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全面戦争 急(五章)
247.葬送
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「ああ!」
この場に倒れ込んだコルの意志を、明日に持っていくために俺は走った。フロスとの決着をつける為、たった一つの《避役の長棒》を握り、片手剣を作り、奴を狙った。
「立ち直った…か。なら、もう一度地獄に落としてやるよォ!!」
スっ…と、フロスもたった一つの《亜空の戦斧》を拾い上げて、構えていた。地獄で蓄えられた昨日までの意志をここで終わらせるために。奴を狙った。
ドンッ!
互いに1歩、大きく踏み出す。二重に鳴る足音を挟んで、両者は睨み合った。
「俺は、もう失うわけにはいかないんだ!!」
「だから全部奪ってやるんだよぉ!!」
そう2人は目線で火花を、言葉で熱意を撒き散らした。
背中に守るべきもの、そして前には《もう一対の手》という仲間の残骸がある弟、目の前に殺すべきものがある兄。
両者は腹を括り、次の攻撃に全てをかけた。
「……ッ!」
だが、フロスは全てを乗せれなかった。その瞬間、フロスが目にとらえたのは、《もう一対の手》から亡霊のように現れたラーラの姿…。しかし、彼は"動じず"それの首を切り裂いた。
「……はっ!!」
ブンッッ!!………。
その時点で動じていた。ラーラの姿は半透明であり、刃は通り抜けていた。それにより、アルスに刃は届かなかった。
冷静に思えば、"ガファーの死刑執行の時に、心物から所有者の幻覚が現れる事は分かっていた。亜空間越しで見えていた。"
「うらああ!!」
彼女の最後の抵抗によって、生まれた刹那をアルスは無駄にはしなかった。
「…グ…ハァ!」
グサッ!剣を差し込み、フロスの腹に大きな風穴が空いた。そして抜いた。そこから見える赤色のフィルターがかかった道は、まるで彼を表していた。
彼は血を吐いて、後ろに倒れ込んだ。
「…ありがとう、ラーラ。」
アルスはそう言った。完全に石化した《もう一対の手》を見て哀悼の意を表してやると、心の中で誓った。
そして、「みんな…長生きしてね。」ともうここには居ない仲間に言われた。
そうしているのもつかの間、フロスは寝そべりながら最後の力を振り絞ってアルスへの罵詈雑言を続けた。
「…アルス。…お前は、実の兄を殺した。たった一人の、ここまで育てた…命の…ゲホッ…恩人を。」
「ああ、そうだ。」
アルスの澄んだ瞳は、透明で綺麗な絵では無く。赤で塗られた炎のようなものでも無かった。画家の作りあげた絵を黒で塗りつぶしたような目をしていた。
「仲間も守れない、兄も殺した。…嫌ならとっとと死ねよ。地獄で待っててやる。クズが…。」
「その通りだ、俺はクズだ。俺はお前と話して分かり合えるほど、聖人ではなく強くもない。だから殺した。」
「そうだ…!!お前は兄を殺したんだぞ!!」
「…お前を殺すのに抵抗は無かった。俺はお前に何を言われようと、もう何も思わない。壊れた物をさらに壊しても意味は無いぞ。"…せめて来世があるなら、いい環境で育ってくれ。"」
いい環境…か。俺も環境が違えば、アルスみたいな人間になれたんだろうか……?
そうか。ずっと、アルスに嫉妬していたんだ。幸せなアルスに、何も知らないアルスに。
こんな事をした兄にも、同情し、慈悲をかけれる優しい弟に…。
だから他人の幸せを奪った。楽しかった、満足していた。だが…それは幸せか?違うだろ…望んだ未来とは。
もう歪んた。だから嫉妬の消し方も歪んだ。
幸せを掴み取る方法も歪んだ。
だから……最期の本音も歪んだ。
「…お前はやっぱり…気持ち悪い………。」
フロスはゆっくりと目を閉じながら、1つ考え事をしていた。
アルス…俺はただ、お前を好きになりたかった。嫌悪感を抱きたくなかった。それと、嫉妬したく無かった。醜い感情に支配されて、ただただ快だけを感じていたくなかった。
そのためには…何が必要だったんだ?
