【完結】隣国の王子の下に嫁いだ姫と幸せになる方法

光城 朱純

文字の大きさ
上 下
97 / 98
別れと再会

ルーイとステフの来訪

しおりを挟む
「アイシュタルト!久しぶり!」

「ルーイ?!どうやって?ここはシャーノ国内だ。」

「そりゃあ、ステフの力に決まってるだろ。」

 旅商人見習いとでも偽って入り込んだのか。サポナ村村長とまでなった男が。

「ロイドから、また文句が出るだろうな。」

「それがですね。今回はロイドも納得済みなんですよ。」

「何かあったのか!?」

「今回はクリュスエント様に用事が……」

 そう言ってステフがルーイの顔を見た。

「そうなんだよ。アイシュタルトじゃなくてな。」

 私がこの湖のほとりで姫と共に生活を始めてから既に数ヶ月が経った。姫の居場所は、きちんと城に報告され、渋々といった形で王にもこの生活を認められている。

 認められていると言うのか、許可を脅し取ったというのか。一国の王と王女がそのせいで親子喧嘩を繰り広げるなど、信じられぬ。

 王が許可したことで、姫の生活は安定しているし、騎士団長やフェリスも度々様子を見にやってきている。私も改めてシャーノの騎士団に所属することを許可され、要請があればそちらに出向くといった形で勤めることができた。

 ステフの仕事に合わせて、ルーイが顔を出すこともある。

 全てがうまくいっていた。

 たった一つ、ここに様子を見にきた全員が、等しくため息を吐いて帰路につく以外は。
 
「わたくしにご用とは、何ですか?」

 二人を家の中に迎え入れると、姫が早速話を切り出した。

「クリュスエント様に用があるのは兄さんなんです。僕はアイシュタルトにお願いしたいことがあって」

「ルーイが?わたくしに?」

「うん。ちょっとクリュスエント様に相談したくてさ。」

「まぁ。そういうことなら喜んで。」

「クリュスエント様に相談するようなことでもないんだけどさ……」

 ルーイらしくもなく、なかなかはっきりとは口にしない。

「アイシュタルト。僕の頼みごとも聞いてくれますか?」
 
「何だ?」

 ルーイが口にするのを勿体ぶっているうちに、ステフが私に話しかけた。

「手合わせしてもらいたいんです。しばらく体を動かしていなかったら、動きが鈍くなっているようで。カミュートでは誰にもお願いできないものですから、よろしくお願いします。」

「構わぬ。だが、手合わせなどジュビエールに頼め。」

「ジュビエール様は騎士団長です!そのように気軽に頼むことなどできませんよ。」

 騎士団長だろうが何だろうが、あの者ならば楽しんで受けてくれそうだが。

「アイシュタルトに稽古をつけてもらってきた。とでも言えば受けてくれるだろう。」

 私がシャーノに来ることになった時に、一番心配していたのは手合わせの相手だったからな。

「わかりました。それでは、稽古をつけてもらっても良いですか?」

「あぁ。外に出るか。」

「俺はクリュスエント様への用を済ませておくから、二人で行ってこいよ。」

 ステフと私の会話を耳にして、それに乗っかるようにルーイが口を挟む。

 私に聞かれたくはないことだろうか。

 姫への相談だと言っていたからな。それも仕方のないことだ。

「アイシュタルト。すいませんが、付き合ってください。」

 私とステフはそのまま外に出て、お互いに剣を振るう。

 しばらく体を動かしていないと言ったステフはそれでも充分に動けていて、私だけを外に出すための方便だったのだろうと思う。

 しばらくステフと手合わせをしていれば、話が終わったルーイと姫が家から出てきた。

 心なしか姫の頬が赤く染まっているようにも見えるが、ルーイは一体、何を話したのか。

 確認しようにも、ルーイとステフ相手に言葉では太刀打ちできぬ。二人が皆と同じように、ため息を吐いて私たちの家を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...