【完結】隣国の王子の下に嫁いだ姫と幸せになる方法

光城 朱純

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別れと再会

カミュートでの生活

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「アイシュタルト、国境門に常駐する兵士を補充したい。誰か適任はいないものか。」

「国境門なら、そこにいる三人を連れて行くが良い。少々思慮深さに欠けるが、実直な性格をしている。何よりも目が良いのと飛び出していける気概がある。」

「そうか。剣術はどうなっておる?」

「もう、ほとんど仕上がっておる。後は本人の鍛練次第だ。」

 ジュビエールは私が示した三人を見ながら、思案に暮れた。

「ジュビエール様!王がお呼びです!」

「あぁ?!今度は何だ!」

 遠くから投げかけられる呼び出しの声に、苛立ちを隠さずに返事をする。

「騎士団長も苦労が絶えんな。」

「其方が頑なに固辞したから、私が代わりになっただけだ。今からでも代わってやる。」

「ククッ。私になぞ、務まるわけがなかろう?元傭兵の騎士団長など、格好がつかぬ。」

「元傭兵の剣術指南役も変わらん。」

 姫がシャーノに戻ってからもう2ヶ月が経つ。

 私はコーゼ王を捕らえた褒賞に、カミュート騎士団の剣術指南役を仰せつかり、若い騎士たちを鍛えることに多少の楽しみを見出し始めていた。

 姫からは何の連絡もないままではあるが、シャーノは生まれ故郷だ。お幸せに暮らしているに違いない。

 私への連絡は、ない方が良い。

「アイシュタルト様、お客様がお見えです。」

 城内へ戻っていくジュビエールの後ろ姿を見ながら、ぼんやりしていれば、私にも呼び出しがかかる。

 客か。私への客は決まっている。

 人にばれぬように心を弾ませて、城門へと向かう。

「アイシュタルト、お久しぶりです。」

「ステフ、元気そうで何よりだ。」

「えぇ。おかげで忙しくしています。」

 門番に、私に必ず通すように伝えてある客は三人。その中の一人は赤子の世話で手が離せぬらしく、頻繁に来るのは二人だ。

「今日は城の中へは行かぬのか?」

「今日は呼ばれているわけではないので、アイシュタルトに会って、このまま失礼しようかと思っています。」

「先日納めた宝飾品は、王が大層気に入っていたと聞いたが。」

「あれ、手に入れるの大変だったんですよ。城のお抱えの商人なんて、僕には荷が重いんです。今ロイドの下で一から教えてもらってるところです。」

 私がカミュート王に褒美を与えてもらうときに希望を聞かれ、伝えた一つがステフを商人として優遇してもらうことだ。

 城に出入りできるようになったステフが、お抱え商人となるまでは早かったな。

 真面目な性格故に、真摯に仕事に取り組んでいる姿には皆が好感抱く。

「ロイドは元気だろうか?」

「はい。あの店の中に子どもの泣き声が響いていますよ。奥さまもお店に復帰されましたし。お祝いのもの、喜んでいました。」

「私には何を贈るべきかわからなかったからな。」

「商人に渡すものなんて、これが一番。だそうです。」

「ククッ。それは喜んでもらえているのか?」

「最大の褒め言葉です。」

 王から授与されたものの中から、私がロイドに返したものは子どもが産まれた祝いの品。何を贈るべきかと、悩みに悩んだが……喜んでもらえたのならそれで良い。

「今日は一人か?ルーイはどうした?」

「兄さんはロイドに捕まりました。得意の逃げ足で、すぐにどこかに行ってしまうのですが、今日は僕と出かける気でいたのでしょう。油断したみたいです。」

「ルーイも忙しそうだな。」

「はい。サポナ村の再興が決まりましたから。その責任者として、色々な仕事が山積みなんですよ。」

 獣からも人からも逃げるのが得意なルーイが責任者とは。ついに仕事に捕まったか。

 コーゼ国は王族の処罰と同時に滅亡。解体されることとなった。領地全てをカミュートが手に入れるのではなく、戦の最中静観を貫いたシャーノへの友好の証として、シャーノへの分割譲渡が行われた。

 つまり、国境が引き直された。

 国境近くの村だったからこそ、コーゼに攻め込まれる運命にあったサポナ村は、国境から遠く離れた場所となる。

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