世界樹の麓に

関谷俊博

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わかれ

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僕が施設へともどる朝、高杉さんは次作の構想について熱く語った。いつも冷静でおだやかな高杉さんが、ここまで真剣に熱く語るのは、はじめてのことだった。
次作のタイトルは決まっていた。ユグドラシル…。
「ユグドラシルは、人間界から天界までをつらぬく巨木なんだ。この宇宙そのものといっていい」
高杉さんは両手をひろげた。
「大きい。とても大きいんだ。すべてを包みこむほどに。だけど、だれもユグドラシルをみることはできない。だって、僕たちはユグドラシルの内部に存在しているのだから」
「まさか高杉さんは、ユグドラシルが実在すると思ってるんですか」
「思っているよ。ユグドラシルはこの宇宙を象徴したものなんだ」
「象徴としての宇宙…」
「そう。この宇宙は確かに実在しているじゃないか。ユグドラシルは実在する」
高杉さんが、かべの時計をみた。
「そろそろ時間だね…」
目頭が熱くなった。やはり高杉さんと離れたくなかった。だけど高杉さんは、やさしく笑った。
「さあ、行きなさい…」
だまったまま高杉さんに頭をさげて、僕は玄関へとむかった。
「ありがとう…さよなら」
僕がドアを閉めかけたとき、背後から高杉さんの柔らかい声が聞こえた。そのとたん、僕の目から涙がこぼれだした。こうして、僕と高杉さんは、ほどけていった。絵の具セットと、小さな鞄をひとつ持って、僕は高杉さんのマンションを後にした。
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