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別れと再会
城を出て
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姫とよく来ていた湖のほとり。そのちょうど反対側に、この花の群生地があるとは、思ってもいなかったな。
クラムに跨ったまま、辺りを見渡せば、一面にピンク色の花が咲き乱れている。
まるでピンク色の床のようだ。姫ならばこの景色に心を囚われるに違いない。この辺りに、いてくれないだろうか。
カミュート王から聞かされたシャーノ王からの要請は、フェリスの手紙と同様のものであった。姫が城を出て行ったから、どこにいるのか探して欲しい。コーゼから姫を救い出した私ならばわかるはずだと。
シャーノ王からカミュート王への要請を知り、私をシャーノに行かせるようにと進言したのは、やはりジュビエールだった。
兵士達の剣の腕は十分に上がった。次はシャーノに行ってこいと、私がカミュートを出るときにそう背中を押してくれた。余計な世話だと言いたいところだが、本当にありがたい。おかげで何の障害もなくシャーノに入ることができた。
ピンク色の床をゆっくり歩いていけば、その視界に飛び込んできたのは絹糸のような金髪。
やはり、ここだったか。
「やっと見つけました。このような所で何をされているんですか?クリュスエント姫。」
ピンク色の花に囲まれて、その花達を愛でていた姫に、声をかける。すぐそばには一軒の小屋がぽつんと建っていた。
姫はこのような場所で暮らしているのか。
シャーノに呼び戻された私は、必死に姫のことを探していた。定期的に姫から送られてくる手紙で、ご無事であることはわかっていたが、どこで何をしているのかがわからなくなったフェリスに、助けを求められる。シャーノ王に私を呼び戻すように進言したのもフェリスだ。
「あら、アイシュタルト。ついに見つかってしまいましたわ。いい場所でしょう?」
「いい場所でしょう?ではありません。王が心配しておいでですよ。」
「そんなことよりも何故アイシュタルトがここに?シャーノ国には戻れないと、そう言ったじゃない。」
私が探しにきたことに不満を感じているのか、姫が頬を膨らませる。
「確かに言いました。ですが、姫がいなくなったことで、シャーノ王がわざわざ私を呼び戻して下さったのですよ。姫を探すようにと。さぁ、城へお戻りください。」
「いやよ!私はここで山羊を飼って、馬を飼って、畑で野菜を育てて暮らすの。」
姫の発言に頭が真っ白になる。小屋の隣を見れば、シュルトまでが連れてきてあった。
どおりで城の馬小屋にシュルトがいないはずだ。シュルトは誰か別の騎士が乗っていると思っていたが、まさか姫が連れてきていたとは。
姫は馬には乗れないはずではなかったか。
カミュートからクラムを連れ、シャーノに戻った私は、そのままクラムに乗って姫を探していた。
「なんということ……姫にそのようなことができるわけがない。」
「それに、私が城へ戻ってどうするの?もう次期王には弟が決まっているわ。滅亡した国の王族に嫁いだ姫がそのような城へ戻ったとしても、何もすることはないわ。」
姫の言うことも間違ってはいない。シャーノに戻ってからも、皆に気を遣われ、昔の様には戻ることができなかったと、フェリスが話していた。
「そんなこと、ありませんよ。」
「いいえ!あるの!わたくしにだってそれぐらいのことわかっているわ。父様はわたくしが他所で問題を起こして、弟に迷惑がかかることを恐れて呼び戻したいだけなのよ。」
「まぁ。そうかもしれませんが。」
王の中にその様な気持ちがないとは言わないが、決してそれだけではない。姫のことを心配なさっているからこそ、私を呼び戻したのだ。
「そうでしょう?ところで、アイシュタルトはもうシャーノに戻ってきてるのよね?」
「はい。呼び戻されましたから。」
「それなら、一緒に暮らしましょう?ここで。」
「はい?!こ、ここで?!」
姫は一体、何を仰っている?
一緒に?私と?
クラムに跨ったまま、辺りを見渡せば、一面にピンク色の花が咲き乱れている。
まるでピンク色の床のようだ。姫ならばこの景色に心を囚われるに違いない。この辺りに、いてくれないだろうか。
カミュート王から聞かされたシャーノ王からの要請は、フェリスの手紙と同様のものであった。姫が城を出て行ったから、どこにいるのか探して欲しい。コーゼから姫を救い出した私ならばわかるはずだと。
シャーノ王からカミュート王への要請を知り、私をシャーノに行かせるようにと進言したのは、やはりジュビエールだった。
兵士達の剣の腕は十分に上がった。次はシャーノに行ってこいと、私がカミュートを出るときにそう背中を押してくれた。余計な世話だと言いたいところだが、本当にありがたい。おかげで何の障害もなくシャーノに入ることができた。
ピンク色の床をゆっくり歩いていけば、その視界に飛び込んできたのは絹糸のような金髪。
やはり、ここだったか。
「やっと見つけました。このような所で何をされているんですか?クリュスエント姫。」
ピンク色の花に囲まれて、その花達を愛でていた姫に、声をかける。すぐそばには一軒の小屋がぽつんと建っていた。
姫はこのような場所で暮らしているのか。
シャーノに呼び戻された私は、必死に姫のことを探していた。定期的に姫から送られてくる手紙で、ご無事であることはわかっていたが、どこで何をしているのかがわからなくなったフェリスに、助けを求められる。シャーノ王に私を呼び戻すように進言したのもフェリスだ。
「あら、アイシュタルト。ついに見つかってしまいましたわ。いい場所でしょう?」
「いい場所でしょう?ではありません。王が心配しておいでですよ。」
「そんなことよりも何故アイシュタルトがここに?シャーノ国には戻れないと、そう言ったじゃない。」
私が探しにきたことに不満を感じているのか、姫が頬を膨らませる。
「確かに言いました。ですが、姫がいなくなったことで、シャーノ王がわざわざ私を呼び戻して下さったのですよ。姫を探すようにと。さぁ、城へお戻りください。」
「いやよ!私はここで山羊を飼って、馬を飼って、畑で野菜を育てて暮らすの。」
姫の発言に頭が真っ白になる。小屋の隣を見れば、シュルトまでが連れてきてあった。
どおりで城の馬小屋にシュルトがいないはずだ。シュルトは誰か別の騎士が乗っていると思っていたが、まさか姫が連れてきていたとは。
姫は馬には乗れないはずではなかったか。
カミュートからクラムを連れ、シャーノに戻った私は、そのままクラムに乗って姫を探していた。
「なんということ……姫にそのようなことができるわけがない。」
「それに、私が城へ戻ってどうするの?もう次期王には弟が決まっているわ。滅亡した国の王族に嫁いだ姫がそのような城へ戻ったとしても、何もすることはないわ。」
姫の言うことも間違ってはいない。シャーノに戻ってからも、皆に気を遣われ、昔の様には戻ることができなかったと、フェリスが話していた。
「そんなこと、ありませんよ。」
「いいえ!あるの!わたくしにだってそれぐらいのことわかっているわ。父様はわたくしが他所で問題を起こして、弟に迷惑がかかることを恐れて呼び戻したいだけなのよ。」
「まぁ。そうかもしれませんが。」
王の中にその様な気持ちがないとは言わないが、決してそれだけではない。姫のことを心配なさっているからこそ、私を呼び戻したのだ。
「そうでしょう?ところで、アイシュタルトはもうシャーノに戻ってきてるのよね?」
「はい。呼び戻されましたから。」
「それなら、一緒に暮らしましょう?ここで。」
「はい?!こ、ここで?!」
姫は一体、何を仰っている?
一緒に?私と?
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