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開戦
シュルトに似た馬
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「シュルト?って誰?」
「馬だ。私のことをずっとシャーノで乗せていてくれた。」
「それがいたっていうのか?」
「見に行きましょう。城で飼われていた馬がこのような場所で売られているわけありませんし、もしいたとしたら、シャーノに何かあったのかもしれません。」
「あぁ。」
そう言ってシュルトに近づいていく。
何故、シュルトがこのような場所に?何があったのだ?城で大切にしてもらえよ。そう言って別れた愛馬を思い出す。
そして、店先で売られていた馬の目を見て、私の見間違いだったことに気づいた。
「す、すまない。」
「ん?どうした?」
「シュルトではなかった。」
「アイシュタルトの馬ではなかったということですか。」
「うむ。これは別の馬だ。」
見間違えるほどにシュルトに似た馬を撫でながら、私は自分の間違いを二人に詫びる。
「そんなに似てるの?」
「そっくりだ。色も体つきも顔だちもよく似ている。ただ、目が違う。」
「お兄さん、見る目あるね!」
馬を売りに出している商人が私に声をかけてきた。
「どういうことだ?」
「この馬はさ、よく走るよ。性格も素直だし。どう?今度の戦にでるんだろ?」
「戦には赴くつもりではあるが、馬に乗るつもりなどない。」
「へぇ。今度は歩兵だけでなく、騎馬隊も募集するって聞いたんだけどな。歩兵で参加する気かい?」
騎馬隊まで?防衛だけのつもりではないのか?それとも戦力がそれほどまでに足りていないのか?
「よく知ってるね。そんな話、どこで仕入れてきたの?」
私と商人の話が気になったのか、ステフが間に入り込んできた。
ここはステフに任せるべきであろうな。
「おや?君は…同業かな?」
「まぁね。今日都に着いたばかりなんだ。詳しい話、教えてよ。」
「そりゃ、ただでは教えられない。何と交換する?」
「何がいいかな。武具を少し持っているだけで、大したものを仕入れてこられなかったからなぁ。」
「俺は馬を取り扱う専門なんだ。武具なんていらないよ。」
「そしたら、情報か、現金か。」
「その二つには自信があるのかい?」
「それなりにね。」
ステフが他の商人と堂々と渡り合っている姿は、本当に頼りになる。ルーイとやりあっているときは、私と剣術の訓練をしているときは、あれほど幼く見えるというのに。
「何か聞きたいことがあるのか?」
「戦の情報かな。俺の連れが戦に出る気でいるんだけど、できるだけ有利にことを運べる方がいいだろ?」
「馬に乗れるのなら、騎馬隊に参加したらどうだい?」
「馬を連れ歩くつもりはないからなぁ。」
「しばらく都にいる予定か?」
「連れが戦に出るまではね。宿を借りるつもりだから、馬はどうしても困るんだよ。」
「それじゃあ、仕方ないな。こちらも買う気のないやつに話す気はないさ。」
「そう。アイシュタルト、もういいかな。交渉は決裂だ。」
「あ、あぁ。」
シュルトに似た馬を置いていくのは心苦しく感じるが、ステフの言う通り馬を連れて旅はできない。
「連れて行ってやれずにすまないな。」
私はもう一度、馬の背中を撫で、その場を後にした。
「アイシュタルト、馬連れて行かなくて良かったの?」
店から離れ、もう一度歩き出すと、ルーイが私にそう尋ねた。
「面倒を見られないし、宿に泊まるときに困るからな。」
馬を連れ歩くとなれば、馬小屋のある宿を探すしかない。宿を探す手間がかかるだけだ。
「騎馬隊の募集まであると言っていましたね。」
「うむ。それが本当なら、カミュートはコーゼに攻め入る気でいるのかもしれぬ。防衛だけなら、馬はそれほど多く必要ではないからな。」
「そうなの?」
「もちろん全く要らぬわけではないが、馬は走って行けるからな。相手側に素早く攻め込む気なのではないだろうか。」
