55 / 98
開戦
コーゼの事情
しおりを挟む
「商人たちにそのような真似をするとは。コーゼの王は何を考えているのだ?」
「それなんですが、もう王はほとんど動けないほどに弱っているそうです。実権は王子であるリーベガルド様に移っていると聞きました。」
「リーベガルド?」
「うん。コーゼの王子。次期国王だよ。」
リーベガルド、姫の結婚相手か。姫が嫁いだ時には気にも留めなかった名前だ。
「そして……」
ステフが言いづらそうに、一呼吸おいてから、これまで以上に声を細めて話を続ける。
「カミュートはコーゼを滅ぼすつもりのようです。」
「ほろ?!」
「しぃ!」
驚きのあまり大きな声をたてようとしたルーイの口を手でふさいだステフは、そのままさらに話を進めていく。
「兄さん。静かに。誰が聞いてるかわからないんだ。」
コクコクと、ステフは手の下で首を縦に振るルーイを見ても、そのまま話し続けようとする。
「んー!!」
「ステフ、それは苦しいのではないか?」
「え?あ、ごめん。」
私の言葉にようやくステフが手を離すと、ルーイが苦しさに顔を真っ赤にしていた。
「ステフ!俺が死ぬ。」
「ごめんって。あんなに大きな声を出すんだから、仕方ないよ。」
「それで?話を続けよう。」
「はい。コーゼはリーベガルド王子の下で、あまり上手く回っていないそうです。生活できない国民があふれてきており、その困窮をどうにかしようと、カミュートへ侵攻していたようです。」
「他国の資源を当てにしたか。」
「えぇ。その様子を見て、カミュートの王は攻め入ることを決めたと。」
コーゼの国民を守るためだろうか。
「じゃあ、今すぐにでも攻めていくのか?」
「多分、狙ってる時は一緒だよ。コーゼの現王が逝去された後。リーベガルド様が王になった後だ。」
コーゼからの攻撃を待って、仕掛ける気か。
「三国の王たちは昔馴染みだからな。さすがに攻め入るのはその後が良いのかもしれぬ。」
「そうなのか?!」
「あぁ。三国はそれなりに仲良くやってきたはずだ。だからこそ商人の移動も認められている。もちろん多少のいざこざはあっただろうが、ここ数年が酷いだけだ。」
「ここ数年…」
「リーベガルドが戦を焚きつけているだろ?現王もそれを止められない。」
「この話を知ってもまだ、アイシュタルトは歩兵で戦に参加するつもりですか?」
「どういう……」
「カミュートはコーゼを滅ぼしに行くんだろ?コーゼの都まで乗り込んで行くはずだ。馬に乗って、走って行かなくていいの?」
シュルトに似たあの馬が脳裏に浮かぶ。あの馬に乗って走って行ければ、騎士としての仕事を全うできるだろうか。姫の下へ何よりも早くたどり着けるだろうか。
「だが、馬はどうしても手間がかかるであろう?」
ステフの話を聞いて、ルーイの考えを聞いて、シャーノにいた時のように馬を走らせることができればと、そう考える自分がいる。
戦力として、歩兵の何倍もの力になることができるであろう。その自信すら、確かに私の中に存在する。
私の懸念はたった一つ。馬を手に入れてしまっては、これまでのようにはいられない。必ず、馬を預ける場所が必要になるのだ。
「アイシュタルト、明日もう一度、あの馬に会いに行きませんか?」
ステフが私にそう提案した。
その顔には、明らかに何かを企んだ顔が浮かんでいた。
何を、考えている?わざとらしくそのような顔を浮かべるステフの思いは、やはり私には読み取ることができない。
「そうだよ!会いに行こう!見るだけでも良いだろ?」
ステフと目を合わせた後で、ルーイがそう私を誘う。この兄弟は、一体何を考えている?
