マインドファイターズ

全面戦争 前夜（五章）

198.マーズ村④

私が《次元の眼》を手に入れたその日ぐらいのこと。
村で大事件が起きていた。

 「あぁ…ああ！！ぁぁぁぁぁあ！！」

住民が幻覚に苦しめられていた…突如だ。
昨日まで私に挨拶してくれた若い男の人、昨日まで元気に走り回っていた女の子。そんな人達がなんの前触れもなく幻覚や幻聴に苦しめられる。

私は考えていた、もしかすると前の私のように謎の物体が現れて試している人がいるのかも…。

「…怖いなぁ」

店を開き、いつものように商売をしていると、ボソッと、声が漏れてしまった。

恐怖を感じながら、今日の商売を終わらせ帰るところだった。

玄関に立ち、ドアを開け…。

「うわっ！」

ドアの取っ手を掴む瞬間、自分の手が透けていたのか取っ手を通り抜けたのだ。つい声を出して、転びそうになった。

「…え？」

そして、違和感に気がつく。
取っ手と同時にドアもすり抜けた。ドアを通り抜けた先にあるのは、毎日見ていて見慣れている家。

何が起こった…。

コルは完全に思考を停止してしまった。状況の理解より先に本能が働き後ずさりをした。

「おかえり、コル」

そんな私を引き戻すかのように、父の優しい声が私を誘う。
普段、察しは悪い方だが…私の中の直感が悟っていた、私は今、幻覚の件に直面している、と。

「…！」

そう気づいた時にはもう既に後ろを振り返り、この場を走り去ろうとしていた。しかし…。

「っ！」

後ろにいた。人がいたんだ。
片手で大きな戦斧を担いで、目つきの悪い紫髪の人が。

「…あの！"フロス"さん！助けてください！」

最近引っ越した人に、私は助けを求めた。どんな人かも分からないし、正直、少し苦手意識のある人であったがそんなの関係ない。誰でもいいから助けて欲しかった。

「…」

「…？」

「…まだ試してないこと…は」

フロスさんはそう呟いて、指で数を数え始めた。
…話しかけた時、私は彼にとんでもないほどの嫌悪感を抱かれている事を悟った。

「あの…助けっーー」

「俺がやったのに助けるわけないじゃん。」

ニヤッと笑い、私を嘲笑うかのようにフロスはこの場から消えた。そして…その時に気がついた。あいつだ、あいつが幻覚を見せている犯人だ。

それと同時に、息ができなくなった。
これから私にも幻覚を見せられるんだ、怖い、怖いっ！
もう恐怖が脳を支配して、まともに考えられたい。常に怖いが付きまとい……。

「うっ！」

始まった。
………ああ、ダメだ。虫が這いつくばってくる、ゾワゾワと足や手を伝って胸の辺りまで上昇してくる。気持ちが悪い。その後口の中が、ゴモゴモとして……ああ、吐き気がする。

「っはぁ！はぁ…はぁ…」

地面に手を付き、顔を下に向けてよだれが無意識に出てしまうコルを、フロスが鑑賞していた。

「マジでコイツ凄いなぁ、もう1つ試してみて良かったわ。」

と言って、フロスは戦斧を撫でながら感心していた。