【完結】隣国の王子の下に嫁いだ姫と幸せになる方法

光城 朱純

文字の大きさ
上 下
95 / 98
別れと再会

城を出て

しおりを挟む
 姫とよく来ていた湖のほとり。そのちょうど反対側に、この花の群生地があるとは、思ってもいなかったな。

 クラムに跨ったまま、辺りを見渡せば、一面にピンク色の花が咲き乱れている。

 まるでピンク色の床のようだ。姫ならばこの景色に心を囚われるに違いない。この辺りに、いてくれないだろうか。

 カミュート王から聞かされたシャーノ王からの要請は、フェリスの手紙と同様のものであった。姫が城を出て行ったから、どこにいるのか探して欲しい。コーゼから姫を救い出した私ならばわかるはずだと。

 シャーノ王からカミュート王への要請を知り、私をシャーノに行かせるようにと進言したのは、やはりジュビエールだった。

 兵士達の剣の腕は十分に上がった。次はシャーノに行ってこいと、私がカミュートを出るときにそう背中を押してくれた。余計な世話だと言いたいところだが、本当にありがたい。おかげで何の障害もなくシャーノに入ることができた。

 ピンク色の床をゆっくり歩いていけば、その視界に飛び込んできたのは絹糸のような金髪。

 やはり、ここだったか。
 
「やっと見つけました。このような所で何をされているんですか?クリュスエント姫。」

 ピンク色の花に囲まれて、その花達を愛でていた姫に、声をかける。すぐそばには一軒の小屋がぽつんと建っていた。

 姫はこのような場所で暮らしているのか。

 シャーノに呼び戻された私は、必死に姫のことを探していた。定期的に姫から送られてくる手紙で、ご無事であることはわかっていたが、どこで何をしているのかがわからなくなったフェリスに、助けを求められる。シャーノ王に私を呼び戻すように進言したのもフェリスだ。
 
「あら、アイシュタルト。ついに見つかってしまいましたわ。いい場所でしょう?」
 
「いい場所でしょう?ではありません。王が心配しておいでですよ。」
 
「そんなことよりも何故アイシュタルトがここに?シャーノ国には戻れないと、そう言ったじゃない。」

 私が探しにきたことに不満を感じているのか、姫が頬を膨らませる。
 
「確かに言いました。ですが、姫がいなくなったことで、シャーノ王がわざわざ私を呼び戻して下さったのですよ。姫を探すようにと。さぁ、城へお戻りください。」
 
「いやよ!私はここで山羊を飼って、馬を飼って、畑で野菜を育てて暮らすの。」

 姫の発言に頭が真っ白になる。小屋の隣を見れば、シュルトまでが連れてきてあった。

 どおりで城の馬小屋にシュルトがいないはずだ。シュルトは誰か別の騎士が乗っていると思っていたが、まさか姫が連れてきていたとは。

 姫は馬には乗れないはずではなかったか。

 カミュートからクラムを連れ、シャーノに戻った私は、そのままクラムに乗って姫を探していた。
 
「なんということ……姫にそのようなことができるわけがない。」
 
「それに、私が城へ戻ってどうするの?もう次期王には弟が決まっているわ。滅亡した国の王族に嫁いだ姫がそのような城へ戻ったとしても、何もすることはないわ。」

 姫の言うことも間違ってはいない。シャーノに戻ってからも、皆に気を遣われ、昔の様には戻ることができなかったと、フェリスが話していた。
 
「そんなこと、ありませんよ。」
 
「いいえ!あるの!わたくしにだってそれぐらいのことわかっているわ。父様はわたくしが他所で問題を起こして、弟に迷惑がかかることを恐れて呼び戻したいだけなのよ。」
 
「まぁ。そうかもしれませんが。」

 王の中にその様な気持ちがないとは言わないが、決してそれだけではない。姫のことを心配なさっているからこそ、私を呼び戻したのだ。
 
「そうでしょう?ところで、アイシュタルトはもうシャーノに戻ってきてるのよね?」
 
「はい。呼び戻されましたから。」
 
「それなら、一緒に暮らしましょう?ここで。」

「はい?!こ、ここで?!」

 姫は一体、何を仰っている?

 一緒に?私と?
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

処理中です...