12 / 34
10
しおりを挟む
僕は四谷にある「黙示録の子羊」主催の自己啓発セミナーの会場へと向かっていた。インターネットの検索では、午後一時半からビルのホールで、その自己啓発セミナーが開催される予定になっていた。
真夏の太陽は、身体に食い入るように眩く輝き、僕の首筋を焼いた。全てを焼き尽くすような午後の陽射しだった。
僕は自分の記憶に自信が持てなくなっていた。正気…狂気…正気…狂気…。ルーレットの赤と黒のように、事実と虚構の境界線は曖昧に霞んでいた。
或いは二河百道図のように、狂気と正気の境を僕は歩いているのかもしれなかった。二河百道…。善道が著した「観無量寿仏経疏』には「二河百道」の比喩が説かれている。法然や親鸞が自身の著作で言及するに至り「二河百道」の有様は掛け軸にも描かれるようになり「二河百道図」と呼称されるようになる。
「二河百道図」では中段から下に、細く白い線が描かれている。そして、この細く白い線が、極楽浄土へと至る道である。
白い線の右には水の河が逆巻き、左には炎の河が燃え盛っている。そして背後からは、盗賊と獣の群れが迫っている。旅人は躊躇う。何れにせよ、盗賊と獣の群れから逃れる為には、前に進むしかないのである。
動けないでいる旅人に、東岸から釈迦牟尼如来が呼びかける。
「逝け」
西岸からは阿弥陀仏が呼びかける。
「来たれ」
仏の声に誘われ、かくして旅人は極楽に往生を果たす。
しかし僕の二河百道は極楽へと至る道ではない。此方に転べば正気…彼方に転べば狂気…。導くのは釈迦牟尼如来や阿弥陀仏では勿論ないだろう。だが誘うものが何であろうとも、僕は構わなかった。
或いは僕は既に道を踏み外しているのかもしれなかった。麻里さんはアドレッセンスにしか存在し得ない幻影に過ぎないのかもしれない。
僕は既に狂っているのか。麻里さんは僕の頭が創りあげた存在なのか。蜃気楼か逃げ水のような存在を、僕は追い求めているのだろうか。
真夏の太陽は、身体に食い入るように眩く輝き、僕の首筋を焼いた。全てを焼き尽くすような午後の陽射しだった。
僕は自分の記憶に自信が持てなくなっていた。正気…狂気…正気…狂気…。ルーレットの赤と黒のように、事実と虚構の境界線は曖昧に霞んでいた。
或いは二河百道図のように、狂気と正気の境を僕は歩いているのかもしれなかった。二河百道…。善道が著した「観無量寿仏経疏』には「二河百道」の比喩が説かれている。法然や親鸞が自身の著作で言及するに至り「二河百道」の有様は掛け軸にも描かれるようになり「二河百道図」と呼称されるようになる。
「二河百道図」では中段から下に、細く白い線が描かれている。そして、この細く白い線が、極楽浄土へと至る道である。
白い線の右には水の河が逆巻き、左には炎の河が燃え盛っている。そして背後からは、盗賊と獣の群れが迫っている。旅人は躊躇う。何れにせよ、盗賊と獣の群れから逃れる為には、前に進むしかないのである。
動けないでいる旅人に、東岸から釈迦牟尼如来が呼びかける。
「逝け」
西岸からは阿弥陀仏が呼びかける。
「来たれ」
仏の声に誘われ、かくして旅人は極楽に往生を果たす。
しかし僕の二河百道は極楽へと至る道ではない。此方に転べば正気…彼方に転べば狂気…。導くのは釈迦牟尼如来や阿弥陀仏では勿論ないだろう。だが誘うものが何であろうとも、僕は構わなかった。
或いは僕は既に道を踏み外しているのかもしれなかった。麻里さんはアドレッセンスにしか存在し得ない幻影に過ぎないのかもしれない。
僕は既に狂っているのか。麻里さんは僕の頭が創りあげた存在なのか。蜃気楼か逃げ水のような存在を、僕は追い求めているのだろうか。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる