バレンタインに両思いになったのに

光城 朱純

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デートって言うのも恥ずかしい

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「「デ、デート?!」」

 涼にそう聞かされて、女の子と同時に同じ言葉を口にしたのは、僕だ。そりゃもう、見事にシンクロした。

「おい、何でお前が驚くんだよ」

「だ、だって……」

「初デートだって言っただろ?」

 涼にデートだって聞かされて、唖然とした顔をした女の子を放って、涼が僕が来た方向へと歩き出す。

「言ったけど」

「何? 俺とのデート、いや? このまま駅へ戻る?」

「嫌! 帰らないよ!」

 何でそんなこと言うの? 僕、今日のこと楽しみで仕方なかったのに。

「良かった。デートだって思ってるの、俺だけじゃないよな?」

「うん……」

 涼の笑い顔には、安堵感とほんの少しの寂しさが混じってるようで、僕の心に罪悪感を落とした。

 涼もきっと楽しみにしてくれてたんだ。僕との、初デート。それなのに、人前で堂々とデートなんて言うから、僕は驚いて、恥ずかしくて。

「涼、ごめん。僕も楽しみにしてたよ。涼との……デート」

 デートなんて言葉を口にするだけで顔に熱が上がる。

 僕たちの関係は秘密で、隠さなきゃいけないもので、人に言えるようなものではなくて。

 きっと僕の存在は、涼の足を引っ張る。涼に傷をつける。こんな風に人前に晒すものじゃないんだ。

「じゃあ、花火が見えるところ行こう。ほら」

 涼が差し出してくれた手、僕はこの手をとってもいいのかな。涼の相手が僕で、本当に良いのかな。

 手を繋ぐことにすら、躊躇してる僕の手を、涼が思いっきり引っ張った。

「あ……」

「早く行かないと、場所なくなるから」

 そう言って、人の合間をどんどん進んでいく。

 男同士だとか、相手が僕だとか、そんなこと関係ないとでも言いたげに、涼は堂々と振る舞う。

 そんな涼は僕にとって憧れで、眩しくて、とてもついていけない。

 涼に手を引かれるまま、着いたのは花火がよく見える砂浜、から少し入った木陰だ。

「ここ? 花火、見えづらくない?」

「ここでいい」

「そう?」

 花火が打ち上がる方を見上げれば、ちょうどその視界を遮るように木が生えている。

 あの木よりも前なら、見やすいかもしれないのに。

 わざわざ少し奥に場所をとった涼の気持ちはわからないけど、そこまで反対するつもりもない。用意してきたビニールシートを広げて、そこに腰を下ろした。

「シート、ありがとう。用意がいいんだな」

「あぁ。うん。お母さんが持って行けって色々いれてくれたから」

 涼が少し遠慮がちに腰を下ろす。

「そんなに端に座らないで、真ん中においでよ」
 
 今度は僕が涼の腕を引っ張った。

 涼の体が、少しこちらに傾くと、狭いビニールシートの上で、涼の顔が近づく。

 キスされそうな距離に、僕はギュッと目を瞑った。

 フッ。涼の笑い声が鼻から抜けていくのが聞こえる。それと同時に、額へと涼の唇が触れた。

 あれ? 唇じゃない。
 
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