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部品の復讐(六章)

259.望んだ地獄、望まぬ天国②

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「俺の後悔は…お前の逆だ。村のみんなを…兄貴の事を忘れてしまったことが後悔なんだ。なんであんなに大事な人達を忘れてしまったんだろうって、全て思い出した日から毎晩のように考えてる。」

そのせいで…苦しんでいるのに…。
その思いをそのまま彼に伝えた。

「それは、お前は苦しむことを望んでいるってことだぞ!」

「ああ、そうだ。忘れたままの方が良かったなんて思わない。…もし覚えていたら兄貴を救えたかもしれない。けど、今までみたいに陽気な自分でいられなかったかもしれない。」

俺は一概に…彼の意見を否定も肯定もできない。

アルスは昔の俺とは真逆の存在だ。こいつを否定してしまえば…俺のやった事が虚しくなるだけだ。肯定してしまえば、苦しみから逃れることはできなくなる。

枯れた果てたあの場所…彼女とつけるはずだったネックレス。
今でも大切にしている三本のひまわり…。

あの時の選択を変えてしまえば、なんとも思わない思い出の数々が俺を地獄へと後押しする。

「………なんにしろ…お前がやる必要はあるのか?十分な証拠…いや、検討が着いているならもう集まっているだろ。兵士に通報とか…。」

「ならさっさと捕えるはずだ…。何ヶ月か前に、新聞で自室に目を集めていた奇妙な事件があったはずだ。それなのに…その犯人は捕まっていない。それが奴だ。」

「じゃあ、政府関連ってことか。」

「その通りだ。…何回も何十回も言った。それでもまともに調査はされなかった…。だって存在自体が忘れ去られるから仕方ない。法で裁けないから俺が裁くんだ。」

「だから!それをお前がやる必要は…――」

「誰かがやらなくちゃいけないんだよ!!そうじゃないと…いっぱい死んじまう…。」

もっと早く決断をしておけば…もう少し復讐に本気になれていたら…こんなに後悔することなんてなかった。それなのに…アルス達と同じ場所、同じ話をするのは、あまりにも楽しすぎたんだ。

「彼女さんの為に…今生きている人の為に…なんて、復讐を肯定する言い訳に過ぎない。もっと言えば、人殺しを肯定する理由が欲しいんだろ?」

「……」

「俺だって、許されるなら殺してやりたい人間はいる。過去に精算をつけるためか何かは知らんが…。許されない事は、たとえどんな理由があろうとも許されないから、許されない事なんだろ?」

彼を目の前に、俺は何も言えなくなってしまった。
こくりと頷くばかりで、何も、何も、心の中ですら何も言えない。

「…ラーラも、レイも、コルも、過去に精算をつけて、前向きに生活を楽しんでいたよ。…過去の関係を解消して、前向きに生きられるなら復讐を完遂しろ。それが出来ないなら俺達を頼れ。生きて嘆く前にな。」

その時だった。ナットが決断してくれたのは。
パリンッ
音を鳴らして周囲に飛び散るガラス。そして…毒薬。

「…アルス、黙って出ていって…ごめんっ!!」
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