【完結】隣国の王子の下に嫁いだ姫と幸せになる方法

光城 朱純

文字の大きさ
上 下
72 / 98
別れと再会

客室の扉を開ける

しおりを挟む
「二人とも、本当にありがとう。」

 私はナージャと庭師の二人に、改めて深く頭を下げた。

 私のその姿に、二人が顔を見合わせて首を振る。

「そのような真似、なさらないで下さい!」

 ナージャが必死に私を止めようとする。

「貴方様は、ここに攻めてきたのではないのですか?」

「攻めて……いや、この城を落とすことに興味はないな。」

 私は姿勢を正し、庭師の疑問に素直に答えた。

「へ?そ、それでは何を?!」

「私は私のやるべきことをやりにきた。だが、私以外にも何人か騎士が城に乗り込んでいるはずだ。彼らの目的は王であるが、抵抗すればどうなるかわからぬ。無抵抗のまま、城門の外へ出た方が良い。」

「外へ?」

「あぁ。カミュートの王は無抵抗の平民を処分する気はない。すぐに解放してもらえるはずだ。そうやってジュビエールに聞いたと、兵士たちに伝えろ。」

 隊長であるジュビエールの名前を出せば、悪く扱われることはないだろう。
 
「はい!あ、ありがとうございます。」

 今度は庭師が私に頭を下げる。

「ところで、王族の住まいはどの辺りだ?」

「王は、客室とは反対側で生活されていらっしゃいます。」

 ナージャがもう一度私に案内をしてくれた。

「ナージャ、丁寧にありがとう。其方も彼と一緒に城の外へ出た方が良い。」

「は、はい!」

 ナージャが顔を赤らめながら返事をする。その顔がなんとも可愛らしくて、ほんの少し気持ちが和んだ。

「ところでこの城の庭に、ピンク色の花は咲くか?」

 私は頭の隅に引っかかっていた質問を庭師に投げかける。どうでも良いことだが、もし咲いているのであれば、姫に持って行けないかと、そんなことを思ってしまった。

「ピンク……ちょうどあの辺りに咲きはしますが、今は季節が違いますので。」

「そうか。少し、見ても良いか?」

「もちろんです!」

 庭師に案内されて、ピンク色の花が咲く場所へと足を運ぶが、彼の言った通り花は見つけられなかった。

 ただ、その葉や茎は間違いなく姫の好きな花である。

 花の咲いていない花壇をがっかりしながら見渡していると、何枚もの葉に隠れるように、一輪の蕾を見つけた。

「これは……」

「ここは日当たりも良いので、もう蕾を付けてしまったのでしょう。」

「これをもらって行っても良いか?」

「咲いておりませんよ?」

「大丈夫だ。これが良い。」

「それでしたら、折って持って行って下さい。」

「ありがとう。感謝する。」

 庭師の言葉に甘えさせてもらい、花を手にする。

「本当に世話になった。二人はすぐに城の外へ。私は中へ入らせてもらう。」

「お、お気をつけて。」

「ククッ。私は敵だぞ?」

 庭師の言葉につい笑い声が漏れた。

「そうでした。それでも、お気をつけください。」

「あぁ。心遣い感謝する。」

 私は二人に見送られながら、城の中へ入っていった。目指すはナージャに聞いた客室。そこに姫がいるかもしれぬ。

 静まり返った廊下を、人の目を避けるように歩く。誰にも会いたくはない。会って、騒ぎを大きくしたくない。

 周りを警戒しながら、真っ直ぐに客室へと向かう。2階の一番端。

 ちょうどこの辺りか。

 いくつもの部屋の扉が並んだ一角にたどり着く。どの扉も閉じられていて、一体どこに姫がいらっしゃるのかはわからない。

 私は、素晴らしい装飾の施された扉から順に、ノックをしていくことにした。

 腰に下げていた剣を手に構え、摘んできた花の茎をベルトに引っ掛ける。

 一番端の部屋の扉をノックし、念のために扉を開けて中を確認する。誰もいないことがわかれば、次の部屋も同様に確かめていく。

 こうして、いくつもの部屋の扉を開けていった。そうして、徐々に装飾の少ない扉へと、客室の格が落ちていく。

 シャーノの王女がこのような部屋にいるわけがない。姫が住まうにはあまりにも質素な作りの部屋の扉を開け始めた頃には、既に半ば諦めてもいた。

 もう残す扉も少ない。姫は既にどこかへ移動されたのだとそう思いながら、次の部屋の扉をノックする。

「はい。」

 部屋の中から、声が聞こえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ
恋愛
美しい旦那様は結婚初夜に言いました。 「君を愛するつもりはない」と。 そんな……、私を愛してくださらないの……? 「うっ……!」 ショックを受けた私の頭に入ってきたのは、アラフォー日本人の前世の記憶だった。 ああ……、貧乏で没落寸前の伯爵様だけど、見た目だけはいいこの男に今世の私は騙されたのね。 貴方が私を妻として大切にしてくれないなら、私も好きにやらせてもらいますわ。 旦那様、短い結婚生活になりそうですが、どうぞよろしく! 誤字脱字お許しください。本当にすみません。 ご都合主義です。

処理中です...