天道商店街の端にありますー再生屋ー

光城 朱純

文字の大きさ
上 下
7 / 12

ケンカの後で

しおりを挟む
 親友と喧嘩別れしたところで、翌日も普通に授業はあって、嫌な気分をおしてでも登校しなきゃいけない。ただでさえ朝は体を動かすのが億劫で、ダラダラと用意をしているのに、今朝は奈津と喧嘩したせいか、亜希の体はいつにもまして動きが悪い。

「はぁぁ」

 朝から何度目かのため息を盛大に吐いて、亜希は自転車に跨った。
 普段なら亜希の家からまっすぐ天道商店街を目指して、その商店街を右に曲がって直進する通学路。今朝はなんとなく商店街を通りたくなくて、遠回りでも別の道を行く。家を出る時間も遅ければ、遠回りをしたせいで、今朝は確実に遅刻だ。信号待ちで時間を確かめ、朝のホームルームには間に合わないことを確信する。

「行きたくないなぁ」

 学校までの道を右へ左へとあてもなく自転車をこぐ。学校へ行きたくない、奈津に会いたくない、その気持ちが亜希を遠回りさせている。
 亜希の少し先を走る、茶色い髪のポニーテールの女子もまた、同じような気持ちで、学校の周辺をふらふらしていた。

「奈津……?」

「あ、亜希……」

 そんな二人が横並びになったのは、学校まで数メートルの距離の交差点。信号待ちで止まった時だ。

「学校、遅刻だよ」

「亜希こそ。遅いじゃん」

「うん……あの、さ。昨日は、ごめんね」

 亜希が奈津の顔をチラチラ伺いながら、謝罪の言葉を口にする。

「こっちこそごめん! オルゴール、大切なものだもんね」

「ううん。あんな風に言わなくても良かったのに、言い過ぎたよね」

「……あははっ」

「……ふふっ」
 
 二人はお互いの目を合わせて、笑いあう。初めてのケンカは無事に仲直りすることができた。
 その後二人一緒に遅刻して、二人一緒に怒られるのだが、二人の気持ちは大満足だった。


「結局、再生屋ってただの修理屋じゃないってことだよね?」

 放課後の教室で、二人はいつものように話し込む。そんな二人の様子にクラスメイトは呆れ顔を向けながら、一人また一人と教室から出ていった。周りから見ればいつもと同じ光景。だが、二人の話題はいつものようにくだらない雑談ではない。話題は再生屋のことだ。

「亜希のオルゴールは直してくれるって言ってたけど、顔も声も人生もって何?」

「整形とか? でも、人生をやり直す?」

「あの男の子は消えちゃったよね?」

「うん。病院に送るって言われて、いなくなっちゃった」

「跡形もなく消えたんだよ? 下に穴とかもなくってさ」

「だからジャンプしてたりしてたの?」

「そりゃそうでしょ? え? 亜希まで私がダンスしてると思ってたの?」

「そんなわけ……ないけど、さぁ」

 亜希の言葉に自信がなくなる。もちろんあんなところで突然ダンスをし始めたと思ってたわけじゃない。ただ、何やってるかわからなかったのだ。

「えぇー。ひどい!」

 奈津が頬を膨らませて不満を示す。亜希にわかってもらえていなかったショックは隠せない。
 
「と、とにかく、あの子は病院に行った? そこでお母さんに謝れたんだよね?」

「多分ね。対価はもう払ってるからって、お金も受け取らなかった」

「対価って何?」

「寿命とか?」

「えぇ?! でもでもっ、私たちの前ではそんな素振りなかったよね?」

 奈津の発した不穏な未来に、亜希が焦って話を変える。

「なかった。もう再生屋に来た時点で払い終わってるみたいだった」

「どこで?」

「どこだろ」

「あー! もう! わかんない!」

 理解できない出来事ばかりの事態に、亜希が頭をかきむしった。亜希自慢のサラサラストレートはそんなことじゃ絡まることもなく、亜希の手が離れれば、すぐに元の形へ戻る。

「結局さ、もう一度再生屋に行かないとどうしようもないってことだよね」

 奈津が亜希の髪の毛を羨ましそうに見つめながら、冷静に言った。

「何で、オルゴール預けちゃったんだろうなぁ」

 亜希が机に突っ伏しながら、昨日の行いを後悔する。もちろん、昨日あの店で断るなんてことはできなかったのだが、それでも自分のやってしまったことに泣きそうだった。

「一週間後、また一緒に行こうよ」

 昨日あれだけ怯えていた奈津が、亜希を慰めようとする。

「一緒に……行ってくれるの?」

「もちろん。だって、私が紹介しちゃったんだし」

 奈津は心の底で、そのことを深く後悔していた。自分のいつもの思い付きで、亜希に怖い思いをさせていると、昨夜一人で反省し、最後まで責任もって付き合おうと、覚悟を決めていた。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貸本屋七本三八の譚めぐり ~実井寧々子の墓標~

