光城 朱純

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出会い

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 今日の相手はやけに整った顔をしている。
 糸が捕えてきた相手。その男がこちらを向いた瞬間、美しい顔立ちに息をするのも忘れて見惚れた。
 これは、一瞬のうちに胃を満たすだけでは勿体無い。
 そもそも退屈が故に捕えてきたのだ。
 空腹を満たすべきは、まだまだ先のこと。

「何か、言いたいことがあれば聞いてやることもやぶさかではない」

 体つきは男らしいが、その顔は角度によっては女にも見える。
 その整った顔から、一体どのような声を聞かせてくれるのか。どのような言葉を紡いでくれるのか。
 いつもの男たちと変わらぬ言葉であったなら、興醒めだ。

「私が望んでやってきた場所ではありませんから、これといって話すこともありますまい」

 声音は他の男と変わり映えはしないが、その低音がやけに腹に響く。じんと響いた音が心地よい。
 それにしても私を前にこれだけ冷静にいられるとは、肝の座り方も悪くない。
 さて、どうしてくれようか。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎



 糸に捕えられ連れてこられたのは、あの社の中か。張り巡らせられた蜘蛛の糸は、一人の女性を中心に作られているように見える。
 この様な場所で糸を操って、まさか言葉が通じる相手だと思いもよらなかった。

「貴女が、私をここへ?」

 私に何の用があるというのか? 初めて立ち寄った場所、これも奇縁というものか。

「わらわが捕えてきたわけではない。糸が勝手に運んでくるだけだ」

「その糸を操っているのは貴女でしょう?」

「わらわではないと言っておろう? 糸は勝手に伸びる。わらわが空腹だと言えば、すぐにでもどこかから人間が連れてこられる」

「空腹だったのですか?」

 腹が空き、私が連れてこられた。それならば、待ち受ける運命は決まっている。
 私の旅はここで終わりだ。
 許されぬ相手へ情を抱いた私への罰。それならば、慎んで受けねばならぬ。

「いや。ただ退屈だったのだ」

 退屈とは。何とも贅沢な悩み。
 話し相手をご所望か? それとも遊び相手か。
 
「それでは退屈しのぎに、私が話し相手になりましょう」

「わらわの話し相手か! そのような申し出、初めて受けたぞ」

 それはそうだろう。この様に不気味な場所でなければ、あの妖艶な体つき。生唾を飲み込む男がいないわけがない。

「あぁ愉快! もう人間は呼び寄せぬつもりではいたが、最後がこの男だとしたら何とも愉快な終わりだ」

「最後?」

「さよう。人間を喰らうのも、この様な場所で何を為すこともなく生き続けるのも退屈だ。もうわらわの気を動かすのは本能しかない。ただ、そんな生き様は虚しいだけであろう」

 目を伏せながら自嘲的に笑ったその顔は、儚げにも見えて、余計に彼女への興味をそそる。

「そのように考えるとは……」

 物の怪のたぐいであろうに、まるで人間ではないか。 
 先の村の女性たちよりもずっと成熟した思考に、昨夜の居場所はここであるべきだったと、胸の中を後悔が騒つく。

「なんだ? わらわの様な物がそのように考えるのが不思議か? こう見えて、お主より長く生きておる。考えるのは、何も人間ばかりではない」

 彼女の冷えた視線、唇をなぞる紅の舌を見れば、喉の奥が締められたように息ができない。
 ヒューっと頼りない吐息をたてながら、もう一度口を開いた。
 

 
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