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再生屋

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「えっ? 何で?!」

 奈津にはまるで普通の一軒家が日本家屋へと化けたように見えた。

「何が?」

 亜希にはそんな奈津の驚きがわかるはずもない。亜希の目には再生屋はずっと日本家屋のままに映っているのだから。

「い、今……家が変身、したよね?」

「変身? 何言ってんの?」

「だ、だって……さっきまで、普通の家で……」

「奈津? 意味がわかんない」

 奈津の怯えっぷりは本物で、真っ青な顔は亜希をからかってるわけじゃない。それでも、亜希はこの再生屋の中に入ってみたくて仕方なかった。奈津の顔色を見れば、普段の亜希なら止めようって言い始めるはず。
 それなのに、今は無性に再生屋に入りたい。
 そんな思いが亜希の背中を押した。いや、思いだけじゃない。現実に背中を誰かに押される。間違いなく、何者かの手が亜希の背中に触れた。
 背中を押された勢いで、亜希は再生屋の扉の前につんのめる。看板を指し示すために握っていた奈津の手を離すことができずに、二人で扉の前に進んで行った。
 引き戸にしか見えなかった扉は思いがけず自動扉で、二人の存在に反応してゆっくり開いた。

「開いちゃった……」

「亜希が前に出るからでしょ?」

「だって、誰かに背中押されたんだよ!」

「誰かって?」

「わかんない……」

 奈津の片手は亜希が握っていて、反対側の手は肩にかけた鞄を押さえたまま。そして、二人の周りには誰もいない。誰かに背中を押されたとしても、押せる人物がいないのだ。
 その状況に全身に鳥肌がたつような寒気を感じたけど、開いてしまった扉の中に進んでみたい好奇心も消えていないようで、亜希は怖さをぐっと堪えて、一歩踏み出した。

「え?! ちょっ……入るの?」

「入らないの? 扉、開いちゃったし」

「う……うん。」

 奈津が亜希の腕にしがみつくように腕を回して、二人は怯えながら再生屋の扉を入っていく。
 扉だと思っていたものはどうやら門だったみたいで、一歩くぐればその中にも道が続いていた。
 そこはまるで二時間ドラマで悪巧みが行われる舞台の料亭のようで、今にも黒いスーツにサングラスの男たちや、着物姿のたぬき親父が出てきそうだ。
 さっきまで暑いぐらいの西日を感じることができたはずの商店街の中にあるのに、再生屋の門の内側は薄暗くて、なんだか湿っぽい。苔でも生えていそうな敷石を踏んで、二人は今度こそ扉の前にたどり着く。
 身を寄せ合って、恐る恐る歩きだした道も長くなれば慣れてきて、扉の前に着く頃には二人の顔から恐怖の色は消えていた。
 商店街の中を歩いていた時のように、奈津が甘える様に腕を組んでるだけだ。

「あれ? 開かない」

 二人が扉の前に立っても、今度は開いてしまうことはない。

「亜希、これ、引き戸だよ」

 亜希の腕に自分の腕を回したまま、奈津が扉に手をかける。自動扉だった門とは違い、今度は少し重たい戸を開けた。


 扉の中は店の中なのにさらに薄暗くて、腕に当たる空気は身震いするぐらい冷たい。

「さむ」

 普段から寒がりの亜希が、半袖の制服からのぞく二の腕を掌でさすりながら、店の奥に進んでいく。

「ちょ、ちょっと待って」

 亜希の積極的な行動に少し不気味さを感じながら、奈津も奥へと入っていった。
 再生屋の中は細く長い。左右の壁には色々なものが置いてあるみたいだが、店の中が暗すぎてそれが何かは判別つかない。
 それなのにまるで店の中を熟知しているかの様に亜希がずんずん足を進めて行く。外から見るよりもずっと店の中は広かった。
 細長い店の中は、きっと他の客がいたらすれ違うこともままならない。つまりその店の突き当たりにその人物はいたはずだ。

よう、いりゃあしたよく、きたね。お客さんとは珍しい。雨には降られんかった?」

 薄暗いを通り越して、ほぼ真っ暗に近いぐらいの店の中から、その声だけが響いて耳に届く。
 二人はその声にビクつき、足を止めた。
 そして声の聞こえた方に目線を合わせ、じっと目を凝らす。なんとかして声の主を見ようと、必死になってる二人の耳へ、また別の言葉が届いた。

「ほっほ。私の姿は見えんよ?再生したいものを預かるときには姿を見せるが。それまでは、声だけで悪いねぇ。私はこう見えて照れ屋だでねだからね

 こう見え……てはいないのだけど。
 声から判断する限り、声の主は女だ。口調は明らかに年寄りなのに、声色はそこまでじゃない。その不自然さが更に不気味さを増させる。

「さ、再生屋ってここですか?」

 意を決して、亜希が暗闇に向かって話しかけた。

たぁけたばかなこと聞くねぇ。再生屋の店の中に入ってきたんだろう?」

「そうですけど」

「それなら、再生屋なんだろうよ。まさか突然店の中に飛ばされてきたわけでもなさそうだし」

 まるでばかにされてる様な言い分だが、最後の一言が亜希の頭に妙に引っかかる。
 突然、飛ばされてくるような人間がいるのだろうか。
 
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