59 / 98
開戦
嫁いだ先でークリュスエントsideー
しおりを挟む
「リーベガルド王子。ご機嫌麗しく存じ上げます。シャーノ国第一王女、クリュスエントでございます。」
シャーノ国を馬車で発ち、ようやくコーゼ国の城へと到着した。するとすぐさま大広間へと連れてこられ、結婚相手であるリーベガルド王子の前で挨拶を申し上げる。
「クリュスエント、シャーノの姫か。」
王子の感情のこもっていない声が頭の上の方から聞こえて来る。跪き、頭を下げていれば、対面の椅子に座っているはずの王子の顔を見ることはできない。
でも、王子の冷たい声色から、自分が歓迎されていないことぐらい、読み取ることはできる。
「クリュスエント、私には愛する者がいる。其方との結婚は私の望むところではない。」
歓迎されていないどころか、必要ないとは。わかっていたけどね。馬車のところまで来て、わざわざそう伝えて言った下働きがいたもの。
「其方との結婚はただの義務だ。其方もそう理解するように。」
王子がそう言って、退席される。チラッと顔を上げると、赤いドレスの女性が王子と共に席を立つところだった。あぁ。あれが……
ふぅ。私は椅子に腰をかけると小さく息を吐く。大きなため息なんて、許されない。
「なんで、姫さまに与えられたのが客室なのでしょうか。本来なら、王子の部屋の近くであるべきです!」
シャーノから一緒についてきてくれたフェリスが珍しく声を荒立てた。
「フェリス。品がないですよ。客室で十分ではないですか。」
「ですが、姫さまは王子の第一夫人としてコーゼに迎え入れられたはずです。」
「王子の望んだことではないと、先程はっきり言われました。仕方ありません。シャーノにはこの縁談を断る力がないのですから。」
今、シャーノがコーゼに攻め入られれば、シャーノはもたない。それをわかっているからこそ、父様は私をここへやったんだもの。
「さぁ。荷解き致しましょう。どんなお部屋であっても、椅子と机と寝台があれば、それでいいじゃない。」
最上級の客人をもてなす為の部屋ではない客室。それは当然王子の第一夫人が住まうにはあまりにも貧相で、そして城内でも王子の暮らす場所からはかなり遠い。
私自身もまさかコーゼに来て素晴らしい思いをできるだなんて思ってもいなかったから、部屋のことなんて簡単に諦めがつく。
あの赤いドレスの女性。綺麗な黒髪をなびかせて去って行かれたわ。あの方と問題を起こさずに暮らしていくだけ。私に求められていることはそれだけなのだから。
自分で持ち込んだ荷物を次々に片付けていると、目に入ったのは馬車の中に置かれていた、ピンク色の花。
ふふ。きっと、アイシュタルトね。
私がお見舞いに渡して以来、毎年欠かさずに庭に摘みに行っているのを知ってる。庭師がそう教えてくれたもの。
騎士である彼が花を摘みに来るなんて、珍しいものだって、笑われていたわ。
私が出発する時はいてくれなかった、最後に一目、会っておきたかったのに。ピンク色のこの花が、何を意味しているのかアイシュタルトは知っているかしら。
それとも、何も考えずに、私の好みだから私の旅立ちに添えてくれたの?
もう、そんなことも聞くことができないのね。
アイシュタルトに乗せてもらったシュルトの背中。湖で結婚の話を打ち明けた時の、強く握り込まれた手。私が見上げた時の赤くなった顔。
ピンク色の花を見ながら、アイシュタルトとの思い出を思い出す。逆さに吊るしておけば、いつまでも残しておけるかしら。
私が思い出すことのできる、彼との思い出を、この花に込めておこう。
『いつでも、貴方の側に』
その花言葉と共に。
シャーノ国を馬車で発ち、ようやくコーゼ国の城へと到着した。するとすぐさま大広間へと連れてこられ、結婚相手であるリーベガルド王子の前で挨拶を申し上げる。
「クリュスエント、シャーノの姫か。」
王子の感情のこもっていない声が頭の上の方から聞こえて来る。跪き、頭を下げていれば、対面の椅子に座っているはずの王子の顔を見ることはできない。
でも、王子の冷たい声色から、自分が歓迎されていないことぐらい、読み取ることはできる。
「クリュスエント、私には愛する者がいる。其方との結婚は私の望むところではない。」
歓迎されていないどころか、必要ないとは。わかっていたけどね。馬車のところまで来て、わざわざそう伝えて言った下働きがいたもの。
「其方との結婚はただの義務だ。其方もそう理解するように。」
王子がそう言って、退席される。チラッと顔を上げると、赤いドレスの女性が王子と共に席を立つところだった。あぁ。あれが……
ふぅ。私は椅子に腰をかけると小さく息を吐く。大きなため息なんて、許されない。
「なんで、姫さまに与えられたのが客室なのでしょうか。本来なら、王子の部屋の近くであるべきです!」
シャーノから一緒についてきてくれたフェリスが珍しく声を荒立てた。
「フェリス。品がないですよ。客室で十分ではないですか。」
「ですが、姫さまは王子の第一夫人としてコーゼに迎え入れられたはずです。」
「王子の望んだことではないと、先程はっきり言われました。仕方ありません。シャーノにはこの縁談を断る力がないのですから。」
今、シャーノがコーゼに攻め入られれば、シャーノはもたない。それをわかっているからこそ、父様は私をここへやったんだもの。
「さぁ。荷解き致しましょう。どんなお部屋であっても、椅子と机と寝台があれば、それでいいじゃない。」
最上級の客人をもてなす為の部屋ではない客室。それは当然王子の第一夫人が住まうにはあまりにも貧相で、そして城内でも王子の暮らす場所からはかなり遠い。
私自身もまさかコーゼに来て素晴らしい思いをできるだなんて思ってもいなかったから、部屋のことなんて簡単に諦めがつく。
あの赤いドレスの女性。綺麗な黒髪をなびかせて去って行かれたわ。あの方と問題を起こさずに暮らしていくだけ。私に求められていることはそれだけなのだから。
自分で持ち込んだ荷物を次々に片付けていると、目に入ったのは馬車の中に置かれていた、ピンク色の花。
ふふ。きっと、アイシュタルトね。
私がお見舞いに渡して以来、毎年欠かさずに庭に摘みに行っているのを知ってる。庭師がそう教えてくれたもの。
騎士である彼が花を摘みに来るなんて、珍しいものだって、笑われていたわ。
私が出発する時はいてくれなかった、最後に一目、会っておきたかったのに。ピンク色のこの花が、何を意味しているのかアイシュタルトは知っているかしら。
それとも、何も考えずに、私の好みだから私の旅立ちに添えてくれたの?
もう、そんなことも聞くことができないのね。
アイシュタルトに乗せてもらったシュルトの背中。湖で結婚の話を打ち明けた時の、強く握り込まれた手。私が見上げた時の赤くなった顔。
ピンク色の花を見ながら、アイシュタルトとの思い出を思い出す。逆さに吊るしておけば、いつまでも残しておけるかしら。
私が思い出すことのできる、彼との思い出を、この花に込めておこう。
『いつでも、貴方の側に』
その花言葉と共に。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。


子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる