

 平凡な容姿の新人は、稀に見る美人に脳内で転げ回りバシバシと床を叩くいた。美人を愛でるのに聖別なんて関係ないのである。
 しかし当の美人はそんな事を歯牙にもかけず、涼しい顔で晃の手を握っている。

「…………怪力」
「……へっ?」

 驚いて顔を上げる新人に目もくれず、雪子はどこか遠くを見る様な瞳でぼんやりと立っていた。

「……一時的に筋力を引き上げる事で、爆発的な力を使う事ができる……汎用性は高いけど、反動は大きそう……それ相応の武器か防具が必要かも」

 目の前のカンペをスラスラと読み上げる様な態度に晃は目を丸くする。
 何か背後に有るのかと振り返って見ても、先程と変わらぬオフィスが広がっているだけだ。

「えーと、見境さん?」
「基本的にスペックは高いけど、まだ伸び代が……」
「あー、ごめん! 雪子は可視化の異能持ちなの。触った相手の情報をデータ化して読み取れるんだ。ここの捜査官達は大抵雪子に見てもらってトレーニングに活かしてるんだよ」
「な、なるほど」

 聞いたこともない程珍しい能力に言葉が出ない。
 流石諜報部と言った所か。感心しきりの晃から手を離した雪子は、ふぅとため息をついた。

「……確かに便利だけど凄く疲れる。ひとまず今データは後で書類に纏めるから」
「あ、ありがとうございます」

 少し窶れた様な雪子にぺこぺこと頭を下げる後輩を見て、和智はキラーンと目を光らせた。

「それで、それで? こーんな早くから来てるって事は早速バディの紹介とかあったんじゃ無いの?」
「えっ、はい、まあ……」
「やっぱり! で、で? 誰だったの? 大沢おおさわさん? それとも竹本たけもとさん? 晃ちゃんは新人だし、他に面倒見が良い人って言ったら……」
「……意外と剛田さんは?」
「あっはは、ありかもー!」

 楽しそうに予想を立てる二人に、正解を知る晃はげっそりと肩を落とした。
 面倒見が良い人だなんてとんでもない、強烈に愛想の悪い男の姿を思い起こす。

「じゃあ大沢さんでファイナルアンサーね! 晃ちゃん、正解は?!」
「残念ですが、ハズレです」
「ええー! 違うの?! じゃあ誰なのよう!」
「……たしか、篝さんって方ですよ」

 しん、
 先程まで賑やかだった室内が静まり返る。
 あんぐりと大口を開けて静止した和智に晃は首を傾げた。

「どうかしましたか?」
「あ、晃ちゃん、篝とバディなの?」

 沈痛な面持ちの二人を見て、晃の背に嫌な汗が流れる。

(え、何……そんなにマズイ事言った?)

 冷え固まるその場の空気に狼狽える晃の思考を、和智が震える声で遮った。

「ありがとう、晃ちゃん。短い間だったけど、楽しかったよ……」
「……忘れない」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 短いって、今日が初対面ですけど!? いくらなんでも短すぎ……ってそうじゃない! 一体どういう事ですか?!」

 引き攣った笑みを浮かべ去っていこうとする先輩達を、晃は必死の形相で止める。
 その様子を見て二人は億劫そうに足を止めた。拗ねたように唇を尖らせた和智が口を開く。

「だって、篝のバディって間を置かずにバタバタ辞めてくんだもん、仲良くしてたら寂しくなるじゃん」
「……えっ?」
「……最近は腕の良い先輩捜査官と臨時で組ませてたし、そういう人も少ないけどいるから白川さんも諦めたんだと思ってたけど」
「……えっ?」

 次々と明かされる事実に晃の顔が段階を踏んで蒼白になって行く。

(癖のある人間だとは思ってたけど……まさか、そこまでとは)

 配属早々に他部署の人間すら知っている問題児と組まされるなんて思ってもいなかった晃は、思わず片手で目元を覆った。

「つかぬ事を伺いますが、バディって変えられるんでしょうか」
「いや、無理かな」
「……上からの指示は絶対」

 ですよねー、と肩を落とす晃の肩を雪子は無表情のまま叩く。

「……別に篝だけが悪いんじゃない。ちょっとだけ周りよりも才能があって、ちょっとだけ妥協って言葉を知らないだけ」
「まあね、歴代のバディ達も有望株を利用して昇進してやろうって下心アリアリな奴らだったし。いや、それにしたって篝は自己中過ぎだけどね」
「……だから、貴女のやり方次第、でしょ?」

 悪戯っぽく薄く笑う雪子に晃はパッと表情を明るくした。

(そうだよ、怯える必要なんてないじゃない。相手は人間なんだから解り合って、バディとして認識させればいい!)

「はい、頑張ります!」






 ドォォン!!

 体の芯まで響く様な爆音と共に地面がビリビリと揺れる。
 ひたすらに走り続ける晃に、渇き張り付く喉が身体の限界を訴えている。しかし、脚を止める事はできない。

(アイツは……篝伊織は、どこに行ったのよ!?)

 素早く視線を周囲に走らせるが、疲労と焦りに狭まった視界には、目的の人物どころか影すらも入らない。

 ただ、整然と並べられたコンテナ群の隙間を縫う様にして相棒の姿を探す。

(ほんと、勘弁して!)

 限界を迎え、どさりと一つのコンテナに身を隠す様にして座り込む。
 ゼェゼェとよく分からない異音の混ざる呼吸を落ち着かせながら、ゆっくりとした動きで腕に装着している端末を覗き込んだ。

 デジタル表示の数字が無情にも十から九に変わり、少なくなった制限時間を伝えている。

 晃はガシガシと頭を掻きむしりながら、不覚にもこんな状況に陥った経緯を思い起こす。
 脳裏に浮かぶのはにこやかな白川さんと、相変わらず口の悪いバディの嫌味な程端正な顔だった。

(やっぱり、あんな奴とわかり合うなんて無理!!)

 またどこかで爆音が響く。
 晃は絶望を顔に貼り付けて粉塵立ち込める空を見上げた。






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