茶柱まちこ
キャラ文芸
時は大昌十年、東端の大国・大陽本帝国(おおひのもとていこく)屈指の商人の町・『棚葉町』。 人の想い、思想、経験、空想を核とした書物・『譚本』だけを扱い続ける異端の貸本屋・七本屋を中心に巻き起こる譚たちの記録――第二弾。 七本屋で働く19歳の青年・菜摘芽唯助(なつめいすけ)は作家でもある店主・七本三八(ななもとみや)の弟子として、日々成長していた。 国をも巻き込んだ大騒動も落ち着き、平穏に過ごしていたある日、 七本屋の看板娘である音音(おとね)の前に菅谷という謎の男が現れたことから、六年もの間封じられていた彼女の譚は動き出す――!

貧乏神の嫁入り

石田空
キャラ文芸
先祖が貧乏神のせいで、どれだけ事業を起こしても失敗ばかりしている中村家。 この年もめでたく御店を売りに出すことになり、長屋生活が終わらないと嘆いているいろりの元に、一発逆転の縁談の話が舞い込んだ。 風水師として名を馳せる鎮目家に、ぜひともと呼ばれたのだ。 貧乏神の末裔だけど受け入れてもらえるかしらと思いながらウキウキで嫁入りしたら……鎮目家の虚弱体質な跡取りのもとに嫁入りしろという。 貧乏神なのに、虚弱体質な旦那様の元に嫁いで大丈夫? いろりと桃矢のおかしなおかしな夫婦愛。 *カクヨム、エブリスタにも掲載中。

【完結】孤独な少年の心を癒した神社のあやかし達

フェア
キャラ文芸
小学校でいじめに遭って不登校になったショウが、中学入学後に両親が交通事故に遭ったことをきっかけに山奥の神社に預けられる。心優しい神主のタカヒロと奇妙奇天烈な妖怪達との交流で少しずつ心の傷を癒やしていく、ハートフルな物語。 *丁寧に描きすぎて、なかなか神社にたどり着いてないです。

夜勤の白井さんは妖狐です 〜夜のネットカフェにはあやかしが集結〜

瀬崎由美
キャラ文芸
鮎川千咲は短大卒業後も就職が決まらず、学生時代から勤務していたインターネットカフェ『INARI』でアルバイト中。ずっと日勤だった千咲へ、ある日店長から社員登用を条件に夜勤への移動を言い渡される。夜勤には正社員でイケメンの白井がいるが、彼は顔を合わす度に千咲のことを睨みつけてくるから苦手だった。初めての夜勤、自分のことを怖がって涙ぐんでしまった千咲に、白井は誤解を解くために自分の正体を明かし、人外に憑かれやすい千咲へ稲荷神の護符を手渡す。その護符の力で人ならざるモノが視えるようになってしまった千咲。そして、夜な夜な人外と、ちょっと訳ありな人間が訪れてくるネットカフェのお話です。   ★第7回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

【完結】天使のスプライン

ひなこ
キャラ文芸
少女モネは自分が何者かは知らない。だが時間を超越して、どの年代のどの時刻にも出入り可能だ。 様々な人々の一生を、部屋にあるファイルから把握できる。 モネの使命は、不遇な人生を終えた人物の元へ出向き運命を変えることだ。モネの武器である、スプライン(運命曲線)によって。相棒はオウム姿のカノン。口は悪いが、モネを叱咤する指南役でもある。 モネは持ち前のコミュ力、行動力でより良い未来へと引っ張ろうと頑張る。 そしてなぜ、自分はこんなことをしているのか? モネが会いに行く人々には、隠れたある共通点があった。

御伽噺のその先へ

雪華
キャラ文芸
ほんの気まぐれと偶然だった。しかし、あるいは運命だったのかもしれない。 高校1年生の紗良のクラスには、他人に全く興味を示さない男子生徒がいた。 彼は美少年と呼ぶに相応しい容姿なのだが、言い寄る女子を片っ端から冷たく突き放し、「観賞用王子」と陰で囁かれている。 その王子が紗良に告げた。 「ねえ、俺と付き合ってよ」 言葉とは裏腹に彼の表情は険しい。 王子には、誰にも言えない秘密があった。

処理中です...