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別れと再会
国境門
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ルーイとステフに背を向けて、サポナ村を後にした。こらえ切れなくなった想いが、雫となって目から零れ落ちる。
私の前に乗っている姫は、全てを承知の上で前を向いていてくださる。サポナ村にいた7日間で体力も多少回復したのか、コーゼを出てきた時に比べ、クラムに乗る姿勢が整っていた。
食事も睡眠も、しっかり整えてくれていたのだな。
リーベガルドを討つためとはいえ、あの状態の姫を置き去りにすることに不安がなかったわけではない。ルーイとステフならばと、無茶を承知で預けた。
今の姫の様子を見れば、二人がどれだけ姫に向き合ってくれていたかがわかる。
思えば思うほど、止めどなく溢れる涙を、冷たい冬の風がさらっていく。気持ちを切り替えろと、そう言われているようだ。
「素敵なお二人でしたね。」
「はい。自慢の友人です。」
姫の言葉に返事をすると、姫がこちらを振り返って、優しく微笑む。私の気持ちがおさまるまで、待っていてくれたのだ。
「ふふ。そのような方がいらっしゃるのが、羨ましい。」
「これまではいませんでした。クリュスエント様にもこれから現れますよ。」
「うふふ。そうだと良いのですけど。」
「体、お辛くはないですか?」
「まだ、大丈夫です。国境門までは、どれぐらいでしょう。」
「馬ですから、それほどかからず着きますよ。もうすぐ、シャーノ国に戻れます。」
ルーイと歩いた道も、馬で進めばこれほど短く感じるのか。
ジュビエールが共にいることで、姫に宿を用意することもできた。姫に苦労をかけることなく、シャーノへの道を進めるだけで、この決断が良かったものだと思うことができる。
旅を終える決断を後悔せずに済む。
「クリュスエント様、あれが国境門です。」
「国境門はどの国のものも立派ですね。コーゼ国の門を見たときも思いましたが、カミュート国のものも素晴らしいわ。」
「どこの国のものも、守るべき場所です。それに、その国で一番最初に目に入る場所ですから。」
前にここを通ったときは、無事に通り抜けることばかりで、ゆっくり見ることもなかったな。
国境門に到着すれば、即座にジュビエールが兵士へと話を通してくれる。
本来、国境を越える為にシャーノの王からの許可が必要だが、姫の顔は国境門に常駐する兵士にも知れ渡っている。お二人は足止めされることなくシャーノに入られることだろう。
「クリュスエント様。私がご一緒できるのはここまでです。間もなく、シャーノからの迎えも来るでしょう。」
「アイシュタルトは、やはり一緒には戻れないのですね。」
「王の命令を放棄して、国から出ました。そのような行いが、許されるはずがありません。」
私がシャーノに戻れば、間違いなく処罰される。私は、カミュートで生きていく、いかねばならぬ。
「そう、ですよね。今回の旅立ちは、見送ってくださるのですね。」
姫が言っているのは、嫁ぐ日のことか。
「あのときは、失礼しました。クリュスエント様。シャーノ国でお幸せに暮らしてください。」
「えぇ。アイシュタルトもお元気で。助けに来てくださったこと、本当に感謝しています。」
「私はクリュスエント様の護衛騎士ですから。それは一生、変わることはございません。もし私のことが必要になれば、いつでもお呼びください。なにがあっても、駆けつけます。」
次は今回の様に躊躇はしない。必ず、駆けつける。
「ありがとう。アイシュタルトからもらった二輪の花と共に、その言葉大切に致しますね。」
二輪……気づいていらっしゃったか。
私が言葉をかけるのを、笑顔を見せることで止め、姫はフェリスと共に国境門へ向かっていった。
また、離れてしまう。
それでも姫は、生まれ育った国で、今度こそ幸せになれるはずだ。
私が呼ばれることなど、ないのが一番良い。
