【完結】隣国の王子の下に嫁いだ姫と幸せになる方法

光城 朱純

文字の大きさ
上 下
47 / 98
それぞれの想い

ステフとの訓練

しおりを挟む
 私とステフの剣術の訓練は、砂漠で行うことにした。森で行えば獣が寄ってくることもあるだろう。他に邪魔の来ない砂漠は都合が良かった。

 見通しの良い場所で訓練すれば、お互いの体の動きや太刀筋まで全てが見える。身を隠すことの多い街の中で相手とやりあうより難易度は格段に上がる。

 ステフに必要なのは、逃げる時間を稼ぐことであって、倒すことではないのだから、真正面から相手を受けられればそれで良い。

「ステフ、相手にわかるように大きく剣を振り上げてはいけない。もう一度、かかってこい。」

「はい!」

 人を相手に剣を振るうというのは、気持ちも技術もこれまでとは大きく違う。相手も剣を持っている。かわすことも防ぐことだってある。

 それを超えて相手を力で抑え込むしかない。急所を狙うことを躊躇してはいけない。一瞬一瞬が命のやり取りだ。

 それでも、自分のため、ルーイのため、ステフは毎日必死で食らいついてきた。

「相手に防がれても、すぐに次の手を考えろ。一太刀、入れた方が生き残る。」

「はい!」

 カミュートの風も徐々に秋の色を濃くしてきた。涼しくなればコーゼが攻め込んでくるかもしれない。王の逝去を待っているだなんて、そのようなこと、あくまでもルーイの推測でしかない。

 いつ戦が始まるかわからない。その前には都に移っておきたい。

 三人とも同じ意識を共有して、それぞれにやるべきことに全力を尽くしていた。

 だが時間は私たちがどれだけ必死になっていても、それまでと同じように時を刻んでいく。


 
 キン!お互いの刃が当たって高い金属音が耳に残る。その後も立て続けに音が鳴り響いた。

 ステフが私の剣を受けているのか、私がステフの剣を受けているのか。どちらが仕掛けているのかわからなくなるほどの応酬が続く。

 このまま隙をついて、私に刃を向けるんだ。

 そう考えながら、ステフの刃を受け流し、代わりにこちらから剣を振り下ろした。

 ガキンッ!先程よりも鈍い音が響いた途端、私の首元にステフの剣先が突きつけられた。

 私の一振りを振り払い、私の首元目掛けて飛び込んできたか。

「ステフ。今のはよくやった。」

「はぁ。はぁ……はい……」

 肩で息をしながら、ステフが座り込んだ。

「ククッ。疲れたか?本当なら、この後逃げなければならないが、大丈夫か?」

「あぁ!そんな……無理です。」

 敵を相手にするなら、この後ルーイの案内で逃げる手筈だ。相手とやり合った後に、座り込んでいては反撃されてしまう。

「体力がいるな。ルーイについて行くのにも必要だ。」

 自分の体力の無さにうなだれたステフの隣に、私も腰を下ろした。

「ステフ、其方はよくやった。もう十分だと思う。」

 訓練場所を砂漠に移してひと月、毎日懸命に訓練に励んだ。私とこれだけやり合えれば、兵士でもない人間相手だと油断した者など、敵ではないだろう。

「本当ですか?!」

「ルーイにも伝えて、都へ行く準備を整えよう。」

「はい!」

 
 
 ステフとの訓練を終えたことをルーイに伝えれば、ルーイはすぐにロイドに会いに行くことをステフに告げた。

 ステフが会いたいと言っていたからな。もう二度と、会うことができなくなるかもしれぬ。今のうちに会いたい者には会っておくべきであろう。

 都に向かう前に、ロイドに会い、もう一度墓参りをしよう。この街でやり残したことがないように、全てをやり終えてここを発とう。

 次はいつ、この地に立てるかわからぬ。
 
 私はもう二度とこの地を踏むことはないかもしれぬ。

 結局、カミュートの大部分を見ることなく都に行くことになってしまったな。

 元の予定と大きく変わっていく自分のいく末は、不安にはなれども後悔はない。
 
 姫に会いにコーゼに行く。自分の気持ちに素直になった結果だ。

 誰かの命を受けるのではなく、自分で自分の道を決める。当たり前のことであるはずなのに、私にはひどく新鮮で、そして不安にさせるものだ。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ
恋愛
美しい旦那様は結婚初夜に言いました。 「君を愛するつもりはない」と。 そんな……、私を愛してくださらないの……? 「うっ……!」 ショックを受けた私の頭に入ってきたのは、アラフォー日本人の前世の記憶だった。 ああ……、貧乏で没落寸前の伯爵様だけど、見た目だけはいいこの男に今世の私は騙されたのね。 貴方が私を妻として大切にしてくれないなら、私も好きにやらせてもらいますわ。 旦那様、短い結婚生活になりそうですが、どうぞよろしく! 誤字脱字お許しください。本当にすみません。 ご都合主義です。

処理中です...