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最終章
274.正義の患者④
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極悪人は嫌いだ。
俺はあの日、俺が初めて殺人を犯した時のムーナの笑顔が忘れられなかった。犯罪者はなんで治療しなくちゃいけないんだろう。犯罪者は俺達医者の敵だ。
ある1件だった。近所に住んでる女の子、ムーナの両親を殺した男達を治療することになった。どうやら、男達は爆発物を投げて遊んでいたら自爆したらしい。笑えるよな。…彼らはムーナという1人のいたいけな少女の笑顔を消し去った極悪人だった。
だが、俺は医者だ。どんな人でも治療してやる。それが務めである、なんて思っていた。だがどうしても気が乗らない。
大きな病院に出勤している途中、その手術を行う前、ムーナと会った。そして彼女はこんなことを聞いてきた。
「本当に治療するの?」
俺は無表情に返す。
「するさ、医者だから。」
彼女は戸惑いの表情を浮かべた。
「……なんで殺さないの?お母さんとお父さんは何もしていないのに死んで、なんであいつらは生かされるの?」
…そんな事、忘れていた。無理に忘れていたんだ、被害者の気持ちを考えると手術ミスをしてしまいそうになるから。俺は無言で返した。
だが彼女は次に爆弾を投下する。
「私ね、あいつら殺したい。殺して欲しい。」
俺は絶句した。今ムーナが言ったことは意外なことであり、予想はできたものだった。すると彼女は続けてこう言った。
「ミシェル兄ちゃんもそうだよね。」
「犯罪者の手術をしている時、被害者を思い浮かべると、手が揺らぐことはあるよ。」
そう返すと、彼女は無言を返した。俺はこれ以上詮索はせず、手術室へと向かった。
急いで入った手術室、手術用の木製テーブルの上。そこにはムーナの両親を殺した醜い人が目をつぶり横たわっていた。…治療すればこいつらは裁判にかけられる…が、どうせ問われる罪は爆発物を使った罪ぐらい。殺人が問われることは無いだろう。
手は揺らぐ、あの言葉が忘れられない。
手術自体は本当に簡単で、ただの単調な作業。俺ならできて当たり前だろう。なのに、手が震えてしょうがない…。
手術は終わった。その日、俺は初めて人を殺した。俺の犯した初めて手術ミスは意図的なものなのかは、俺にすら分からなかった。
だが…今に思う。人を殺すのは最悪な気分だ。救いを与える俺の両手は泥を被った。足を洗ったとしても、手は洗えてない。罪が消えることは無い。
今日の仕事を終えて、自分の家に帰る。そうすれば気が楽になる。最後の晩飯のスープを食べたら自首しよう。人殺しの俺がするのは当然だ。
鍵を開け、ドアを開ける音と同時に隣からドタドタと家を駆け回る音が聞こえる。
「手術、成功したんでしょ?じゃああいつらは普通に生活できるの?」
ムーナは玄関にいる俺に話しかけた。俺は重い瞼を開けながら言う。
「……いや、殺したよ。」
「……え?…そうなの!?」
その時、ムーナは初めて笑顔を見せた。
それは両親が死んでから見せなくなった笑顔だ。
人殺しを肯定してはいけない。俺が1番分かっていなかった。
だが、その笑顔に救われてしまったんだ。
人を殺して笑顔になる人がいる、直面した事実。
善人の笑顔を治すために、悪人を殺さなくてはいけない。
俺はこれをやり続けた。
極悪人を治療する時は殺す。その度、被害者は喜ぶ。
悪人を治療する時は殺す。その度、半数の被害者は喜ぶ。
極悪人を殺しにいく。その度、被害者の喜ぶ姿を想像する。
そしてある男の理想の為に人を殺す。その度、平和な世界を想像する。表向きで偽りの平和だとは想像できなかった。