「あ、あぁ。それは構わないが。」
二人の企みを疑いながらも、ルーイに促されるように、私はステフの提案を受け入れた。
「それなんですが、もう王はほとんど動けないほどに弱っているそうです。実権は王子であるリーベガルド様に移っていると聞きました。」
「リーベガルド?」
「うん。コーゼの王子。次期国王だよ。」
リーベガルド、姫の結婚相手か。姫が嫁いだ時には気にも留めなかった名前だ。
「そして……」
ステフが言いづらそうに、一呼吸おいてから、これまで以上に声を細めて話を続ける。
「カミュートはコーゼを滅ぼすつもりのようです。」
「ほろ?!」
「しぃ!」
驚きのあまり大きな声をたてようとしたルーイの口を手でふさいだステフは、そのままさらに話を進めていく。
「兄さん。静かに。誰が聞いてるかわからないんだ。」
コクコクと、ステフは手の下で首を縦に振るルーイを見ても、そのまま話し続けようとする。
「んー!!」
「ステフ、それは苦しいのではないか?」
「え?あ、ごめん。」
私の言葉にようやくステフが手を離すと、ルーイが苦しさに顔を真っ赤にしていた。
「ステフ!俺が死ぬ。」
「ごめんって。あんなに大きな声を出すんだから、仕方ないよ。」
「それで?話を続けよう。」
「はい。コーゼはリーベガルド王子の下で、あまり上手く回っていないそうです。生活できない国民があふれてきており、その困窮をどうにかしようと、カミュートへ侵攻していたようです。」
「他国の資源を当てにしたか。」
「えぇ。その様子を見て、カミュートの王は攻め入ることを決めたと。」
コーゼの国民を守るためだろうか。
「じゃあ、今すぐにでも攻めていくのか?」
「多分、狙ってる時は一緒だよ。コーゼの現王が逝去された後。リーベガルド様が王になった後だ。」
コーゼからの攻撃を待って、仕掛ける気か。
「三国の王たちは昔馴染みだからな。さすがに攻め入るのはその後が良いのかもしれぬ。」
「そうなのか?!」
「あぁ。三国はそれなりに仲良くやってきたはずだ。だからこそ商人の移動も認められている。もちろん多少のいざこざはあっただろうが、ここ数年が酷いだけだ。」
「ここ数年…」
「リーベガルドが戦を焚きつけているだろ?現王もそれを止められない。」
「この話を知ってもまだ、アイシュタルトは歩兵で戦に参加するつもりですか?」
「どういう……」
「カミュートはコーゼを滅ぼしに行くんだろ?コーゼの都まで乗り込んで行くはずだ。馬に乗って、走って行かなくていいの?」
シュルトに似たあの馬が脳裏に浮かぶ。あの馬に乗って走って行ければ、騎士としての仕事を全うできるだろうか。姫の下へ何よりも早くたどり着けるだろうか。
「だが、馬はどうしても手間がかかるであろう?」
ステフの話を聞いて、ルーイの考えを聞いて、シャーノにいた時のように馬を走らせることができればと、そう考える自分がいる。
戦力として、歩兵の何倍もの力になることができるであろう。その自信すら、確かに私の中に存在する。
私の懸念はたった一つ。馬を手に入れてしまっては、これまでのようにはいられない。必ず、馬を預ける場所が必要になるのだ。
「アイシュタルト、明日もう一度、あの馬に会いに行きませんか?」
ステフが私にそう提案した。
その顔には、明らかに何かを企んだ顔が浮かんでいた。
何を、考えている?わざとらしくそのような顔を浮かべるステフの思いは、やはり私には読み取ることができない。
「そうだよ!会いに行こう!見るだけでも良いだろ?」
ステフと目を合わせた後で、ルーイがそう私を誘う。この兄弟は、一体何を考えている?
「あ、あぁ。それは構わないが。」
二人の企みを疑いながらも、ルーイに促されるように、私はステフの提案を受け入れた。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる