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執着王子の唯一最愛~ヒロインは王子の異常性を知らない~
しおりを挟む「ジャンヌ・オルティア!今日をもって第1王子ジョシュア・アークハインツとの婚約を破棄してもらおう!」
学園が主催する夜会の最中《さなか》、舞台に上がりそう言い放ったのは黒髪に青い瞳の整った容姿を持つこの国の第2王子であるルーカス・アークハインツだ。その背後には殿下と同じく容姿の整った男子生徒が数人控え、王子の傍にはストロベリーブロンドの髪をふわふわと揺らした少女が眉を下げ怯えた様にピッタリと張り付いている。
それに対峙するのは、第1王子の婚約者であるジャンヌ・オルティア。白銀の美しい髪と神秘的な紫の瞳を持つネイルジュ王国筆頭公爵令嬢だ。
いきなり名前を呼ばれたジャンヌは、それまで楽しく喋っていた友人達との会話を切り上げ冷ややかな目を舞台に向けた。
「…ルーカス殿下、その発言はこの場に相応しくありません。そもそもジョシュア様はお許しになられましたの?」
「ええい!うるさい!貴様の様な悪女を糾弾する事を兄上が認めぬわけがないだろう!」
やはりジョシュアの意図した出来事ではないらしい。現在ジョシュアは学園長に呼ばれて席を外している。
「わかりました。そのお話はジョシュア様も交えて後日お聞きしますので…」
「言い逃れをするつもりか!?」
ルーカスは噛みつきそうな勢いで吠える
どうしてもこの茶番劇を続けたい様だ
「お前が嫉妬からリリィを虐めているのはもうわかってるんだ!」
「…はぁ、そんな事してません。事実無根です。」
「白々しい嘘はやめろ!」
「わ、わたし怖かったです。ジョシュア様と私の仲が良いからって突き飛ばされたり、物を隠されたり、して、ひっく」
そう緑の瞳を潤ませルーカスにすがりついたのはリリィ・ハピナス男爵令嬢だ。
その何とも加護欲をそそられる姿に触発された取り巻きの男達がジャンヌを責め始める
「貴女の様な人はジョシュア様に相応しくない!」
「リリに謝れ」
「身分を笠に着てやりたい放題とは醜いですね」
そのやり取りを終始冷めた目で見ていたジャンヌは冷静に言った
「口を慎みなさい。いくら貴方達が否定しようと私は第1王子の婚約者であり次期王妃です。貴方達が侮辱できる身分の者ではありません。貴方達の家には正式に抗議させて頂きます。」
ジャンヌの正論に一瞬悔しげに顔を歪めたルーカスだったがすぐにニンマリと笑うと
「何が次期王妃だ!次期王妃はリリィがなるんだからお前には名乗る資格はない!」
「なんですって?」
ここで初めてジャンヌの顔色が変わった
その変化を見逃さなかったルーカスが畳み掛ける。
「お前も知ってるだろう?光属性持ちがこの国にとってどれだけ貴重で大切な存在か。」
「まさか」
「そう!リリィは500年振りに光属性を発現した特別な子なんだ!リリィこそ兄上の妃に相応しい!」
このネイルジュ王国では光属性を持つ者は神の愛し子と神聖視されており、過去現れた愛し子は漏れなく王妃の座に収まっていた。
やられた。妙に自信ありげだったのは光属性という絶対の切り札があったからだったのね。
無駄だと思いつつも言葉を続ける
「光属性の出現は国から知らされるはずですが?私はまだ報告を受けてません。それに本当に光属性持ちだというのなら体の何処かにある筈の紋章を見せられますか?」
「今朝出現したんだ。今頃陛下も報告を受けている頃だろうな?お前は兄上の婚約者というのをいいことにやりたい放題やっていただろうがそれも今日これまでだ!リリィ紋章をみせてやれ!」
「はい!これを見てください」
ルーカスに言われたリリィは、手につけていた手袋を片方スルリと外し右手の甲にくっきりと浮かぶ薔薇の花の紋章を掲げた。
その紋章は間違いなく伝承通り神の愛し子の証だった。
その瞬間、今までジャンヌに同情の視線を向けていた周囲の視線が敵意に変わるのを感じた。ざわめきが広がる
それに気分を良くしたルーカスは続ける
「これでもまだ信じないか?」
「たとえそうだとしても、陛下やジョシュア様が決定を下さない限り私が婚約者です。第2王子殿下に決定権はございません。」
絶望的な状況でも公爵令嬢らしく凛とした姿でそう宣言するジャンヌ
「黙れ!愛し子は王妃になると決まってるんだ!未来の王妃を虐めるとは不敬所の始末ではすまんぞ!この犯罪者め。身分剥奪のうえ国外追放してやる!」
「ですから、第2王子殿下には決定権はありません。それに私は虐めなんてしてませんし、冤罪です!」
怪しくなってきた気配にそうジャンヌは主張するが聞く耳を持たないルーカス
「リリィが嘘をついたとでも言うのか?そんな訳ないだろう!神の愛し子は清い存在なんだ嘘をつく筈がない!」
「そこまで言うなら証拠はあるんですか?」
話にならないとジャンヌは証拠を要求する事にした。すると先程からルーカスの傍に控えていたもはやリリィの取り巻きと化してる公爵、侯爵令息の側近候補達が声をあげる
「見苦しいぜ!言い訳ばかりよぉ!」
「証拠なら、ある」
「出てきてください!」
そう言って出てきたのは、公爵家、伯爵家、男爵家の令嬢が3人
「(あの3人は確かジョシュア様に袖にされて何故か私を目の敵にしてる令嬢達...)」
「さぁ、貴女達が見た事を証言してください」
「「「は、はい!」」」
「私は、ジャンヌ様がリリィ様の教科書を隠している所を目撃しました!」
「わ、私はジャンヌ様がリリィ様に暴言を吐いている所を目撃しました...」
「私は...ジャンヌ様がリリィ様を階段から突き落とす所を目撃しました」
ざわめきが大きくなった。「階段からだって!?犯罪じゃないか」「証人がいるって事は事実なんだ」「愛し子様にそんな事するなんて」ざわざわと波紋が広がる。
「静まれ!ジャンヌ・オルティア公爵令嬢、何か申し開きがあるか?」
「ジャンヌ様!今なら間に合います!今認めて下さるなら私からジョシュア様に弁解しておきますから!どうか罪を認めてください!」
勝ち誇った笑みを浮かべジャンヌに諭すように言うリリィ。
...嵌められた。いくらやっていないと言っても証人を用意されれば状況は覆らない。
「私はっやってませ、ん、」
味方もいないこの敵意しかない空間に流石のジャンヌも声が震える
「この状況でまだ言い逃れをする気か?もういい後は牢屋でしっかりと聞いてやろう!この犯罪者を連れていけ!」
いつまでも罪を認めないジャンヌに痺れを切らしたのか実力行使をとろうとするルーカス
「牢屋で反省するんだな、この性悪女」
側近候補の1人、騎士団長の息子であるオーウェン・カステルが拘束しようとジャンヌに近づいたその時
「これは一体なんの騒ぎだい?」
その透き通るようなよく通る声に今までざわめいていたフロアが水を打ったように静まり返る。
コツ コツ
足音を鳴らし割れた人混みから現れたのはキラキラと輝くプラチナブロンドを靡かせ、宝石よりも美しいとされる青い瞳を持ち、いっそ人ではないと言われた方が信じられる程浮世離れした美貌を持つこの国の第1王子ーージョシュア・アークハインツだ。
「ジョシュ「ジョシュア様っっ!!」
先程まで勝ち誇った笑みを浮かべていたリリィが一瞬で瞳を潤し悲しそうな顔をつくると、ジャンヌの言葉を遮りジョシュアに駆け寄りすがりついた。
「ジョシュア様!私、きゃっ」
しかし、ジョシュアはそんなリリィを振り払うと愛しいジャンヌの元へ一目散に駆けより抱きしめた。
「ジャンヌ!こんなに震えてどうしたんだ」
今まで気丈に振舞っていたジャンヌも世界一安心する人の腕の中でついに涙が溢れる
「な、なんでも、ありませっ、ん」
「…誰に泣かされた?」
いつも穏やかな笑顔を浮かべているジョシュアから表情が消えた
「大丈夫だよ、言ってごらん?何があっても僕だけはジャンヌの味方だよ。」
だがそれも一瞬のことでジョシュアはジャンヌと向き合うと慈愛に満ちた女神の様な視線を向け安心させる様に言う。
「私、ジョシュア様の奥さんになれないっ、て、虐めなんてしてない、のに」
ジョシュアの優しい声に今まで我慢していた涙と言葉が堰を切ったように溢れだす