もちろん、カミュートの王がどういうお考えかはわからない。だが、シュルトに似たあの馬に乗ることができれば、そのような気持ちが芽生えたのは確かであった。
「馬だ。私のことをずっとシャーノで乗せていてくれた。」
「それがいたっていうのか?」
「見に行きましょう。城で飼われていた馬がこのような場所で売られているわけありませんし、もしいたとしたら、シャーノに何かあったのかもしれません。」
「あぁ。」
そう言ってシュルトに近づいていく。
何故、シュルトがこのような場所に?何があったのだ?城で大切にしてもらえよ。そう言って別れた愛馬を思い出す。
そして、店先で売られていた馬の目を見て、私の見間違いだったことに気づいた。
「す、すまない。」
「ん?どうした?」
「シュルトではなかった。」
「アイシュタルトの馬ではなかったということですか。」
「うむ。これは別の馬だ。」
見間違えるほどにシュルトに似た馬を撫でながら、私は自分の間違いを二人に詫びる。
「そんなに似てるの?」
「そっくりだ。色も体つきも顔だちもよく似ている。ただ、目が違う。」
「お兄さん、見る目あるね!」
馬を売りに出している商人が私に声をかけてきた。
「どういうことだ?」
「この馬はさ、よく走るよ。性格も素直だし。どう?今度の戦にでるんだろ?」
「戦には赴くつもりではあるが、馬に乗るつもりなどない。」
「へぇ。今度は歩兵だけでなく、騎馬隊も募集するって聞いたんだけどな。歩兵で参加する気かい?」
騎馬隊まで?防衛だけのつもりではないのか?それとも戦力がそれほどまでに足りていないのか?
「よく知ってるね。そんな話、どこで仕入れてきたの?」
私と商人の話が気になったのか、ステフが間に入り込んできた。
ここはステフに任せるべきであろうな。
「おや?君は…同業かな?」
「まぁね。今日都に着いたばかりなんだ。詳しい話、教えてよ。」
「そりゃ、ただでは教えられない。何と交換する?」
「何がいいかな。武具を少し持っているだけで、大したものを仕入れてこられなかったからなぁ。」
「俺は馬を取り扱う専門なんだ。武具なんていらないよ。」
「そしたら、情報か、現金か。」
「その二つには自信があるのかい?」
「それなりにね。」
ステフが他の商人と堂々と渡り合っている姿は、本当に頼りになる。ルーイとやりあっているときは、私と剣術の訓練をしているときは、あれほど幼く見えるというのに。
「何か聞きたいことがあるのか?」
「戦の情報かな。俺の連れが戦に出る気でいるんだけど、できるだけ有利にことを運べる方がいいだろ?」
「馬に乗れるのなら、騎馬隊に参加したらどうだい?」
「馬を連れ歩くつもりはないからなぁ。」
「しばらく都にいる予定か?」
「連れが戦に出るまではね。宿を借りるつもりだから、馬はどうしても困るんだよ。」
「それじゃあ、仕方ないな。こちらも買う気のないやつに話す気はないさ。」
「そう。アイシュタルト、もういいかな。交渉は決裂だ。」
「あ、あぁ。」
シュルトに似た馬を置いていくのは心苦しく感じるが、ステフの言う通り馬を連れて旅はできない。
「連れて行ってやれずにすまないな。」
私はもう一度、馬の背中を撫で、その場を後にした。
「アイシュタルト、馬連れて行かなくて良かったの?」
店から離れ、もう一度歩き出すと、ルーイが私にそう尋ねた。
「面倒を見られないし、宿に泊まるときに困るからな。」
馬を連れ歩くとなれば、馬小屋のある宿を探すしかない。宿を探す手間がかかるだけだ。
「騎馬隊の募集まであると言っていましたね。」
「うむ。それが本当なら、カミュートはコーゼに攻め入る気でいるのかもしれぬ。防衛だけなら、馬はそれほど多く必要ではないからな。」
「そうなの?」
「もちろん全く要らぬわけではないが、馬は走って行けるからな。相手側に素早く攻め込む気なのではないだろうか。」
もちろん、カミュートの王がどういうお考えかはわからない。だが、シュルトに似たあの馬に乗ることができれば、そのような気持ちが芽生えたのは確かであった。
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