マインドファイターズ

2キセイセ

文字の大きさ
上 下
255 / 281
部品の復讐(六章)

255.開けられた宝箱③

しおりを挟む
後日。前に貰った三本のひまわり。ま、そういう事なんだろう。
あの時、あの瞬間が忘れられない。今でもそれを思い出して浸っている自分がちょっと気持ち悪い。

さあ、お返しをしなきゃだな。そう思い立って俺は出かけた。
さあ何をアデルにあげよう。

なにかのぬいぐるみか…いやあれはクソ高ぇな。予算が限られてんだ。
指輪…はまだまだ先の話だな。

「…ハァ!」

贅沢な悩みだ、あの頃には無かったものを俺は全て手に入れた。幸せを噛み締めていた。
ルンルン気分でスキップが弾む弾む。

雑貨店、宝石店、服屋に靴屋。色んな場所を見て回って…。
最終的には、ハートのネックレスにした。
幸福と愛情を意味するネックレスは俺とアデルにはピッタリだと思ったからだ。

ペアルックってやつに憧れた俺は、ネックレスを2つ買った。
予算ギリギリ、もう野菜を買う金もない。

…まっ、俺だけがつけることになるんだけどさ。

家の扉の前に立つと微かに彼女の声が聞こえた。
何か嫌な予感がしていた。

そして俺は扉を開ける。いつもなら丁寧に並べられている靴は今日に限ってぐちゃぐちゃだ。

そして俺はアデルの元にまっすぐ向かう。
ドタドタと足音を鳴らしながら…。




「……は?」

そこに居たのは、腹に深い刺し傷があるアデルだった。
鼻に来る鉄分の匂いか?赤黒い血が少し吹き出しているのがか?
何が原因かも分からない反吐が出そうだ。

嘘だ。嘘だ。嘘だ。
きっと悪夢でも見てしまったんだ。
夢みたいな昨日と、悪夢みたいな今日は交差する。
その落差で…俺はもう…。

「…ナット…聞いて。」

微かに聞こえた彼女の声に耳を傾ける。

「手を…見て、消えかけてるでしょ?」

言われるがままに彼女の手を見る。それは比喩でもなんでもなく、光となって消えそうであった。

「…私はこのまま消えちゃう、そして…誰の記憶からも消える。…もう、"お父さんとお母さんが思い出せないもん。"」

言っている意味がわからない。いくら…いくら俺がオカルト好きだからって…そんなこと信じるわけが無い。
嘘なんだな、そうなんだな!

「嘘…つけよ、だいたいそんな話、冗談にも程がある!!なぁ!だって…なんだよ思い出せないって。今から俺がお前の父親の名前……言って…や、ろうか?」

あれ…。なんでだ。アデルに両親っていたっけ?
いや…いるはずだ…。ああ、彼女の言ったことは本当なんだな。
そんな…馬鹿げた…話。

「"心物"って……都市伝説だと思ったよ…実際に、あるとは…ね。」

「………!!」

残酷にも、運命は俺から全てを奪うつもりだ。
孤独を埋めてくれて、勇気をだして告白してくれた彼女も…キザな返事をしたかった俺のハートのネックレスも、その記憶さえも…。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

少年少女たちの日々

原口源太郎
恋愛
とある大国が隣国へ武力侵攻した。 世界の人々はその行為を大いに非難したが、争いはその二国間だけで終わると思っていた。 しかし、その数週間後に別の大国が自国の領土を主張する国へと攻め入った。それに対し、列国は武力でその行いを押さえ込もうとした。 世界の二カ所で起こった戦争の火は、やがてあちこちで燻っていた紛争を燃え上がらせ、やがて第三次世界戦争へと突入していった。 戦争は三年目を迎えたが、国連加盟国の半数以上の国で戦闘状態が続いていた。 大海を望み、二つの大国のすぐ近くに位置するとある小国は、激しい戦闘に巻き込まれていた。 その国の六人の少年少女も戦いの中に巻き込まれていく。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

アロマおたくは銀鷹卿の羽根の中。~召喚されたらいきなり血みどろになったけど、知識を生かして楽しく暮らします!

古森真朝
ファンタジー
大学生の理咲(りさ)はある日、同期生・星蘭(せいら)の巻き添えで異世界に転移させられる。その際の着地にミスって頭を打ち、いきなり流血沙汰という散々な目に遭った……が、その場に居合わせた騎士・ノルベルトに助けられ、どうにか事なきを得る。 怪我をした理咲の行動にいたく感心したという彼は、若くして近衛騎士隊を任される通称『銀鷹卿』。長身でガタイが良い上に銀髪蒼眼、整った容姿ながらやたらと威圧感のある彼だが、実は仲間想いで少々不器用、ついでに万年肩凝り頭痛持ちという、微笑ましい一面も持っていた。 世話になったお礼に、理咲の持ち込んだ趣味グッズでアロマテラピーをしたところ、何故か立ちどころに不調が癒えてしまう。その後に試したノルベルトの部下たちも同様で、ここに来て『じゃない方』の召喚者と思われた理咲の特技が判明することに。 『この世界、アロマテラピーがめっっっっちゃ効くんだけど!?!』 趣味で極めた一芸は、異世界での活路を切り開けるのか。ついでに何かと手を貸してくれつつ、そこそこ付き合いの長い知人たちもびっくりの溺愛を見せるノルベルトの想いは伝わるのか。その背景で渦巻く、王宮を巻き込んだ陰謀の行方は?

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

処理中です...