「リリィさ、んが王妃になる、って私、どうしたら…ひっく」
いつも気高く凛としたジャンヌのその弱りきった様子に堪らずジョシュアは再び強く抱きしめた。
そんな2人だけの空間だとでもいう雰囲気に口を挟んだのは第2王子御一行
「兄上!騙されないでください!その女は神の愛し子であるリリィを虐めてあろう事か殺そうとまでした犯罪者です!」
「そうですジョシュア様!その女は未来の王妃に不敬を働いた罪人です!こちらに引き渡して下さい!」
「ジャンヌ・オルティア!被害者の様に振る舞うのはやめたまえ!」
「ジョシュア様、罪人に近寄ると危険、です」
「ジャンヌ様!私のジョシュア様から離れてください!」
その発言を聞いたジョシュアは不安そうなジャンヌに振り返り、にっこり笑うと
「ここは僕に任せてジャンヌは別室でゆっくりしてよっか!ジャンヌの泣いた顔を僕以外が見るなんて許せないからね!…それにちょっとお話しなくちゃいけない事ができたから」
少しおどけてそう言った
「でも」
「大丈夫、ジャンヌと別れるなんて有り得ないから。…誰か!ジャンヌを案内してあげて。勿論、次期王妃としての特別待遇は忘れないでね?」
「わかりました…ジョシュア様」
「ん?」
「…信じています。」
「うん!安心して僕はジャンヌにだけは嘘をつかないよ」
「で、この状況を説明してくれる?」
ジャンヌをメイドに送らせたジョシュアは口調こそ穏やかだが底冷えする様な微笑みを浮かべ問いかけた。
「はい、では僭越ながら私がご説明させて頂きます」
そう声を上げたのは、宰相を父に持つリリィの取り巻きの1人であるエリック・クライス公爵令息だ。
「入学してからの数ヶ月に渡り、ジャンヌ・オルティア公爵令嬢はこちらのリリィ男爵令嬢への度重なる暴言、教科書を破くなどの器物破損を繰り返し、更には階段から突き落とすという殺人未遂を犯した事によりこの国の国母には相応しくないと思いその罪を明らかにしていた所です。」
「証拠はあるの?」
「はい!目撃者がいますのでそちらで確認がとれると思います」
そう言うと証人の令嬢達に目配せをする
「「「私達がジャンヌ様の犯行を目撃しました!!!」」」
「ご覧の通りです。」
ジョシュアはチラリと令嬢達に目を向けると
「その証言に命をかけれる?」
と問うた。
「「「勿論です!」」」
「…そう」
「兄上!あいつはとんでもない悪女です!先程はしおらしく兄上に泣きついていましたがきっと嘘泣きですよ!あんな犯罪者は兄上の婚約者には相応しくありません!国外追放のうえ身分を剥奪してしまいましょう!」
「ふーん、じゃあ誰だったらいいの?」
その兄の言葉に良くぞ聞いてくれましたとでも言うようにリリィを指し示した
「それはこちらにいるリリィ男爵令嬢です!兄上、もう我慢しなくてもいいんですよ。あの女のせいで真に愛するリリィと一緒になれなかったんですよね?父上が決めた婚約相手だからだといって無理に愛そうとする必要はないんです!今日からはこの神の愛し子リリィが兄上の婚約者としてこの国を支えていきますから!」
そう言われたリリィは恥ずかしそうに顔を染めながら
「ジョシュア様…私をずっと想っていて下さったんですよね?これからは私がジョシュア様を支えていきます。」
とジョシュアに寄り添った。
「…ふふっ」
「…くくっ…ははははっ!!は~、笑った笑った!あんまりにも馬鹿らしくて思わず笑っちゃったよ」
いきなりのジョシュアの爆笑に周囲は困惑する
「ジョ、ジョシュア様…?」
「汚い手で触んな」
リリィが手を振り払われる。
「兄上!いきなりどうされたのですか!」
いつもと様子の違う兄に堪らず声をあげる
「本当にやってくれるね、僕が目を離すとすぐこれだ。虐めだっけ?くだらない。お前らそんな事でジャンヌ泣かせたの?僕、例えそいつを殺したとしてもジャンヌを罪に問わないよ」
「え…」
「それに婚約破棄だっけ?する訳ないでしょ。そこの女を妃にするなんて冗談じゃない!そんな気持ちの悪い事二度と口にしないでくれる?」
「ジョシュア様!冗談が過ぎます!」
「いったいどうされたのですか!」
いつも穏やかな王子から飛び出る暴言に側近候補達が思わず口をはさんだ
「冗談?冗談なんか言うかよ。よくこんなくだらない寸劇にジャンヌを付き合わせたな?お前ら生きて帰さねぇ」
据わった目で辺りを見渡すジョシュア
「ジョシュア様…どうしてそんな酷い事を言うんですか?」
その声に目を向けたジョシュアは
「あぁ、そういえばお前だったなジャンヌに冤罪被せたクソ女は」
そう睨みつけられびくりとしたリリィだったがうるうるとした瞳を浮かべ
「そんな、冤罪だなんて!証人もいるんです。信じてくださいジョシュア様!」
「証人、証人ねぇ…」
証人である令嬢3人に目を向けると
「おい、お前ら証言に命賭けるって言ったよな?」
「「「は、はい!」」」
ジョシュアは徐にゴソゴソと懐から3人分の瓶を取り出すと1人1瓶ずつ飲むように言った。ゴクリッ
「よし、飲んだな?その薬は嘘をついた瞬間頭が吹っ飛ぶ特別製の薬品だ。頭吹っ飛ばしたくなきゃ正直に答えな」
そのジョシュアの言葉に顔が青ざめる3人
「ジャンヌの目撃証言は偽りか?」
「「「…」」」
「黙ってたらわからないだろ?嘘つかなきゃすむんだから。命賭けるって言ったよなぁ?」
「(このままじゃ不味い!ここで肯定したらどっちみち殺されちゃうわ!大丈夫。頭が吹っ飛ぶ薬なんて聞いた事もないしどうせハッタリよ)」
「間違いないですわ!ジャンヌ様の犯行をもくげ「ボンッ」 ゴロゴロゴロッ
嘘の証言をした公爵令嬢の頭が証人の令嬢達の間に転がって、止まった。
「「キャァアーー!!」」
「あーあ、やっぱり嘘だったんだ」
「で、君らはどうなの?命かけるんだよね?」
人が1人死んだというのに何の感情もみせないでジョシュアが問いかける
「「ゆ、許してください!嘘をつきました!許してください!!」」
令嬢達は、首から上が無くなった公爵令嬢を見てああはなりたくないと必死に跪き許しを乞う
「許すわけないじゃん。命賭けるって言っただろ?」
しかしジョシュアには聞き入れてもらえずジョシュアの操る魔法になるべく永く苦しむ様に燃やされ闇に屠られた
一連の凶行を固唾を飲み込みながら見守るしかなかった周囲はここでやっと動き出せた。だが 「あ、開かない!」「ここから出して!」窓も扉もどうやっても開かない。
「無駄だよ。僕が閉じ込めてるんだもん」
「大丈夫。皆殺しにはしないから最後まで観ていきなよ」
ジョシュアは楽しそうに嗤った
そしてくるりとこの舞台を用意した愚か者達へと振り返ると
「で?証人居なくなったけどまだジャンヌがやったって証拠あんの?」
「、あ?…え、何、がおこって」
普段の穏やかで優しい姿が嘘のように狂った笑顔を携えこちらを見ている兄に混乱が抑えられない。
「だーかーら、ジャンヌがその女虐めたって証拠あんの?」
「あ、あります!」
先程起こった出来事にまだ頭がついて行かないルーカスの代わりにエリックが口を開いた。
「こちらのリリィ男爵令嬢がジャンヌ様の罪を告発して下さったのです!リリィ様に確認して頂ければ証拠として充分かと思われます!」
「何でその女に確認とれば証拠になるわけ?嘘ついてるかもしんねーだろーが」
「そんな事有り得ません!ジョシュア様は知らないかもしれませんがリリィは光属性を発現した神の愛し子です!そんな神聖な存在が嘘をつくなんて事をするはずがございません!」
その言葉を聞いてジョシュアは少し考えると
「あー、そういえばさっきから神の愛し子だのなんだの言ってたな。で、それがなんなわけ?関係ねーだろ」
あまりの物言いに今まで震えるしか出来なかったルーカスが口を挟む
「兄上!とぼけないで下さい!兄上程の方が神の愛し子について知らないわけがないでしょう?!愛し子は嘘をつきません!この国にとってどれ程重要で尊ばれる存在なのか!過去の愛し子は絶対に王の妻に迎えられているのです!兄上にとって関係ない話ではないんですよ!」
「とぼけてねーよ、興味がなかっただけ」
やれやれといった風にため息をついた。
「愛し子ねぇ。君、ほんとにジャンヌに虐められたの?」
そう聞かれたリリィはここぞとばかりに悲しそうに眉を下げ一筋涙を流すと
「…はい、間違いありません。でも私がいけないんです!私がジョシュア様と親しくしたせいでジャンヌ様は勘違いしてしまわれたのだと思います!だからあんな行動に…ごめんなさいジャンヌ様…」
儚く加護欲をそそる様に泣いて見せた。
「そうだったんだ!わかった!」
そのリリィの言葉に騙されたのかパッと顔を明るくさせ頷いたジョシュアにリリィは安心する
「わかってくれて良かったです!」
「うん!じゃあ、一応この薬飲んでくれる?」
「…え?」
ジョシュアは笑ってさっき令嬢の頭を吹き飛ばした薬品を差し出してきた。
「ジョシュア様…?信じてくれたんじゃ…?」
「うん!信じるよ?でも王族は言質だけじゃ動けないから一応確証を得ておかないとね!嘘ついてないなら大丈夫だよね?…ね?」
そう言って瓶を差し出してくるジョシュアの目は全然笑っていなかった
「…でも」
戸惑うリリィにルーカス一行が声をかける
「リリィは嘘をついてないんだから大丈夫だ!」
「リリィ早く証言して辛い日々から脱出しよう?」
「リリィ!早く証言してあの女の罪を明らかにしてやろうぜ!」
「リリ、がんばれ」
誰も彼もがリリィを信じきっている様子で身の潔白を証明するよう促している
「(まずい!まずいまずいまずいまずい!これを飲んだら嘘がバレちゃうじゃない!やっとあの悪役令嬢を追い落として愛しいジョシュア様に愛される日々を送れると思ったのになんなのよこれ!こんなのゲームに出てこなかったわよ!何とかしないと!)」
「…っジョシュア様!そんなものを飲まなくても私は嘘をついてないと証明できます!さっきルーカス様も言っていたではありませんか!愛し子は嘘をつかないと!」
そのリリィの言い分に思う所があるのか少し考えると、思い出したように言った。
「言ってたね!でも君ってほんとに愛し子なの?伝承では愛し子は体の何処かに紋章が刻まれてるはずなんだけど…みせれる?」
「(来たわ!これでこの紋章を見せればジョシュア様は私を婚約者として認めてくださる!ざまぁみなさいジャンヌ!ジョシュア様に愛されるのはこの私よ!他の誰にもこの美しい人は渡さないわ!)こちらです!」
リリィは手袋で隠した右手の甲をジョシュアによく見えるように掲げた
「私はこの神の愛し子である証に誓います!私は嘘を 」
ヒュッ ボトッ
「え」
「わー、ほんとだ。手の甲に薔薇の紋章があるね」
ヒョイッ
ジョシュアは傍に飛んできた何かを拾い観察している
薔薇の紋章…?それってもしかして今、ジョシュア様が手にしているのは…それを理解した瞬間サァっとリリィの顔が青ざめた
「ぎゃぁああっ痛い!なに、私の右手、なんで!痛いぃー!死んじゃう!」
リリィの右手首から上が無くなっている
そのあまりの痛みに今まで見せていた愛らしい姿はなりを潜め、顔の穴という穴から汁が吹き出し酷く醜い姿で床に這いつくばり痛みに藻掻く
「うん!これで紋章には誓えないね!じゃあ、はやく薬飲んで証言しよっか?」
「ひっ!嫌!」
怯えて埒が明かないのでジョシュアがリリィの口をこじ開け薬を飲ませた
「はーい、じゃあ聞くよ~?ジャンヌに冤罪吹っかけて僕を怒らせた馬鹿女は誰かな~?」
「…っ」ガタガタ
「答えろよ」
「っ!なんなのよ!なんで私がこんな目に!ジョシュア様は私を好きなんじゃないんですか!?私の事が好きだから傍に置いてくれたんじゃないんですか!?」
「なんの話?お前なんて知らないけど」
「え…」
「だって!学校で腕を組んでもお菓子を作って行っても拒否しなかったじゃない!私の事好きだからでしょ!?」
ジョシュアは少し考えると何でもないように言った
「あぁ!あれお前だったんだ。いや~ありがとね!顔覚えてなかったけど!お前が周りをうろちょろした後って、ジャンヌが嫉妬して可愛いんだよね~♪」
「当て馬ご苦労さま!」
そのジョシュアの言葉にリリィのプライドは崩れ落ちた
