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別れと再会
決意のとき
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ルーイの言い分は間違ってはいない。コーゼの民を傷つけることはなくとも、王族は全員連鎖で処罰が下るだろう。
カミュートに攻撃を仕掛けた罪で、処分される。そして、コーゼが滅ぶ。
当然、王妃である姫も同罪だ。カミュートに戦を仕掛けた時点でそれは決定事項で、私は仕方のないことだと思ってしまっていた。
それでも、コーゼでお幸せに暮らしているのであれば、そのまま王族としての最期を全うするべきだと、それが王族としての誇りだと、そう考えていた。
滅ぶなら、その前に助け出す。その様に考えることなどできなかった。目立っていない姫であれば、それすらも可能だと……やはりルーイには敵わぬ。
「ルーイ。私が悪かった!」
私はルーイに深く頭を下げた。それしか、出来ぬではないか。ルーイは私以上に私の気持ちを考えていたのだから。
姫を失いたくない。自分のそんな気持ちすら、私は気づけずにいた。城の中の常識で、自分の気持ちに蓋をしていたのだ。
ルーイがあのように言ってくれなければ、私は未だに気づいていないに違いない。
自分の気持ちに早く気づかねば、早く手を伸ばさねば、さもないと手遅れになってしまうと、先日思い知ったところであるというのに。
「アイシュタルトが謝ることなんて、ないだろ?」
私が頭を下げた理由が、全く理解できないという顔で、ルーイが私を見る。
あぁ。私は、最後までルーイに世話になったままだ。
「ルーイ、私は何があっても姫を連れて戻る。」
「お、おぅ。そのつもりで待ってるよ。」
この手で連れ帰らなければ、もう二度と会えぬ。
王族としての常識など考える必要ないではないか。既に私は城の関係者ではないのだから。
普通の生活の中の、私の中にはない常識。どれだけ教えられても、すぐには身につかぬものだ。
城の常識で暮らしていけるのであればそれでも良いと思っていた。だが、そのようなもの、すぐにでも捨てよう。
図々しい真似だとはわかりきっている。しかし私は、この手に姫を抱いて戻る。
「行ってくる。本当にありがとう。」
二人に最後の挨拶をして、私は城の中庭の中心へと進んで行った。
「へぇ。騎馬隊へと参加しようとする奴がいるなんてな。」
私が中庭の中心、歩兵隊とは別の枠へと進んでいくと、それを見ていた騎士の一人がそう呟いた。
小さい声ではあったが、確実に私の耳に入る。そしてそれは周りの騎士たちの笑いを誘った。
くだらない。騎士の教育が行き届いていないのか。優秀な者たちは既に出陣した後か。どちらにせよ、相手にする必要のない者だと、そう判断し何事もないかのように振る舞おうとした。
どこの城でもこのような振る舞いはあるものなのだな。城にいた時、感情を外に出さないようにしていた理由の一つを思い出した。
相手にするだけ無駄だ。
私は無言を決め込んで隊列に並ぼうとした。
「おい。聞こえてるんだろ?」
最初に私を嘲笑おうとした人物が私の肩に手をかけた。
「触るな。」
私はその男の手をつい振り払ってしまった。
「その態度、どういうつもりだ。」
まずい。ここでのこの態度は失策であった。
ここは城の中だ。当然常識も城の中のものであるし、それに準じなければならないことぐらいわかっていたのに。
数ヶ月離れていたせいで私の常識は少しずつ崩れていた。
ついこの間、門番の前で作り上げた笑顔を顔に貼り付けて騎士の前に立つ。
「失礼いたしました。わざわざ騎士様ともあろう方がこのような小物に声をかけるなどと、思っておりませんでした。どなたかと勘違いをなされているのではありませんか?」
私はその騎士から視線を外さずにそう言った。
これまで隠していた騎士としての殺気が漏れていくのを感じる。
街の人を怯えさせるだけだと我慢してきたが、ここではその必要はなさそうだ。