お前は知っていたんだな…アルス。
この場に倒れ込んだコルの意志を、明日に持っていくために俺は走った。フロスとの決着をつける為、たった一つの《避役の長棒》を握り、片手剣を作り、奴を狙った。
「立ち直った…か。なら、もう一度地獄に落としてやるよォ!!」
スっ…と、フロスもたった一つの《亜空の戦斧》を拾い上げて、構えていた。地獄で蓄えられた昨日までの意志をここで終わらせるために。奴を狙った。
ドンッ!
互いに1歩、大きく踏み出す。二重に鳴る足音を挟んで、両者は睨み合った。
「俺は、もう失うわけにはいかないんだ!!」
「だから全部奪ってやるんだよぉ!!」
そう2人は目線で火花を、言葉で熱意を撒き散らした。
背中に守るべきもの、そして前には《もう一対の手》という仲間の残骸がある弟、目の前に殺すべきものがある兄。
両者は腹を括り、次の攻撃に全てをかけた。
「……ッ!」
だが、フロスは全てを乗せれなかった。その瞬間、フロスが目にとらえたのは、《もう一対の手》から亡霊のように現れたラーラの姿…。しかし、彼は"動じず"それの首を切り裂いた。
「……はっ!!」
ブンッッ!!………。
その時点で動じていた。ラーラの姿は半透明であり、刃は通り抜けていた。それにより、アルスに刃は届かなかった。
冷静に思えば、"ガファーの死刑執行の時に、心物から所有者の幻覚が現れる事は分かっていた。亜空間越しで見えていた。"
「うらああ!!」
彼女の最後の抵抗によって、生まれた刹那をアルスは無駄にはしなかった。
「…グ…ハァ!」
グサッ!剣を差し込み、フロスの腹に大きな風穴が空いた。そして抜いた。そこから見える赤色のフィルターがかかった道は、まるで彼を表していた。
彼は血を吐いて、後ろに倒れ込んだ。
「…ありがとう、ラーラ。」
アルスはそう言った。完全に石化した《もう一対の手》を見て哀悼の意を表してやると、心の中で誓った。
そして、「みんな…長生きしてね。」ともうここには居ない仲間に言われた。
そうしているのもつかの間、フロスは寝そべりながら最後の力を振り絞ってアルスへの罵詈雑言を続けた。
「…アルス。…お前は、実の兄を殺した。たった一人の、ここまで育てた…命の…ゲホッ…恩人を。」
「ああ、そうだ。」
アルスの澄んだ瞳は、透明で綺麗な絵では無く。赤で塗られた炎のようなものでも無かった。画家の作りあげた絵を黒で塗りつぶしたような目をしていた。
「仲間も守れない、兄も殺した。…嫌ならとっとと死ねよ。地獄で待っててやる。クズが…。」
「その通りだ、俺はクズだ。俺はお前と話して分かり合えるほど、聖人ではなく強くもない。だから殺した。」
「そうだ…!!お前は兄を殺したんだぞ!!」
「…お前を殺すのに抵抗は無かった。俺はお前に何を言われようと、もう何も思わない。壊れた物をさらに壊しても意味は無いぞ。"…せめて来世があるなら、いい環境で育ってくれ。"」
いい環境…か。俺も環境が違えば、アルスみたいな人間になれたんだろうか……?
そうか。ずっと、アルスに嫉妬していたんだ。幸せなアルスに、何も知らないアルスに。
こんな事をした兄にも、同情し、慈悲をかけれる優しい弟に…。
だから他人の幸せを奪った。楽しかった、満足していた。だが…それは幸せか?違うだろ…望んだ未来とは。
もう歪んた。だから嫉妬の消し方も歪んだ。
幸せを掴み取る方法も歪んだ。
だから……最期の本音も歪んだ。
「…お前はやっぱり…気持ち悪い………。」
フロスはゆっくりと目を閉じながら、1つ考え事をしていた。
アルス…俺はただ、お前を好きになりたかった。嫌悪感を抱きたくなかった。それと、嫉妬したく無かった。醜い感情に支配されて、ただただ快だけを感じていたくなかった。
そのためには…何が必要だったんだ?
お前は知っていたんだな…アルス。
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