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ぼくはガラス窓から、また図書館の裏庭を眺めていた。石の薔薇は鮮やかさを増して、氷のように冷たい輝きを放っている。
裏庭は朝の陽ざしに溢れ、清涼な空気が、この図書館にまで流れこんでくるように感じられた。
裏庭の向こうには、水晶のように透きとおった森がひろがっているが、その森を突き抜けた先に何があるのか、勿論ぼくは知らない。
程なくぼくは奇妙なことに気づいた。
透きとおった樹々の合間を、黒い何かが、ちらちらと揺らめいているのだ。
その黒い何かは、図書館に向かって、まっすぐにやってくる。
近づくにつれ、その正体がわかった。
まだ小さな女の子だ。
ぼくがいるガラス窓の前で、女の子は立ちどまった。
黒いトレンチコートのポケットに、両手を突っこんだまま、女の子はガラス窓を覗きこんできた。
驚いたぼくが後ずさると、女の子は舌たらずな声で、こう挨拶した。
「おはよう」
女の子の黒い大きな瞳には、子どもとは思えない落ち着きがあった。そして肩のあたりで、まっすぐに切り揃えられた銀白色の髪…。
女の子はガラス窓を、ゲンコでコツコツとたたいた。
「入れて」
「気をつけて!」
振り返ると、麗子さんが険しい顔で立っていた。
「ねえ、入れて」
もう一度その子は、窓をコツコツとたたいた。
「その人と話させて」
その子が訴えた。
「きみのことが見えているみたいだ」
ぼくは麗子さんに笑顔を向けた。
「この子はきっと敵じゃないよ」
「誰かはわかりませんが、用心するに越したことはありません」
麗子さんは眉を潜めた。
裏庭は朝の陽ざしに溢れ、清涼な空気が、この図書館にまで流れこんでくるように感じられた。
裏庭の向こうには、水晶のように透きとおった森がひろがっているが、その森を突き抜けた先に何があるのか、勿論ぼくは知らない。
程なくぼくは奇妙なことに気づいた。
透きとおった樹々の合間を、黒い何かが、ちらちらと揺らめいているのだ。
その黒い何かは、図書館に向かって、まっすぐにやってくる。
近づくにつれ、その正体がわかった。
まだ小さな女の子だ。
ぼくがいるガラス窓の前で、女の子は立ちどまった。
黒いトレンチコートのポケットに、両手を突っこんだまま、女の子はガラス窓を覗きこんできた。
驚いたぼくが後ずさると、女の子は舌たらずな声で、こう挨拶した。
「おはよう」
女の子の黒い大きな瞳には、子どもとは思えない落ち着きがあった。そして肩のあたりで、まっすぐに切り揃えられた銀白色の髪…。
女の子はガラス窓を、ゲンコでコツコツとたたいた。
「入れて」
「気をつけて!」
振り返ると、麗子さんが険しい顔で立っていた。
「ねえ、入れて」
もう一度その子は、窓をコツコツとたたいた。
「その人と話させて」
その子が訴えた。
「きみのことが見えているみたいだ」
ぼくは麗子さんに笑顔を向けた。
「この子はきっと敵じゃないよ」
「誰かはわかりませんが、用心するに越したことはありません」
麗子さんは眉を潜めた。
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