70 / 98
別れと再会
ずっと欲しているもの
しおりを挟む
ジュビエールからの伝令が伝わったのであろう、何人かの騎士が城に向かって駆けてくるのが見える。
まだ門にいたというのか。
投降している兵を相手に何をやっていたのか。
騎士の動きの悪さに頭が痛い。
「城の門を開けるぞ!」
ジュビエールのかけ声に、駆けつけた騎士を中心に、ここでも無理矢理こじ開けようとする。
ジュビエールに借りたマントのせいか、今度はいぶかしげな視線を送られることもない。
門一つ開けたところで、大した負担にもならぬのだが、ジュビエールからのせっかくの好意だ。ありがたく受け取っておくことにする。
城門は先ほどに比べて簡単に開いた。戦力は都の門に集中してあったのか。あるいは王族達を守るために城内に散らばっているのか。
流れ出てくる兵士もいない。
私たちは静かな城の庭に足を踏み入れた。
門をくぐった先から、改めて城全体を見渡す。高さは低いが、それ以外はさほど変わったところもない。カミュートの城の方が風変わりであったと思う。
私がそう思うということは、コーゼの城はシャーノの城と似ているのだろうな。中の造りまで似ていてくれれば、手間が省けるのだが。
「王はどこだろうな。」
「それを探すのが其方の役割であろう?兵士もおらぬ。私は私のやるべきことをやりに行く。」
「一人で行く気か?」
「元よりそのつもりだ。」
このような形で城に乗り込むことになろうとは、思ってもみなかった。
一人で城に入り、誰にもバレぬように姫を奪い去る。その計画だったはずだ。
「私は王を見つけることを優先させねばならぬ。其方には付き合えん。」
「良いのか?お目付役なのであろう?」
「邪魔をすれば?」
「本気で剣を交えるか?」
「それはできぬ。私より、其方の方が強いからな。何度も手合わせをして、思い知っておる。一度も勝てなかったではないか。」
「ククッ。勝つ気であったのか?」
「それはそうであろう?!傭兵などに負けてはおれぬ!」
「それは悪いことをした。」
「其方、本当は何だ?そこらの傭兵とは何もかもが違う。」
「カミュートを旅する旅人、だろうな。」
城を出た。国を捨てた。そうして騎士ではなくなった私の今の立場は、ルーイと同じ旅人だ。
あの鮮やかな茶色の頭を思い出し、思わず口元が弛む。
「そんなはずが!」
「では、何だというのだ?カミュートの騎士団に所属した覚えはないぞ。」
「そのようなことは、わかっておる。」
私がシャーノの出身であるなど、思いもよらぬか。
「もし、王に遭遇したら、捕らえて其方に引き渡す。それで良いな?」
「其方の手柄とすれば良かろう?」
「王に興味はないと、そう言った。」
「手柄にもか?!」
「あぁ。悪いがないな。どうせ私の欲しいものは手に入らぬ。」
「欲しいもの?」
「ククッ。私がずっと欲しているものだ。それを持っているのは、この世界でお一人だけだ。」
「それは何だ?!」
「悪いがもう先へ行く。王は必ず引き渡す。それ以外は、目を瞑っていてくれ。」
私はそう言って、ジュビエール達から離れた。
目立ちはしたが、こうも簡単に城に入れるとは。
クルトに乗ったまま、城の裏手へと回りこんで行く。
城の裏側には美しい庭が広がっていた。咲き乱れた何十種類もの花の中から、ついいつもの様にピンク色の花を探す。
今は季節ではないか。
そもそもコーゼに咲く花かどうかもわからぬ。
花を踏みつけぬように、花畑の外側から花達を見る。そして、花畑を横目に、城の真裏にたどり着いた頃、腰を抜かして座り込んでいる庭師を見つけた。
「其方、少し話を聞きたい。何、其方を殺めるつもりはない。教えて欲しいことがあるのだ。」
カミュート騎士団のマントを羽織り、馬に跨った私のことを、怯えた様子で見ている庭師に話しかける。
庭師の体が、固まったように見えた。
まだ門にいたというのか。
投降している兵を相手に何をやっていたのか。
騎士の動きの悪さに頭が痛い。
「城の門を開けるぞ!」
ジュビエールのかけ声に、駆けつけた騎士を中心に、ここでも無理矢理こじ開けようとする。
ジュビエールに借りたマントのせいか、今度はいぶかしげな視線を送られることもない。
門一つ開けたところで、大した負担にもならぬのだが、ジュビエールからのせっかくの好意だ。ありがたく受け取っておくことにする。
城門は先ほどに比べて簡単に開いた。戦力は都の門に集中してあったのか。あるいは王族達を守るために城内に散らばっているのか。
流れ出てくる兵士もいない。
私たちは静かな城の庭に足を踏み入れた。
門をくぐった先から、改めて城全体を見渡す。高さは低いが、それ以外はさほど変わったところもない。カミュートの城の方が風変わりであったと思う。
私がそう思うということは、コーゼの城はシャーノの城と似ているのだろうな。中の造りまで似ていてくれれば、手間が省けるのだが。
「王はどこだろうな。」
「それを探すのが其方の役割であろう?兵士もおらぬ。私は私のやるべきことをやりに行く。」
「一人で行く気か?」
「元よりそのつもりだ。」
このような形で城に乗り込むことになろうとは、思ってもみなかった。
一人で城に入り、誰にもバレぬように姫を奪い去る。その計画だったはずだ。
「私は王を見つけることを優先させねばならぬ。其方には付き合えん。」
「良いのか?お目付役なのであろう?」
「邪魔をすれば?」
「本気で剣を交えるか?」
「それはできぬ。私より、其方の方が強いからな。何度も手合わせをして、思い知っておる。一度も勝てなかったではないか。」
「ククッ。勝つ気であったのか?」
「それはそうであろう?!傭兵などに負けてはおれぬ!」
「それは悪いことをした。」
「其方、本当は何だ?そこらの傭兵とは何もかもが違う。」
「カミュートを旅する旅人、だろうな。」
城を出た。国を捨てた。そうして騎士ではなくなった私の今の立場は、ルーイと同じ旅人だ。
あの鮮やかな茶色の頭を思い出し、思わず口元が弛む。
「そんなはずが!」
「では、何だというのだ?カミュートの騎士団に所属した覚えはないぞ。」
「そのようなことは、わかっておる。」
私がシャーノの出身であるなど、思いもよらぬか。
「もし、王に遭遇したら、捕らえて其方に引き渡す。それで良いな?」
「其方の手柄とすれば良かろう?」
「王に興味はないと、そう言った。」
「手柄にもか?!」
「あぁ。悪いがないな。どうせ私の欲しいものは手に入らぬ。」
「欲しいもの?」
「ククッ。私がずっと欲しているものだ。それを持っているのは、この世界でお一人だけだ。」
「それは何だ?!」
「悪いがもう先へ行く。王は必ず引き渡す。それ以外は、目を瞑っていてくれ。」
私はそう言って、ジュビエール達から離れた。
目立ちはしたが、こうも簡単に城に入れるとは。
クルトに乗ったまま、城の裏手へと回りこんで行く。
城の裏側には美しい庭が広がっていた。咲き乱れた何十種類もの花の中から、ついいつもの様にピンク色の花を探す。
今は季節ではないか。
そもそもコーゼに咲く花かどうかもわからぬ。
花を踏みつけぬように、花畑の外側から花達を見る。そして、花畑を横目に、城の真裏にたどり着いた頃、腰を抜かして座り込んでいる庭師を見つけた。
「其方、少し話を聞きたい。何、其方を殺めるつもりはない。教えて欲しいことがあるのだ。」
カミュート騎士団のマントを羽織り、馬に跨った私のことを、怯えた様子で見ている庭師に話しかける。
庭師の体が、固まったように見えた。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。


記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる