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あくる日は、岡嶋のかわりに、C組担任の天野がやってきて、英語の授業を進めた。
すべての授業が終わって、ぼくが教室を出ようとすると、うしろから声をかけられた。
「瀬尾くん!」
振り返ると、香代子だった。
「これ、落ちてたわ」
香代子がぼくに手渡したのは、一枚の写真が入ったパスケース。
「大切なものなんでしょ。名前が書いてあった」
パスケースを見て、ぼくはうなずいた。
「だれ? その人」
「亡くなった母さん」
「きれいな人。きっと優しかったんでしょうね」
「知らないんだ」
ぼくは首をふった。
「母さんが亡くなったのは本当に小さな頃だったんだ」
「そうか」
香代子はつぶやいた。
「お父さんも大変ね。一人二役をこなすのも」
「それはどうかな」
ぼくは首をかしげた。
「父さんか…まあ、いるにはいるんだよね」
「いるにはいるってなによ?」
香代子は眉間にシワを寄せた。
「そりゃ、仕事はしてるでしょうけど、休みの日は一緒にいられるんじゃないないの?」
「そうでもないよ」
ぼくは肩をすくめた。
「いられないの? どうして?」
「父さんには今、好きな人がいるんだ。だから土日も、ぼくはほとんどひとりさ。父さんはその人に会いに出かけてしまうからね」
ぼくと香代子はしばらく黙った。
「それで良く平気ね。私だったら、そんなのたえられない」
「別に子どもじゃないんだし…大人のおつき合いには、口を出さないようにしているんだよ」
「瀬尾くんて、大人なのね」
「違うよ」
ぼくは首をふった。
「あきらめてるんだよ」
「あきらめてる…」
「何かを期待しても、がっかりさせられるだけだもの。それなら最初から期待しない方がいい」
「ふうん」
香代子は、くっつきそうになるぐらい顔を、ぼくに近づけてきた。
「がっかりさせられる位なら、最初から期待しない方がいい。小説のセリフみたい。クールでハードボイルドな感じ」
「そんなんじゃないんだよ。本当に」と、ぼくは言った。
すべての授業が終わって、ぼくが教室を出ようとすると、うしろから声をかけられた。
「瀬尾くん!」
振り返ると、香代子だった。
「これ、落ちてたわ」
香代子がぼくに手渡したのは、一枚の写真が入ったパスケース。
「大切なものなんでしょ。名前が書いてあった」
パスケースを見て、ぼくはうなずいた。
「だれ? その人」
「亡くなった母さん」
「きれいな人。きっと優しかったんでしょうね」
「知らないんだ」
ぼくは首をふった。
「母さんが亡くなったのは本当に小さな頃だったんだ」
「そうか」
香代子はつぶやいた。
「お父さんも大変ね。一人二役をこなすのも」
「それはどうかな」
ぼくは首をかしげた。
「父さんか…まあ、いるにはいるんだよね」
「いるにはいるってなによ?」
香代子は眉間にシワを寄せた。
「そりゃ、仕事はしてるでしょうけど、休みの日は一緒にいられるんじゃないないの?」
「そうでもないよ」
ぼくは肩をすくめた。
「いられないの? どうして?」
「父さんには今、好きな人がいるんだ。だから土日も、ぼくはほとんどひとりさ。父さんはその人に会いに出かけてしまうからね」
ぼくと香代子はしばらく黙った。
「それで良く平気ね。私だったら、そんなのたえられない」
「別に子どもじゃないんだし…大人のおつき合いには、口を出さないようにしているんだよ」
「瀬尾くんて、大人なのね」
「違うよ」
ぼくは首をふった。
「あきらめてるんだよ」
「あきらめてる…」
「何かを期待しても、がっかりさせられるだけだもの。それなら最初から期待しない方がいい」
「ふうん」
香代子は、くっつきそうになるぐらい顔を、ぼくに近づけてきた。
「がっかりさせられる位なら、最初から期待しない方がいい。小説のセリフみたい。クールでハードボイルドな感じ」
「そんなんじゃないんだよ。本当に」と、ぼくは言った。
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