【完結】出来損ないの僕が愛したのは優秀なきみたち

光城 朱純

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金曜の夜

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「も、もう大丈夫だから。そのまま……きて」

 僕の後ろに居る彼に向かって、いつもの台詞を吐いた。
 僕が僕をおとしめる為の台詞。何の役にも立たない自分を傷つけたくて、それでもどこかでもてはやされたくて、そんな矛盾した感情を見知らぬ誰かに押し付ける。
 それが僕の金曜日の日課。

「そのまま? 良いの?」

「うん……女性じゃないんだ。構いやしないよ」
 
 僕の言葉に、彼が生唾を飲み込んだ音が聞こえた。
 彼をその気にさせるには、もう一声要るだろうか。

「じゃあ……遠慮なく」

 第一印象からは想像できないぐらい無遠慮に、彼が僕にのしかかる。その暴力的なまでの前後運動は、みるみるうちに僕の中を押し広げて、僕の奥にあるそのポイントを擦り始めた。

「はぁっ……」

 自分の口から漏れ出る喘ぎ声を聞きたくなくて、吐息を漏らして耐える。自分の声なんて聞こえてきたら、せっかくの気分がおじゃんだ。
 動物の様に後ろから突き動かされながら、目の前の枕に顔を押し付けて、彼が果てるその時を待つ。
 稀に僕のことまで気にかけてくれる人も居るが、今夜の相手にその余裕はなさそうだ。
 自分勝手に動かす腰は、僕のことを気になどしない。好きに動き回って、僕の最奥に欲望を吐き散らした。

「よ、良かったよ。笠原かさはら君はまだだよね?」

 確認するまでもなく、僕自身は未だに達することができずに、体に熱を保ったまま。
 だけど、こうなった彼らに僕への興味が欠片も残っていることはない。行きずりの相手とは、すぐにでも離れておきたいものだ。

「僕は大丈夫。自分で何とかする。今夜はありがとう」

「そうかい? それなら……」

「ここのホテルは一人で出られるから。ホテル代さえ折半してくれたら、もういいよ」

「じゃあ、悪いけど……これで」

 さっきまで僕の中をまさぐっていた細い指が、財布から一万円札を取り出して机に置いた。折半より少し多いぐらいだけど、お釣りなんて野暮は言わないよな?

「うん。また会ったら……」

「こっちこそ、よろしくな」

『また会ったら』もう何人に言っただろうか。またなんて来ない。たった一度きりの男に勘違いされても困るのだろう。
 二度目に会えた人なんていない。

 彼が出て行って、一人で横になるには広すぎるベッドを降りて、そのまま風呂場へと向かう。
 新しいお湯を張りながら、湯船に体を沈めた。
 自分の中に残る彼の痕跡をかき出しながら、片手で熱の収まり始めた自身を扱き上げた。
 さっきまでの行為を反芻しながら、必死で手を動かす。
 解き放った精はお湯に溶けることもなく、その存在感を主張して、その光景がさらに僕を情けなくさせる。
 一夜の相手の為に自分で準備して、相手が通り過ぎた跡を自分で慰める。なんて浅ましい。
 でも僕にはこんな人生がお似合いだ。
 誰の役にも立たない僕が、たった一瞬でも誰かに振り向いてもらえるのなら。 

 本当は僕だって、誰かと一緒に果てたい。
 毎週違う相手じゃなくて、いつでも同じ人と会いたい。
『愛してるよ』なんて言葉をくれる人と、愛し合いたい。
 たった一人の運命の相手に、愛されたいんだ。
 お湯の中に溶け込んだのは、僕の涙だけ。
 もう何度こんな時間を過ごしたかわからない。
 誰かにこの体を受け入れてもらえるあの瞬間だけが、僕が愛されてるって感じられるから。
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