私の態度に私と睨み合った騎士が一歩後ずさりをするのが見えた。
ルーイは私の怒鳴り声にもちゃんと声を返してきたというのにな。
カミュートに攻撃を仕掛けた罪で、処分される。そして、コーゼが滅ぶ。
当然、王妃である姫も同罪だ。カミュートに戦を仕掛けた時点でそれは決定事項で、私は仕方のないことだと思ってしまっていた。
それでも、コーゼでお幸せに暮らしているのであれば、そのまま王族としての最期を全うするべきだと、それが王族としての誇りだと、そう考えていた。
滅ぶなら、その前に助け出す。その様に考えることなどできなかった。目立っていない姫であれば、それすらも可能だと……やはりルーイには敵わぬ。
「ルーイ。私が悪かった!」
私はルーイに深く頭を下げた。それしか、出来ぬではないか。ルーイは私以上に私の気持ちを考えていたのだから。
姫を失いたくない。自分のそんな気持ちすら、私は気づけずにいた。城の中の常識で、自分の気持ちに蓋をしていたのだ。
ルーイがあのように言ってくれなければ、私は未だに気づいていないに違いない。
自分の気持ちに早く気づかねば、早く手を伸ばさねば、さもないと手遅れになってしまうと、先日思い知ったところであるというのに。
「アイシュタルトが謝ることなんて、ないだろ?」
私が頭を下げた理由が、全く理解できないという顔で、ルーイが私を見る。
あぁ。私は、最後までルーイに世話になったままだ。
「ルーイ、私は何があっても姫を連れて戻る。」
「お、おぅ。そのつもりで待ってるよ。」
この手で連れ帰らなければ、もう二度と会えぬ。
王族としての常識など考える必要ないではないか。既に私は城の関係者ではないのだから。
普通の生活の中の、私の中にはない常識。どれだけ教えられても、すぐには身につかぬものだ。
城の常識で暮らしていけるのであればそれでも良いと思っていた。だが、そのようなもの、すぐにでも捨てよう。
図々しい真似だとはわかりきっている。しかし私は、この手に姫を抱いて戻る。
「行ってくる。本当にありがとう。」
二人に最後の挨拶をして、私は城の中庭の中心へと進んで行った。
「へぇ。騎馬隊へと参加しようとする奴がいるなんてな。」
私が中庭の中心、歩兵隊とは別の枠へと進んでいくと、それを見ていた騎士の一人がそう呟いた。
小さい声ではあったが、確実に私の耳に入る。そしてそれは周りの騎士たちの笑いを誘った。
くだらない。騎士の教育が行き届いていないのか。優秀な者たちは既に出陣した後か。どちらにせよ、相手にする必要のない者だと、そう判断し何事もないかのように振る舞おうとした。
どこの城でもこのような振る舞いはあるものなのだな。城にいた時、感情を外に出さないようにしていた理由の一つを思い出した。
相手にするだけ無駄だ。
私は無言を決め込んで隊列に並ぼうとした。
「おい。聞こえてるんだろ?」
最初に私を嘲笑おうとした人物が私の肩に手をかけた。
「触るな。」
私はその男の手をつい振り払ってしまった。
「その態度、どういうつもりだ。」
まずい。ここでのこの態度は失策であった。
ここは城の中だ。当然常識も城の中のものであるし、それに準じなければならないことぐらいわかっていたのに。
数ヶ月離れていたせいで私の常識は少しずつ崩れていた。
ついこの間、門番の前で作り上げた笑顔を顔に貼り付けて騎士の前に立つ。
「失礼いたしました。わざわざ騎士様ともあろう方がこのような小物に声をかけるなどと、思っておりませんでした。どなたかと勘違いをなされているのではありませんか?」
私はその騎士から視線を外さずにそう言った。
これまで隠していた騎士としての殺気が漏れていくのを感じる。
街の人を怯えさせるだけだと我慢してきたが、ここではその必要はなさそうだ。
私の態度に私と睨み合った騎士が一歩後ずさりをするのが見えた。
ルーイは私の怒鳴り声にもちゃんと声を返してきたというのにな。
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