「あ、あ、ぁああア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!何でよ!あの女さえ居なければ!私がヒロインなのに!悪役令嬢ごときが!くそ!クソォオオオオオオッッツ!!!!」
そう叫ぶリリィの顔は憎しみに染まっており
もうあの弱々しく可憐なリリィの姿は見る影もなかった。
「バカがくだらねぇ夢見てんじゃねぇよ。…もうお前死んどけ」
グシャリ
「「「「リリィ!!!」」」」
「そ、そんな、リリィ?嘘だろ…」
「ジョシュア様!なぜ!なぜリリィを殺したんですか!?」
「よくもリリィを!!!」
「ジョシュア様でも、許さない…」
今までのやり取りを見てもまだ自分達の状況がわかってないルーカス達は事もあろうにジョシュアに敵意を向ける
「まだあの女の事信じてるなんてお前ら馬鹿なの?ああ!馬鹿だったね!じゃなきゃこんな状況にならないか!あははっ」
ジョシュアは笑う
「ルーカス、僕は君を甘やかし過ぎてたみたいだ。馬鹿で素直な所が可愛かったんだけど側近候補と一緒になって悪巧みしてさぁ、」
ギョロリと濁った瞳がエリック達側近候補を捉えた
「そもそもお前ら、僕の側近候補でしょ?なのに第2王子と一緒になってやる事と言えばあんなしょーもない女を王妃にするだって?頭沸いてんじゃねーの?僕のジャンヌ泣かして生きてられるって本気で思ってたの?」
尋常ではないジョシュアの殺気にルーカス達は震え上がる
「しかし兄上!愛し子は過去絶対に王の妻に迎えられています!それなのに殺してしまうなんて!神の愛し子ですよ!?これは神を冒涜する行為です!」
「ジョシュア様!貴方は神を敵にまわすのが恐ろしくないのですか…?」
ルーカス達の訴えにジョシュアはうっそりと笑うと
【ジャンヌを守る為なら僕は神すら殺す】
はっきりとした言葉で宣言した
「なんてことを…!」
「ジョシュア様、貴方はこの国の王には相応しくない!」
「その発言は陛下も黙っていませんよ!」
「その発言は、ダメ」
神を神聖視するネイルジュ王国でのその言葉はネイルジュ王国自体を侮辱し敵対したも同然だった。
「相応しくないならどうするって言うんだい?それに、陛下は僕に何も出来ないよ」
「何を言ってるんです?そんなわけ」
「陛下はね、ジャンヌを僕に生贄としてくれたんだよ」
「は?どういう事ですか?」
「陛下は齢8つながら国1つを片手間に滅ぼしてみせた自分の子を酷く恐れたんだ。それこそ僕が初めて欲しがったジャンヌを自分が助かる為の生贄として与えるぐらいに。面白かったよー?ジャンヌをくれなきゃ皆殺しにしちゃうぞ!って言ったら顔面蒼白にしてさ!ハハッ!ま、ジャンヌはそんな事全く知らないけどね!」
「だから、陛下に助けを求めても無駄だよ」
「「「「そんな…」」」」
愕然と立ち尽くす様子のルーカス達に
「もう抵抗しないの?」
ジョシュアはニコニコと言った
「じゃあ、もういいよね?死になよ」
ジョシュアの操る巨大な影がルーカス達を包みこむ。そして
グシャリ…
大した抵抗も出来ないままこうして愚か者共は人生の幕を閉じた
「よし!掃除完了!」
会場内に転がっていた死体を全て闇に葬り片付けたジョシュア
「あ!死んだ奴ら全員国外追放にしたって事にするから!ジャンヌに本当の事言った奴は死刑ね!」
周りで今起きた惨劇をただ見ることしか出来なかった観客達は可哀想なぐらい首を上下に振っている
それを満足そうに見渡したジョシュアは
「あ~やっとジャンヌに会える~」
さっきまでとは別人の様な穏やかな笑顔を浮かべ愛しいただ1人の最愛の元へと駆けていった。
ヒロイン他攻略者4名BADENDルート突入により第1章終幕っと。
「ほんとに私に勝てると思ってたのかしら…馬鹿な子」
そう呟くジャンヌの手には会場の惨劇を一部始終映したロケットペンダント。
「ジョシュア様…はやく私を慰めて…」
ルンルンとこちらに向かってくるジョシュアをうっとりと見つめ悪役令嬢は笑った
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