80 / 98
別れと再会
二人からの提案
しおりを挟む
姫との顔合わせが終わると、すぐにルーイがこちらへ視線を向ける。
「まさか、本気で連れてくると思ってなかった。」
「其方がここで匿うと言ったではないか。それよりも先にクリュスエント様に椅子を。」
「言ったよ。言ったけどさ……」
「そしてステフ。」
「ぼ、僕ですか?!何かしました?」
私とルーイの会話を横目に、姫に椅子を勧めていてくれたステフが、わたしに名前を呼ばれて身体を硬直させる。
「先程の剣。良い動きだった。」
「ありがとうございます!あの後も毎日欠かさず振ってたんです。」
「よくねぇって!あんなところで剣振り回して、誰か来たらどうするんだよ。」
「誰か……やはり来たのか?」
「あぁ。ここに着いて何度か。俺達は山へ隠れていてさ。荒らして行かなかったから、カミュートの兵かな。」
「最近は?」
「そういえば落ち着いてるなぁ。門の周辺の兵士も減ってきた。」
国境門周辺は完全に制圧し終わったということだろうな。
「王女さまのこと匿うのは良いけどさ、この後戦はどうなる?いつまでもこんな所で4人は暮らせねぇよ?」
「いや、3人だ。」
「3人?!」
「あぁ。ここで姫のことを匿っていて欲しい。」
「アイシュタルトは?どうするんだ?」
「私はもう一度コーゼへ戻る。やらなければならぬことがある。」
目を白黒させているルーイを放って、姫のお側に寄っていく。椅子に座って私たちの話を聞いていた姫は、ルーイと同じように動揺しているようにも見える。
私はその場に跪き、姫の顔を見上げた。
「クリュスエント様。しばらくの間、ここで彼らとお待ちいただけますか?」
「ア、アイシュタルトはどちらへ行かれるの?」
「私はクリュスエント様の護衛騎士ですから、クリュスエント様に害を為した者をこのままにはしておけません。」
私の目的はただ一人。国王リーベガルドだ。
私の中の怒りは消えぬことはない。腹の奥でくすぶり続ける怒りを、叩きつけてやらねば気が済まぬ。
「まさか……王族に手を出してはなりません!」
「私が無事に戻りましたら、シャーノまでお送りしますから。フェリス様のことも、お連れして参ります。」
「フェリス……ですが!」
「クリュスエント様。私は護衛騎士ではありますが、カミュート国の一傭兵です。敵対する者を討って、何を咎められましょうか。」
姫が私の言葉に頷きそうになる。
「ちょ、ちょっと待て!」
その時、ルーイが口を挟んだ。
「何だ?」
「話に割り込んで悪い。それは謝る。でもさ、いつ出発するつもり?」
「それは、今すぐにでも。」
「って言うと思ったんだよ。だから止めたの!」
「どういうことだ?」
「出発は明日にしろ!もう日も暮れる。一晩休んで、朝出れば良い。」
「一刻も早くコーゼに戻らねば。」
ルーイが私を止める意味がわからない。早く出れば早くあちらにたどり着くというのに。
「ふふ。アイシュタルト、昨夜寝てないのではないですか?兄さんはそれを心配してるんです。」
「そう!酷い顔してる!」
「昨夜は……」
「クリュスエント様を守ってたんですよね。わかってます。だからこそ、今夜は休んで下さい。」
「この家なら、ステフがいてくれるから。」
この二人には隠せないな。確かに昨夜は眠れなかった。マントで顔を隠したままの姫を宿には連れて行けず、森の木陰で夜を明かした。
私が眠るわけにはいかなかった。
「アイシュタルト、わたくしのせいですよね。ごめんなさい。」
姫が表情を曇らせる。
「お気になさらないで下さい。それが私の仕事です。」
「アイシュタルト、兄さんの言う通りです。今夜は僕がちゃんと見張りますから。剣の腕は、先程褒めてくれましたよね。」
ここは、ステフの言葉に甘えようか。緊張の連続で確かに私も疲れていた。
「ステフ、ルーイ。その言葉に、甘えさせて貰う。」