姫の残り香を消すように強い風が吹き、粉雪が舞う。
姫に似たピンク色の花が咲く季節は、まだ先のようだ。
私の前に乗っている姫は、全てを承知の上で前を向いていてくださる。サポナ村にいた7日間で体力も多少回復したのか、コーゼを出てきた時に比べ、クラムに乗る姿勢が整っていた。
食事も睡眠も、しっかり整えてくれていたのだな。
リーベガルドを討つためとはいえ、あの状態の姫を置き去りにすることに不安がなかったわけではない。ルーイとステフならばと、無茶を承知で預けた。
今の姫の様子を見れば、二人がどれだけ姫に向き合ってくれていたかがわかる。
思えば思うほど、止めどなく溢れる涙を、冷たい冬の風がさらっていく。気持ちを切り替えろと、そう言われているようだ。
「素敵なお二人でしたね。」
「はい。自慢の友人です。」
姫の言葉に返事をすると、姫がこちらを振り返って、優しく微笑む。私の気持ちがおさまるまで、待っていてくれたのだ。
「ふふ。そのような方がいらっしゃるのが、羨ましい。」
「これまではいませんでした。クリュスエント様にもこれから現れますよ。」
「うふふ。そうだと良いのですけど。」
「体、お辛くはないですか?」
「まだ、大丈夫です。国境門までは、どれぐらいでしょう。」
「馬ですから、それほどかからず着きますよ。もうすぐ、シャーノ国に戻れます。」
ルーイと歩いた道も、馬で進めばこれほど短く感じるのか。
ジュビエールが共にいることで、姫に宿を用意することもできた。姫に苦労をかけることなく、シャーノへの道を進めるだけで、この決断が良かったものだと思うことができる。
旅を終える決断を後悔せずに済む。
「クリュスエント様、あれが国境門です。」
「国境門はどの国のものも立派ですね。コーゼ国の門を見たときも思いましたが、カミュート国のものも素晴らしいわ。」
「どこの国のものも、守るべき場所です。それに、その国で一番最初に目に入る場所ですから。」
前にここを通ったときは、無事に通り抜けることばかりで、ゆっくり見ることもなかったな。
国境門に到着すれば、即座にジュビエールが兵士へと話を通してくれる。
本来、国境を越える為にシャーノの王からの許可が必要だが、姫の顔は国境門に常駐する兵士にも知れ渡っている。お二人は足止めされることなくシャーノに入られることだろう。
「クリュスエント様。私がご一緒できるのはここまでです。間もなく、シャーノからの迎えも来るでしょう。」
「アイシュタルトは、やはり一緒には戻れないのですね。」
「王の命令を放棄して、国から出ました。そのような行いが、許されるはずがありません。」
私がシャーノに戻れば、間違いなく処罰される。私は、カミュートで生きていく、いかねばならぬ。
「そう、ですよね。今回の旅立ちは、見送ってくださるのですね。」
姫が言っているのは、嫁ぐ日のことか。
「あのときは、失礼しました。クリュスエント様。シャーノ国でお幸せに暮らしてください。」
「えぇ。アイシュタルトもお元気で。助けに来てくださったこと、本当に感謝しています。」
「私はクリュスエント様の護衛騎士ですから。それは一生、変わることはございません。もし私のことが必要になれば、いつでもお呼びください。なにがあっても、駆けつけます。」
次は今回の様に躊躇はしない。必ず、駆けつける。
「ありがとう。アイシュタルトからもらった二輪の花と共に、その言葉大切に致しますね。」
二輪……気づいていらっしゃったか。
私が言葉をかけるのを、笑顔を見せることで止め、姫はフェリスと共に国境門へ向かっていった。
また、離れてしまう。
それでも姫は、生まれ育った国で、今度こそ幸せになれるはずだ。
私が呼ばれることなど、ないのが一番良い。
姫の残り香を消すように強い風が吹き、粉雪が舞う。
姫に似たピンク色の花が咲く季節は、まだ先のようだ。
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