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別れと再会
斬りたくもないものを斬った
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私たちが門の中に入るとすぐに、ジュビエールの死角からコーゼの兵士が近づいてくるのが見えた。
私は思わず、その兵士を斬りつけてしまった。
それまで、命だけは奪うものかと気をつけていたのに、急所を目掛けて一撃をくらわせてしまう。
コーゼの王に求心力はない。ならばここで戦っている彼らもまた、無理強いをされているのではないかと、私の力の及ぶ限りは命を助けたいと、そう思っていたのに。
やりたくもないことを、やらされているのかもしれないのにな。
命令に従うことしか知らなかった、昔の自分のように。
カミュートの兵はジュビエールの話通りに強かった。
流れ出してきたコーゼの兵たちは、早くも投降を始める。
その姿を見ていると、私が斬ってしまった彼に対する罪悪感が強まっていく。
「アイシュタルト!其方やはり強いな!」
私に命を救われたジュビエールが褒めてくれるが、そのような言葉は、何の意味もない。
私は斬りたくもない命を斬った。
「王を捕らえればこの戦は終わるのだろう?!これ以上、余分に命を散らせる必要はないのであろうな?!」
私の気持ちも知らずに呑気に声をかけてきたジュビエールに、胸の奥に湧き上がった苛立ちをぶつけた。
「あぁ。王さえいなくなれば、戦は終わるだろうな。」
「ならば、このような場所でくすぶっている場合ではない!先へ進むぞ。」
私はクルトと共に、コーゼの都の中心、城へ向かって駆け出した。
「おい!アイシュタルト!待てって。」
私の後をジュビエールと騎士達が追いかけてくる。
私は振り返ることも、立ち止まることもせずに進んでいった。
道中何人かのコーゼ兵と相対するが、急所を外して一撃をくらわせ、戦意が無くなったことを確認しながら、城を目掛けて突き進んだ。
ステフの言った通り、中を全く見ることのできない城壁の外側にたどり着いたところで、私はようやく足を止めた。
「アイシュタルト、どうしたんだよ。何を焦ってる?」
「王さえ捕らえれば良いと、其方が言ったではないか。」
「だから城へ来たって?無茶な……」
ジュビエールが頭を抱えた。
「何が無茶だと?門を開け、次に城へ向かい、王を捕らえる。それが私たちに課せられた使命であろう?」
「確かにそう言った。しかし、まだ歩兵達がたどりついていないではないか。」
「そのような者待っていられるか!時間が経てば経つほど、余分な命が散っていく。それは私の本意ではない。」
「はぁ。仕方ないな。それでは今ついてきているこの人数で城へ入ろう。」
「ジュビエール、城を開け、一通り兵士を倒したら、私は私のやるべきことをやりに行く。王の行方は頼んだ。」
「な!何と勝手な言い分だ!そのようなことは認められん!」
「そうか。ならば其方はここで援軍を待てばよい。私は一人でも行くぞ。」
ここまできて、これ以上時間をかけられるか。
姫をこの手に抱くことも、王を捕らえることも、待っていられぬ。
やりたくもないことをやらされる兵を、これ以上増やすものか。
「あぁ!ったく!わかったよ!其方の意見にのろう!ただ、伝令を送る。その時間だけは待て。」
ジュビエールが私の意見を半ば呆れながら受け入れ、手の空いてる者を城の周辺に集めるように伝令を走らせた。
私などのお目付役となったばかりに、不運なことだ。私などに構うなと、あれほど申したのに。
自ら進んで私の側に寄ってきたのだ。そのようなことも覚悟の上であろう。
ジュビエールの焦りを横目に、改めてコーゼの城を見る。
壁が高いのか、城が低いのか、中を見ることは叶わぬ。門を開け、その上で城の中を推測するしかないか。
姫は一体、どこにおられる?
私は思わず、その兵士を斬りつけてしまった。
それまで、命だけは奪うものかと気をつけていたのに、急所を目掛けて一撃をくらわせてしまう。
コーゼの王に求心力はない。ならばここで戦っている彼らもまた、無理強いをされているのではないかと、私の力の及ぶ限りは命を助けたいと、そう思っていたのに。
やりたくもないことを、やらされているのかもしれないのにな。
命令に従うことしか知らなかった、昔の自分のように。
カミュートの兵はジュビエールの話通りに強かった。
流れ出してきたコーゼの兵たちは、早くも投降を始める。
その姿を見ていると、私が斬ってしまった彼に対する罪悪感が強まっていく。
「アイシュタルト!其方やはり強いな!」
私に命を救われたジュビエールが褒めてくれるが、そのような言葉は、何の意味もない。
私は斬りたくもない命を斬った。
「王を捕らえればこの戦は終わるのだろう?!これ以上、余分に命を散らせる必要はないのであろうな?!」
私の気持ちも知らずに呑気に声をかけてきたジュビエールに、胸の奥に湧き上がった苛立ちをぶつけた。
「あぁ。王さえいなくなれば、戦は終わるだろうな。」
「ならば、このような場所でくすぶっている場合ではない!先へ進むぞ。」
私はクルトと共に、コーゼの都の中心、城へ向かって駆け出した。
「おい!アイシュタルト!待てって。」
私の後をジュビエールと騎士達が追いかけてくる。
私は振り返ることも、立ち止まることもせずに進んでいった。
道中何人かのコーゼ兵と相対するが、急所を外して一撃をくらわせ、戦意が無くなったことを確認しながら、城を目掛けて突き進んだ。
ステフの言った通り、中を全く見ることのできない城壁の外側にたどり着いたところで、私はようやく足を止めた。
「アイシュタルト、どうしたんだよ。何を焦ってる?」
「王さえ捕らえれば良いと、其方が言ったではないか。」
「だから城へ来たって?無茶な……」
ジュビエールが頭を抱えた。
「何が無茶だと?門を開け、次に城へ向かい、王を捕らえる。それが私たちに課せられた使命であろう?」
「確かにそう言った。しかし、まだ歩兵達がたどりついていないではないか。」
「そのような者待っていられるか!時間が経てば経つほど、余分な命が散っていく。それは私の本意ではない。」
「はぁ。仕方ないな。それでは今ついてきているこの人数で城へ入ろう。」
「ジュビエール、城を開け、一通り兵士を倒したら、私は私のやるべきことをやりに行く。王の行方は頼んだ。」
「な!何と勝手な言い分だ!そのようなことは認められん!」
「そうか。ならば其方はここで援軍を待てばよい。私は一人でも行くぞ。」
ここまできて、これ以上時間をかけられるか。
姫をこの手に抱くことも、王を捕らえることも、待っていられぬ。
やりたくもないことをやらされる兵を、これ以上増やすものか。
「あぁ!ったく!わかったよ!其方の意見にのろう!ただ、伝令を送る。その時間だけは待て。」
ジュビエールが私の意見を半ば呆れながら受け入れ、手の空いてる者を城の周辺に集めるように伝令を走らせた。
私などのお目付役となったばかりに、不運なことだ。私などに構うなと、あれほど申したのに。
自ら進んで私の側に寄ってきたのだ。そのようなことも覚悟の上であろう。
ジュビエールの焦りを横目に、改めてコーゼの城を見る。
壁が高いのか、城が低いのか、中を見ることは叶わぬ。門を開け、その上で城の中を推測するしかないか。
姫は一体、どこにおられる?
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