「まさか、本気で連れてくると思ってなかった。」
「其方がここで匿うと言ったではないか。それよりも先にクリュスエント様に椅子を。」
「言ったよ。言ったけどさ……」
「そしてステフ。」
「ぼ、僕ですか?!何かしました?」
私とルーイの会話を横目に、姫に椅子を勧めていてくれたステフが、わたしに名前を呼ばれて身体を硬直させる。
「先程の剣。良い動きだった。」
「ありがとうございます!あの後も毎日欠かさず振ってたんです。」
「よくねぇって!あんなところで剣振り回して、誰か来たらどうするんだよ。」
「誰か……やはり来たのか?」
「あぁ。ここに着いて何度か。俺達は山へ隠れていてさ。荒らして行かなかったから、カミュートの兵かな。」
「最近は?」
「そういえば落ち着いてるなぁ。門の周辺の兵士も減ってきた。」
国境門周辺は完全に制圧し終わったということだろうな。
「王女さまのこと匿うのは良いけどさ、この後戦はどうなる?いつまでもこんな所で4人は暮らせねぇよ?」
「いや、3人だ。」
「3人?!」
「あぁ。ここで姫のことを匿っていて欲しい。」
「アイシュタルトは?どうするんだ?」
「私はもう一度コーゼへ戻る。やらなければならぬことがある。」
目を白黒させているルーイを放って、姫のお側に寄っていく。椅子に座って私たちの話を聞いていた姫は、ルーイと同じように動揺しているようにも見える。
私はその場に跪き、姫の顔を見上げた。
「クリュスエント様。しばらくの間、ここで彼らとお待ちいただけますか?」
「ア、アイシュタルトはどちらへ行かれるの?」
「私はクリュスエント様の護衛騎士ですから、クリュスエント様に害を為した者をこのままにはしておけません。」
私の目的はただ一人。国王リーベガルドだ。
私の中の怒りは消えぬことはない。腹の奥でくすぶり続ける怒りを、叩きつけてやらねば気が済まぬ。
「まさか……王族に手を出してはなりません!」
「私が無事に戻りましたら、シャーノまでお送りしますから。フェリス様のことも、お連れして参ります。」
「フェリス……ですが!」
「クリュスエント様。私は護衛騎士ではありますが、カミュート国の一傭兵です。敵対する者を討って、何を咎められましょうか。」
姫が私の言葉に頷きそうになる。
「ちょ、ちょっと待て!」
その時、ルーイが口を挟んだ。
「何だ?」
「話に割り込んで悪い。それは謝る。でもさ、いつ出発するつもり?」
「それは、今すぐにでも。」
「って言うと思ったんだよ。だから止めたの!」
「どういうことだ?」
「出発は明日にしろ!もう日も暮れる。一晩休んで、朝出れば良い。」
「一刻も早くコーゼに戻らねば。」
ルーイが私を止める意味がわからない。早く出れば早くあちらにたどり着くというのに。
「ふふ。アイシュタルト、昨夜寝てないのではないですか?兄さんはそれを心配してるんです。」
「そう!酷い顔してる!」
「昨夜は……」
「クリュスエント様を守ってたんですよね。わかってます。だからこそ、今夜は休んで下さい。」
「この家なら、ステフがいてくれるから。」
この二人には隠せないな。確かに昨夜は眠れなかった。マントで顔を隠したままの姫を宿には連れて行けず、森の木陰で夜を明かした。
私が眠るわけにはいかなかった。
「アイシュタルト、わたくしのせいですよね。ごめんなさい。」
姫が表情を曇らせる。
「お気になさらないで下さい。それが私の仕事です。」
「アイシュタルト、兄さんの言う通りです。今夜は僕がちゃんと見張りますから。剣の腕は、先程褒めてくれましたよね。」
ここは、ステフの言葉に甘えようか。緊張の連続で確かに私も疲れていた。
「ステフ、ルーイ。その言葉に、甘えさせて貰う。」
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる