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別れと再会
いつでも、あなたの側に
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「えぇ。わたくしと。お嫌かしら?」
「そんなわけ!ありません。」
姫のことを嫌がるなど、あり得ない。だが、それでは王に更に心配をかけるだけだ。
「それなら、いいじゃない。それとも誰か他に心に決めた人がいらっしゃって?」
「そんな人おりません。私の心は今でも……」
心に決めた人など、たった一人しかいない。その方が今、私の目の前で信じられぬ言葉を口にしている。
「今でも?」
「クリュスエント様にお誓いしたままです。貴方が嫁いだあの日、送らせていただいた花の、花言葉のままです。」
『いつでも、貴女の側に』私の想いは姫が嫁いでいったあの日から変わらない。
どれだけ離れても、変えることができなかった。
「わたくしもよ。アイシュタルトにお見舞いに送った花の花言葉と一緒。」
私たちが贈りあった花は同じものだ。今、一面に咲き誇っている小さな花。
「一緒になど、そのようなこと王が認めませんよ。」
姫が嫁いでいく前に、立場をわきまえるようにと、直々に申しつけられている。
そんな私が一緒に暮らすなど、無理な話だ。
「認めさせるわ。一人で暮らすより、アイシュタルトと一緒の方がきっと父様も安心するもの。」
一人より、は安心なさるかもしれないが、王はきっと別の心配をされるだろう。
「はぁ。それでは仕方ありませんね。王へもきちんとご報告して下さい。」
私は相変わらず姫のわがままには弱い。以前のように、押し切られる。
「ずっと手紙を送っていたわ。」
「居場所がわからなかったではありませんか。一方的なお手紙では、余計にご心配をおかけします。」
どこにいるかがわからず、私を呼び戻すことになったのだ。
「……」
「クリュスエント様がご報告されないのであれば、私が城へ戻り、ご報告差し上げて参ります。それでよろしいですね?」
「だめ!それはだめなの!そんなことしたら、アイシュタルトはこちらへ戻ってこないもの。そしてわたくしも城へ連れ帰られるわ。」
姫が必死で私を止めようとする。そうまでして、城に戻りたくないのか。
「そうなるでしょうね。」
「そんなことさせない。せっかくアイシュタルトと一緒にいることを認めさせることができるのだもの。こんな機会、逃したりしないわ。」
「ク、クリュスエント様?」
何を仰っている?城を出ることではなく、私と一緒にいることだと?
「城へ戻ったら、またアイシュタルトはただの騎士で、わたくしは姫で。そんな風に離されてしまうわ。そんなこと、もうさせない。」
ただの騎士と姫。私たちの間の関係はそれだけだ。
ルーイが何と言おうとも、それ以上の関係になど、なれるはずもない。良い関係になることなど、気持ちを伝えることなど、できるはずがない。
「何を、仰って……」
「わたくしに今後変わらぬ忠誠を誓ってくれたわよね?国境門で一生変わらないと言ったわよね?」
「は、はい。」
「それならば、ここでずっとわたくしのことを護って。わたくしのことを護ると誓って頂戴。」
姫の緑色の瞳が、私のことを真っ直ぐ見据える。
冗談ではないということか。
姫のことをずっと護ることができるとは、なんと幸せな誓いだろうか。
「ここで、ずっと?」
「えぇ。一生。」
「一生、お護り致します。」
私は姫の前で跪き、深く深く頭を下げた。
姫に、私の一生を捧げよう。
心よりの忠誠を誓おう。
その真っ直ぐなお心が、私を見る微笑みが曇ることのないよう、護り抜いてみせる。
私達の周りに咲き乱れる花の数だけ、姫に伝えたい。
いつでも、貴女の側に。
「そんなわけ!ありません。」
姫のことを嫌がるなど、あり得ない。だが、それでは王に更に心配をかけるだけだ。
「それなら、いいじゃない。それとも誰か他に心に決めた人がいらっしゃって?」
「そんな人おりません。私の心は今でも……」
心に決めた人など、たった一人しかいない。その方が今、私の目の前で信じられぬ言葉を口にしている。
「今でも?」
「クリュスエント様にお誓いしたままです。貴方が嫁いだあの日、送らせていただいた花の、花言葉のままです。」
『いつでも、貴女の側に』私の想いは姫が嫁いでいったあの日から変わらない。
どれだけ離れても、変えることができなかった。
「わたくしもよ。アイシュタルトにお見舞いに送った花の花言葉と一緒。」
私たちが贈りあった花は同じものだ。今、一面に咲き誇っている小さな花。
「一緒になど、そのようなこと王が認めませんよ。」
姫が嫁いでいく前に、立場をわきまえるようにと、直々に申しつけられている。
そんな私が一緒に暮らすなど、無理な話だ。
「認めさせるわ。一人で暮らすより、アイシュタルトと一緒の方がきっと父様も安心するもの。」
一人より、は安心なさるかもしれないが、王はきっと別の心配をされるだろう。
「はぁ。それでは仕方ありませんね。王へもきちんとご報告して下さい。」
私は相変わらず姫のわがままには弱い。以前のように、押し切られる。
「ずっと手紙を送っていたわ。」
「居場所がわからなかったではありませんか。一方的なお手紙では、余計にご心配をおかけします。」
どこにいるかがわからず、私を呼び戻すことになったのだ。
「……」
「クリュスエント様がご報告されないのであれば、私が城へ戻り、ご報告差し上げて参ります。それでよろしいですね?」
「だめ!それはだめなの!そんなことしたら、アイシュタルトはこちらへ戻ってこないもの。そしてわたくしも城へ連れ帰られるわ。」
姫が必死で私を止めようとする。そうまでして、城に戻りたくないのか。
「そうなるでしょうね。」
「そんなことさせない。せっかくアイシュタルトと一緒にいることを認めさせることができるのだもの。こんな機会、逃したりしないわ。」
「ク、クリュスエント様?」
何を仰っている?城を出ることではなく、私と一緒にいることだと?
「城へ戻ったら、またアイシュタルトはただの騎士で、わたくしは姫で。そんな風に離されてしまうわ。そんなこと、もうさせない。」
ただの騎士と姫。私たちの間の関係はそれだけだ。
ルーイが何と言おうとも、それ以上の関係になど、なれるはずもない。良い関係になることなど、気持ちを伝えることなど、できるはずがない。
「何を、仰って……」
「わたくしに今後変わらぬ忠誠を誓ってくれたわよね?国境門で一生変わらないと言ったわよね?」
「は、はい。」
「それならば、ここでずっとわたくしのことを護って。わたくしのことを護ると誓って頂戴。」
姫の緑色の瞳が、私のことを真っ直ぐ見据える。
冗談ではないということか。
姫のことをずっと護ることができるとは、なんと幸せな誓いだろうか。
「ここで、ずっと?」
「えぇ。一生。」
「一生、お護り致します。」
私は姫の前で跪き、深く深く頭を下げた。
姫に、私の一生を捧げよう。
心よりの忠誠を誓おう。
その真っ直ぐなお心が、私を見る微笑みが曇ることのないよう、護り抜いてみせる。
私達の周りに咲き乱れる花の数だけ、姫に伝えたい。
いつでも、貴女の側に。
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