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別れと再会
コーゼの国内にて
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コーゼの国内を馬に乗って駆けて行くが、周りは本当に静かであった。
街に立ち寄っているわけではない。戦の最中の国内を平然と歩く国民がいないのは当然かもしれない。
ただ、兵士にも遭わないというのは不気味なものである。
「ジュビエール、ここは本当にコーゼの国内か?兵士の一人すら、出てきやしないではないか。」
「フッ。つまらぬか?」
「いや、つまらぬというより、気味が悪い。」
「戦いもなく進んでいけると、申したであろう?」
「確かに聞いた。それにしても、ここまでとは思っていなかった。」
何の障害もなく、都まで行けるというのは、聞いてはいてももう少し手ごたえのあるものだと思っていたのだ。
「その不気味さももう終わる。」
「どういうことだ?」
「そこだ。その壁の向こうが、コーゼの都だ。」
ジュビエールが指を差した先には、左右に壁が広がっていた。
この壁の向こうに……姫にお会いできるまで、あと少し。
その思いで、私は思わず生唾を飲み込んだ。
「門を開けるのは?」
「明日には国境門にいた騎馬隊が合流する。その後だ。」
「それで大丈夫なのか?」
「国境門を落とした騎馬隊は騎士団の中でも選りすぐりだ。強いぞ。」
「其方よりもか?」
「私より……強いのもいる。とでもしておこうか。」
「其方は何故第二陣なんだ?」
「フッ。色々な事情があるからな。」
ジュビエールの含みを持たせた言い方に、大して良い事情ではないことが伺い知れる。
剣術は十分に強いはずなのだが。
ジュビエールの話通り、翌日には騎馬隊が合流した。
私たちよりも後にカミュートを出発した歩兵と入れ替わり、国境門にいた兵士もそのうちここまでたどり着くらしい。
その前に、今の人数で門を開けさせるというのか。
騎馬隊の中でも立場の下の者達が、力任せに門をを押し開けようとし始めた。
そうすれば、傭兵の立場にもかかわらず、騎乗したままの私の存在が目につく者もいるようで。先程から視線が突き刺さる。
文句があるのであれば、直接言えばよいものを。隊長のジュビエールの手前、それもできぬか。
「ジュビエール、私も降りて開けて来よう。」
「其方がやるべきことではないだろう!」
「何を言っている。私の役目ではないか。騎士団の者達がおかしな視線を送ってくる。私は私のやるべきことをやる。」
クラムから降りようとする私を手で制し、ジュビエールが私に一枚のマントを渡した。
「其方には無駄な力を使って欲しくはない。これを羽織っておけ。」
ジュビエールが私に渡したのは、カミュート騎士団のマントであった。
階級によって刺繍が異なるマントは、一目でその地位がわかるようにされている。
「これは?」
「私の予備のマントだ。貸してやるから、無駄な仕事はするな。」
「予備のマントか……」
それは何とも使い途のありそうなものを。良いものを借りたものだと、思わず口の端が上がるのを必死で抑え込んだ。
「アイシュタルト、門が開いたらコーゼの兵が出てくるだろう。油断するなよ。」
「ククッ。誰に言っておる。其方こそ、隊長は狙われるものだ。」
そのようなやり取りをしている最中であった。
バァン!!という大きな音をたてて、ついに門が破られた。
門の中から一斉にコーゼの兵が流れ出てくる。
装備が整わなかったと聞いてはいたが、さすがに都の中の兵達はしっかり整えているな。
そしてあらゆる所から弓や剣が襲いかかってくる。
どこまで加減ができるだろうか。誰かを守るためでもないのに、人を傷つけるというのは、気が進まない。
それでも、戦わねば。この門の中に入らねば。私の目的はその先である。
斬りかかってくる兵を斬り捨て、弓を払い除け、騎馬隊は徐々に門の中に侵攻していった。
「ジュビエール!危ない!」
街に立ち寄っているわけではない。戦の最中の国内を平然と歩く国民がいないのは当然かもしれない。
ただ、兵士にも遭わないというのは不気味なものである。
「ジュビエール、ここは本当にコーゼの国内か?兵士の一人すら、出てきやしないではないか。」
「フッ。つまらぬか?」
「いや、つまらぬというより、気味が悪い。」
「戦いもなく進んでいけると、申したであろう?」
「確かに聞いた。それにしても、ここまでとは思っていなかった。」
何の障害もなく、都まで行けるというのは、聞いてはいてももう少し手ごたえのあるものだと思っていたのだ。
「その不気味さももう終わる。」
「どういうことだ?」
「そこだ。その壁の向こうが、コーゼの都だ。」
ジュビエールが指を差した先には、左右に壁が広がっていた。
この壁の向こうに……姫にお会いできるまで、あと少し。
その思いで、私は思わず生唾を飲み込んだ。
「門を開けるのは?」
「明日には国境門にいた騎馬隊が合流する。その後だ。」
「それで大丈夫なのか?」
「国境門を落とした騎馬隊は騎士団の中でも選りすぐりだ。強いぞ。」
「其方よりもか?」
「私より……強いのもいる。とでもしておこうか。」
「其方は何故第二陣なんだ?」
「フッ。色々な事情があるからな。」
ジュビエールの含みを持たせた言い方に、大して良い事情ではないことが伺い知れる。
剣術は十分に強いはずなのだが。
ジュビエールの話通り、翌日には騎馬隊が合流した。
私たちよりも後にカミュートを出発した歩兵と入れ替わり、国境門にいた兵士もそのうちここまでたどり着くらしい。
その前に、今の人数で門を開けさせるというのか。
騎馬隊の中でも立場の下の者達が、力任せに門をを押し開けようとし始めた。
そうすれば、傭兵の立場にもかかわらず、騎乗したままの私の存在が目につく者もいるようで。先程から視線が突き刺さる。
文句があるのであれば、直接言えばよいものを。隊長のジュビエールの手前、それもできぬか。
「ジュビエール、私も降りて開けて来よう。」
「其方がやるべきことではないだろう!」
「何を言っている。私の役目ではないか。騎士団の者達がおかしな視線を送ってくる。私は私のやるべきことをやる。」
クラムから降りようとする私を手で制し、ジュビエールが私に一枚のマントを渡した。
「其方には無駄な力を使って欲しくはない。これを羽織っておけ。」
ジュビエールが私に渡したのは、カミュート騎士団のマントであった。
階級によって刺繍が異なるマントは、一目でその地位がわかるようにされている。
「これは?」
「私の予備のマントだ。貸してやるから、無駄な仕事はするな。」
「予備のマントか……」
それは何とも使い途のありそうなものを。良いものを借りたものだと、思わず口の端が上がるのを必死で抑え込んだ。
「アイシュタルト、門が開いたらコーゼの兵が出てくるだろう。油断するなよ。」
「ククッ。誰に言っておる。其方こそ、隊長は狙われるものだ。」
そのようなやり取りをしている最中であった。
バァン!!という大きな音をたてて、ついに門が破られた。
門の中から一斉にコーゼの兵が流れ出てくる。
装備が整わなかったと聞いてはいたが、さすがに都の中の兵達はしっかり整えているな。
そしてあらゆる所から弓や剣が襲いかかってくる。
どこまで加減ができるだろうか。誰かを守るためでもないのに、人を傷つけるというのは、気が進まない。
それでも、戦わねば。この門の中に入らねば。私の目的はその先である。
斬りかかってくる兵を斬り捨て、弓を払い除け、騎馬隊は徐々に門の中に侵攻していった。
「ジュビエール!危ない!」
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