天道商店街の端にありますー再生屋ー

光城 朱純

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オルゴールのこと

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 女はそう言うと、その作り物のような顔に笑顔を浮かべた。その笑顔には同性でありながらも見惚れてしまう。

「た、対価さえ払えば、人生もやり直せるってことですか?」

 女の笑顔に魅了されていた亜希が、気を取り直して質問を続けた。

「えぇ。まだ直したいことがあるの? そのオルゴールのこと?」

「えっ……」

 女の顔には確信めいたものが浮かんでいた。亜希が聞きたいことは既にお見通しのようだ。
 これまで壊れたものも、名前も、直したいものを持っているのが亜希だってことまで知られている。今更何がバレていたって不思議はない。

「そのオルゴールをくれた相手のこと? それとも、また別のことかしら?」

「オルゴールを、くれた相手のことです」

「もちろんやり直せるわ。ただ、もうかなり昔のことよね。対価が少しきついものになってしまうかもしれない」

「そう……ですか」

「途中でやめて逃げ帰る人もいるわ。その後どうなってるかは知らないけれど。あまり良い人生を送ってはいないってことだけ、伝えておくわね」

「逃げ帰ると、そんなに大変なんですか?」

「やり直すチャンスを自ら手放してるわけだし、色々後悔することも多いわよね。思い悩んでしまう人が多いのよ」

 女の話を聞きながら亜希がどんどん下を向いていってしまう。

「亜希ぃ。大丈夫?」

 そんな亜希の様子を見るに見かねて、奈津が亜希の背中に手を回し、さすりながら声をかけた。

「うん。大丈夫。ありがと」

「一度考えていらっしゃい。オルゴールをくれた相手のことではなくても、直すことはできるわ。声だって顔だってね。あの雷雨さえ越えて来てくれるのなら、なんだって叶えてあげる。この店を探し出せるぐらいの想いの強さはいるけどね」

「それって、私でも大丈夫ですか?」

 亜希の背中をさすりながら、奈津が女の顔を真っ直ぐに見つめた。

「うん? どういうこと?」

「次は私だけでも見つけ出せますか? それとも、やっぱり亜希しか見つけ出せませんか?」

「もちろん奈津ちゃんでも見つけられるわ。さぁ、これで質問タイムはおしまいかしら? そろそろお帰りなさい」

 女が終わりを告げ、その顔にはまた作りものの様な笑顔が浮かぶ。二人は互いに顔を合わせて、女の方を向き直った。

「はい。オルゴール、ありがとうございました」

「次は自分でこのお店探して来ます」

「えぇ。また来てちょーよちょうだい待っとるでね待ってるからね

 女の声が、わざとらしい名古屋弁を紡ぎ出す。
 二人は女に背を向けて、店を後にした。


「亜希はさ、やり直したいの? その、オルゴールをのこと」

「うーん。どうかな。正直悩んでる」

 二人が亜希のカバンにつけられたオルゴールを見ながらゆっくり話ができたのは、翌日の授業後である。
 昨日は店を出れば既に辺りは暗くなっていて、二人とも急いで自宅に帰ることになった。二人ともやり直すことに興味は高まり、何かをやり直すべきか、本気で悩み始めていた。

「何があったのか聞いてもいい?」

「うん……オルゴールくれたのは、音ちゃんっていう女の子なの。小学校の時に仲が良くて、オルゴール貰ったのは、たしか誕生日だったんだよね」

 亜希が昔を懐かしむ様に、目を細めて話を始める。

「今は?」

「音ちゃん? 喧嘩したまま、引っ越しちゃったの。何で喧嘩したかはもう覚えてないんだけどね。多分大したことじゃないんだよ。それでも、音ちゃんと喧嘩したのはその一回だけ。初めての喧嘩で、最後の喧嘩になっちゃった」

「どこに引っ越したのかもわからないの?」

「音ちゃんが引っ越して、だいぶ経った後に一度手紙書いたんだよね。どうしても仲直りしたかったから。でもね、それ返ってきちゃって……そのまま」

「亜希は、それをやり直したいの?」

「もっと早く手紙書いておけば良かったとは思ってるよ。音ちゃんが引っ越しちゃう前に、素直に謝っておけば良かったって。でも……どうだろ。やり直したいのかな。別にこのままでも良い気もしてるんだよね。そんなに昔のこと直したからってどうなるの? って思っちゃうし。勇悟くんみたいに、泣いちゃうぐらいに思ってるわけでもないし」

「勇悟くん、嬉しそうだったね」

「うん。再生屋で見かけたときはあんなに元気がなかったのに」

「お母さん退院して、元気そうだったから、きっと願いが叶ったんだよね。それで、謝ることもできた」

 二人の脳裏に、再生屋に入る前に見かけた幸せな親子が浮かぶ。
 
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