時が経つにつれて俺は命の天秤を壊していた。
もう気がついたろ…。昔の俺は、今の俺を殺したがる。
俺はあの日、俺が初めて殺人を犯した時のムーナの笑顔が忘れられなかった。犯罪者はなんで治療しなくちゃいけないんだろう。犯罪者は俺達医者の敵だ。
ある1件だった。近所に住んでる女の子、ムーナの両親を殺した男達を治療することになった。どうやら、男達は爆発物を投げて遊んでいたら自爆したらしい。笑えるよな。…彼らはムーナという1人のいたいけな少女の笑顔を消し去った極悪人だった。
だが、俺は医者だ。どんな人でも治療してやる。それが務めである、なんて思っていた。だがどうしても気が乗らない。
大きな病院に出勤している途中、その手術を行う前、ムーナと会った。そして彼女はこんなことを聞いてきた。
「本当に治療するの?」
俺は無表情に返す。
「するさ、医者だから。」
彼女は戸惑いの表情を浮かべた。
「……なんで殺さないの?お母さんとお父さんは何もしていないのに死んで、なんであいつらは生かされるの?」
…そんな事、忘れていた。無理に忘れていたんだ、被害者の気持ちを考えると手術ミスをしてしまいそうになるから。俺は無言で返した。
だが彼女は次に爆弾を投下する。
「私ね、あいつら殺したい。殺して欲しい。」
俺は絶句した。今ムーナが言ったことは意外なことであり、予想はできたものだった。すると彼女は続けてこう言った。
「ミシェル兄ちゃんもそうだよね。」
「犯罪者の手術をしている時、被害者を思い浮かべると、手が揺らぐことはあるよ。」
そう返すと、彼女は無言を返した。俺はこれ以上詮索はせず、手術室へと向かった。
急いで入った手術室、手術用の木製テーブルの上。そこにはムーナの両親を殺した醜い人が目をつぶり横たわっていた。…治療すればこいつらは裁判にかけられる…が、どうせ問われる罪は爆発物を使った罪ぐらい。殺人が問われることは無いだろう。
手は揺らぐ、あの言葉が忘れられない。
手術自体は本当に簡単で、ただの単調な作業。俺ならできて当たり前だろう。なのに、手が震えてしょうがない…。
手術は終わった。その日、俺は初めて人を殺した。俺の犯した初めて手術ミスは意図的なものなのかは、俺にすら分からなかった。
だが…今に思う。人を殺すのは最悪な気分だ。救いを与える俺の両手は泥を被った。足を洗ったとしても、手は洗えてない。罪が消えることは無い。
今日の仕事を終えて、自分の家に帰る。そうすれば気が楽になる。最後の晩飯のスープを食べたら自首しよう。人殺しの俺がするのは当然だ。
鍵を開け、ドアを開ける音と同時に隣からドタドタと家を駆け回る音が聞こえる。
「手術、成功したんでしょ?じゃああいつらは普通に生活できるの?」
ムーナは玄関にいる俺に話しかけた。俺は重い瞼を開けながら言う。
「……いや、殺したよ。」
「……え?…そうなの!?」
その時、ムーナは初めて笑顔を見せた。
それは両親が死んでから見せなくなった笑顔だ。
人殺しを肯定してはいけない。俺が1番分かっていなかった。
だが、その笑顔に救われてしまったんだ。
人を殺して笑顔になる人がいる、直面した事実。
善人の笑顔を治すために、悪人を殺さなくてはいけない。
俺はこれをやり続けた。
極悪人を治療する時は殺す。その度、被害者は喜ぶ。
悪人を治療する時は殺す。その度、半数の被害者は喜ぶ。
極悪人を殺しにいく。その度、被害者の喜ぶ姿を想像する。
そしてある男の理想の為に人を殺す。その度、平和な世界を想像する。表向きで偽りの平和だとは想像できなかった。
時が経つにつれて俺は命の天秤を壊していた。
もう気がついたろ…。昔の俺は、今の俺を殺したがる。
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