世界樹の麓に

救い

幼いころに母親を亡くし、父親がゆくえ知れずの僕にとって、絵を描くことだけが、冷たいさみしさに耐える手段だった。絵を描いているときだけは、絶望的な孤独を忘れることができた。
それでも孤独のかげは、いつも僕につきまとっていた。それは宿業のようなものだと、僕はなかばあきらめていた。たぶん、僕は死ぬまで孤独の海をただよいつづけるのだ。なすすべはなかった。そういう星のもとに生まれついてしまったのだから。
そんな僕を救ってくれたのが、高杉さんだった。
「この絵を描いた子に会ってみたいんです」
施設の廊下にはってあった絵をみて、高杉さんはそういったそうだ。すでにその頃、高杉さんは画壇でも有名な存在だった。いくつもの有名なコンクールで大賞を受賞し、なんども個展をひらいていた。固定ファンも多く、高杉さんの絵は高い値がついた。歳は三十六歳とのことだったが、実際の年齢よりずっと若くみえた。
はじめて会ったとき、高杉さんはこう口にした。
「素敵だね。きみの絵」
そして僕は高杉さんの養子になった。四年前の夏。僕が中学二年のときのことだ。