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開戦
嫁いだ先でークリュスエントsideー
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「リーベガルド王子。ご機嫌麗しく存じ上げます。シャーノ国第一王女、クリュスエントでございます。」
シャーノ国を馬車で発ち、ようやくコーゼ国の城へと到着した。するとすぐさま大広間へと連れてこられ、結婚相手であるリーベガルド王子の前で挨拶を申し上げる。
「クリュスエント、シャーノの姫か。」
王子の感情のこもっていない声が頭の上の方から聞こえて来る。跪き、頭を下げていれば、対面の椅子に座っているはずの王子の顔を見ることはできない。
でも、王子の冷たい声色から、自分が歓迎されていないことぐらい、読み取ることはできる。
「クリュスエント、私には愛する者がいる。其方との結婚は私の望むところではない。」
歓迎されていないどころか、必要ないとは。わかっていたけどね。馬車のところまで来て、わざわざそう伝えて言った下働きがいたもの。
「其方との結婚はただの義務だ。其方もそう理解するように。」
王子がそう言って、退席される。チラッと顔を上げると、赤いドレスの女性が王子と共に席を立つところだった。あぁ。あれが……
ふぅ。私は椅子に腰をかけると小さく息を吐く。大きなため息なんて、許されない。
「なんで、姫さまに与えられたのが客室なのでしょうか。本来なら、王子の部屋の近くであるべきです!」
シャーノから一緒についてきてくれたフェリスが珍しく声を荒立てた。
「フェリス。品がないですよ。客室で十分ではないですか。」
「ですが、姫さまは王子の第一夫人としてコーゼに迎え入れられたはずです。」
「王子の望んだことではないと、先程はっきり言われました。仕方ありません。シャーノにはこの縁談を断る力がないのですから。」
今、シャーノがコーゼに攻め入られれば、シャーノはもたない。それをわかっているからこそ、父様は私をここへやったんだもの。
「さぁ。荷解き致しましょう。どんなお部屋であっても、椅子と机と寝台があれば、それでいいじゃない。」
最上級の客人をもてなす為の部屋ではない客室。それは当然王子の第一夫人が住まうにはあまりにも貧相で、そして城内でも王子の暮らす場所からはかなり遠い。
私自身もまさかコーゼに来て素晴らしい思いをできるだなんて思ってもいなかったから、部屋のことなんて簡単に諦めがつく。
あの赤いドレスの女性。綺麗な黒髪をなびかせて去って行かれたわ。あの方と問題を起こさずに暮らしていくだけ。私に求められていることはそれだけなのだから。
自分で持ち込んだ荷物を次々に片付けていると、目に入ったのは馬車の中に置かれていた、ピンク色の花。
ふふ。きっと、アイシュタルトね。
私がお見舞いに渡して以来、毎年欠かさずに庭に摘みに行っているのを知ってる。庭師がそう教えてくれたもの。
騎士である彼が花を摘みに来るなんて、珍しいものだって、笑われていたわ。
私が出発する時はいてくれなかった、最後に一目、会っておきたかったのに。ピンク色のこの花が、何を意味しているのかアイシュタルトは知っているかしら。
それとも、何も考えずに、私の好みだから私の旅立ちに添えてくれたの?
もう、そんなことも聞くことができないのね。
アイシュタルトに乗せてもらったシュルトの背中。湖で結婚の話を打ち明けた時の、強く握り込まれた手。私が見上げた時の赤くなった顔。
ピンク色の花を見ながら、アイシュタルトとの思い出を思い出す。逆さに吊るしておけば、いつまでも残しておけるかしら。
私が思い出すことのできる、彼との思い出を、この花に込めておこう。
『いつでも、貴方の側に』
その花言葉と共に。
シャーノ国を馬車で発ち、ようやくコーゼ国の城へと到着した。するとすぐさま大広間へと連れてこられ、結婚相手であるリーベガルド王子の前で挨拶を申し上げる。
「クリュスエント、シャーノの姫か。」
王子の感情のこもっていない声が頭の上の方から聞こえて来る。跪き、頭を下げていれば、対面の椅子に座っているはずの王子の顔を見ることはできない。
でも、王子の冷たい声色から、自分が歓迎されていないことぐらい、読み取ることはできる。
「クリュスエント、私には愛する者がいる。其方との結婚は私の望むところではない。」
歓迎されていないどころか、必要ないとは。わかっていたけどね。馬車のところまで来て、わざわざそう伝えて言った下働きがいたもの。
「其方との結婚はただの義務だ。其方もそう理解するように。」
王子がそう言って、退席される。チラッと顔を上げると、赤いドレスの女性が王子と共に席を立つところだった。あぁ。あれが……
ふぅ。私は椅子に腰をかけると小さく息を吐く。大きなため息なんて、許されない。
「なんで、姫さまに与えられたのが客室なのでしょうか。本来なら、王子の部屋の近くであるべきです!」
シャーノから一緒についてきてくれたフェリスが珍しく声を荒立てた。
「フェリス。品がないですよ。客室で十分ではないですか。」
「ですが、姫さまは王子の第一夫人としてコーゼに迎え入れられたはずです。」
「王子の望んだことではないと、先程はっきり言われました。仕方ありません。シャーノにはこの縁談を断る力がないのですから。」
今、シャーノがコーゼに攻め入られれば、シャーノはもたない。それをわかっているからこそ、父様は私をここへやったんだもの。
「さぁ。荷解き致しましょう。どんなお部屋であっても、椅子と机と寝台があれば、それでいいじゃない。」
最上級の客人をもてなす為の部屋ではない客室。それは当然王子の第一夫人が住まうにはあまりにも貧相で、そして城内でも王子の暮らす場所からはかなり遠い。
私自身もまさかコーゼに来て素晴らしい思いをできるだなんて思ってもいなかったから、部屋のことなんて簡単に諦めがつく。
あの赤いドレスの女性。綺麗な黒髪をなびかせて去って行かれたわ。あの方と問題を起こさずに暮らしていくだけ。私に求められていることはそれだけなのだから。
自分で持ち込んだ荷物を次々に片付けていると、目に入ったのは馬車の中に置かれていた、ピンク色の花。
ふふ。きっと、アイシュタルトね。
私がお見舞いに渡して以来、毎年欠かさずに庭に摘みに行っているのを知ってる。庭師がそう教えてくれたもの。
騎士である彼が花を摘みに来るなんて、珍しいものだって、笑われていたわ。
私が出発する時はいてくれなかった、最後に一目、会っておきたかったのに。ピンク色のこの花が、何を意味しているのかアイシュタルトは知っているかしら。
それとも、何も考えずに、私の好みだから私の旅立ちに添えてくれたの?
もう、そんなことも聞くことができないのね。
アイシュタルトに乗せてもらったシュルトの背中。湖で結婚の話を打ち明けた時の、強く握り込まれた手。私が見上げた時の赤くなった顔。
ピンク色の花を見ながら、アイシュタルトとの思い出を思い出す。逆さに吊るしておけば、いつまでも残しておけるかしら。
私が思い出すことのできる、彼との思い出を、この花に込めておこう。
『いつでも、貴方の側に』
その花言葉と共に。
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