93 / 281
制圧編(ニ章)
93.喧嘩に決着を
しおりを挟む「おかえりなさいませ、アンセル様」
「ただいま、プリシラ」
玄関で出迎えた私に、アンセル様が微笑む。
いつもと同じ、文句のつけようのない王子様スマイルなのだけれど、疲れているようだ。
アンセル様には先に一人で部屋に戻ってもらい、私は調理場に向かった。料理人に断って、お茶を入れさせてもらう。疲れが取れるようにハーブティーにはちみつを入れて、アンセル様は甘いものが苦手なのでスパイスも加えた。
それを持って部屋に戻る。
「アンセル様、よろしかったらどうぞ」
私が差し出したカップを受け取ったアンセル様は、なぜか目を見開いた。
「スパイス……」
「?甘いものお嫌いですから入れてみたんですが、だめでした?」
スパイスの入った料理は召し上がっているけれど、スパイスティーはお嫌いだったのかも?
癖があるから、苦手な人は苦手だものね。
心配になったけれど、アンセル様はすぐに微笑んでくれた。
「いや……ありがとう」
アンセル様はお茶を一気に飲みほした。空になったカップをテーブルに置く。
「美味しかったよ、プリシラ」
「それはよかったです。またお入れしますので、いつでも言ってください」
「……僕、疲れているように見えた?」
私の肩に、アンセル様が頭をことん、と置く。
私に甘えるようなしぐさをするのは珍しい。
「え、ええ。少しですけれど」
この若さで会社を経営なさってるんですもの。疲れるのは当然だ。私には見せないようにしてくれているけれど。
「私、頼りないかもしれないですけど、一応年上ですし妻ですからつらいときはおっしゃってください。できることはあまりないかもしれないですが」
言ってから気がついたけど、本当私できることないかも……。
こうやってお茶を入れる、とかお話を聞くくらいしかできない。しかも本当に話を聞くだけで、気の利いたアドバイスなんかは絶対にできない。
ウォルトなら頼りになる大人の男性なので、いい返しができそうだけれど。
「なんだと?」
アンセル様が顔を上げた。額には青筋が立ってる。
え? 何?
「も、もしかして口に出してました?」
「出していた」
かと言ってアンセル様がそんなお顔するようなことは言っていないんだけど?
「僕の前で、二度と他の男の名を口にするな」
「え?ウォルトですよ。執事ですよ。ややこしい感情なんか微塵もありませんし、向こうも迷惑ですよ?」
ウォルトの好みは年上らしいので、そもそも私なんか主人だから以前に問題外だ。アンセル様が落ち着くようにとそう言ったけれど、私の言葉だけでは安心できなかったようだ。
「当たり前だ。特別な感情があれば、ウォルトを殺しているところだ」
「……殺……」
アンセル様の表情はいたって真面目で、冗談を言っているようには見えない。
うわぁぁぁ。
もしも浮気なんかした日にはとんでもないことになりそう!
アンセル様一筋だからしないけど。
「プリシラができることはたくさんある。例えば」
「例えば?」
アンセル様がベッドの端に座った。
「もうおやすみですか? お食事は?」
「後でいい。おいで、プリシラ」
微笑んだアンセル様が膝を軽くたたく。
「はい」
私も微笑んで、大人しくアンセル様に背中を預けるように座った。向かい合わせはなんか、は、恥ずかしいので。
「ただいま、プリシラ」
玄関で出迎えた私に、アンセル様が微笑む。
いつもと同じ、文句のつけようのない王子様スマイルなのだけれど、疲れているようだ。
アンセル様には先に一人で部屋に戻ってもらい、私は調理場に向かった。料理人に断って、お茶を入れさせてもらう。疲れが取れるようにハーブティーにはちみつを入れて、アンセル様は甘いものが苦手なのでスパイスも加えた。
それを持って部屋に戻る。
「アンセル様、よろしかったらどうぞ」
私が差し出したカップを受け取ったアンセル様は、なぜか目を見開いた。
「スパイス……」
「?甘いものお嫌いですから入れてみたんですが、だめでした?」
スパイスの入った料理は召し上がっているけれど、スパイスティーはお嫌いだったのかも?
癖があるから、苦手な人は苦手だものね。
心配になったけれど、アンセル様はすぐに微笑んでくれた。
「いや……ありがとう」
アンセル様はお茶を一気に飲みほした。空になったカップをテーブルに置く。
「美味しかったよ、プリシラ」
「それはよかったです。またお入れしますので、いつでも言ってください」
「……僕、疲れているように見えた?」
私の肩に、アンセル様が頭をことん、と置く。
私に甘えるようなしぐさをするのは珍しい。
「え、ええ。少しですけれど」
この若さで会社を経営なさってるんですもの。疲れるのは当然だ。私には見せないようにしてくれているけれど。
「私、頼りないかもしれないですけど、一応年上ですし妻ですからつらいときはおっしゃってください。できることはあまりないかもしれないですが」
言ってから気がついたけど、本当私できることないかも……。
こうやってお茶を入れる、とかお話を聞くくらいしかできない。しかも本当に話を聞くだけで、気の利いたアドバイスなんかは絶対にできない。
ウォルトなら頼りになる大人の男性なので、いい返しができそうだけれど。
「なんだと?」
アンセル様が顔を上げた。額には青筋が立ってる。
え? 何?
「も、もしかして口に出してました?」
「出していた」
かと言ってアンセル様がそんなお顔するようなことは言っていないんだけど?
「僕の前で、二度と他の男の名を口にするな」
「え?ウォルトですよ。執事ですよ。ややこしい感情なんか微塵もありませんし、向こうも迷惑ですよ?」
ウォルトの好みは年上らしいので、そもそも私なんか主人だから以前に問題外だ。アンセル様が落ち着くようにとそう言ったけれど、私の言葉だけでは安心できなかったようだ。
「当たり前だ。特別な感情があれば、ウォルトを殺しているところだ」
「……殺……」
アンセル様の表情はいたって真面目で、冗談を言っているようには見えない。
うわぁぁぁ。
もしも浮気なんかした日にはとんでもないことになりそう!
アンセル様一筋だからしないけど。
「プリシラができることはたくさんある。例えば」
「例えば?」
アンセル様がベッドの端に座った。
「もうおやすみですか? お食事は?」
「後でいい。おいで、プリシラ」
微笑んだアンセル様が膝を軽くたたく。
「はい」
私も微笑んで、大人しくアンセル様に背中を預けるように座った。向かい合わせはなんか、は、恥ずかしいので。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる