【完結】隣国の王子の下に嫁いだ姫と幸せになる方法

光城 朱純

文字の大きさ
上 下
31 / 98
国を出て、新しい国へ

王女様って

しおりを挟む
「そっかぁ……なぁ!アイシュタルトは城で働いてたんだろ?」

 ルーイが私の顔を見て、わざとらしく明るい声で話を変えた。ルーイにはもう、隠しごとはできない。

「あぁ。」

「王女様って、やっぱり綺麗?」

「は?」

「カミュートには王女っていないからさ。王女様、見たことある?」

「ある。」

「綺麗?」

 私の答えにルーイが前のめりになって顔を寄せてくる。

「き、綺麗だ。」

 姫のことを思い出せば、顔に熱が上がってくるのがわかる。

「へぇー。俺も見てみたいなぁ。」

 私の顔を見ないように、わざとらしく、空を見上げて、そうつぶやいた。色々なことが、バレているのに違いない。それなのに、黙っていてくれるその優しさに甘えたままで良いのだろうか。

「また、ゆっくり教えてよ。王女様のこと。」

 黙り込み、考え込んだ私の耳に、ルーイの声が優しく届く。

「王女は……私が仕えていた方だ。」

 言って、しまった。ルーイの声が、顔が、私の心に響いた。彼ならば、受け入れてくれるのではないかと。そう思わずにいられなかった。

「え?えぇ?!ええぇぇぇええ?!」

「ルーイ、うるさい。」

「あ、悪い。って、本当?!つ、仕えていたって。」

「あぁ。姫の、クリュスエント様の護衛騎士だった。」

「護衛って、あの、王族の周りにいる…あれ?」

「ククッ。あぁ。あれだ。」

 私の心配など、無用であったのかもしれない。ルーイの反応はあまりにも自然で、つい笑いがこぼれる。

「すげぇ。そ、そしたらアイシュタルトって、もしかして、とんでもなく強いんじゃ……」

「とんでもなく……はどうだろうか。小さい熊は倒せるようだが。」

「あ、ははっ。そりゃそうだ。倒したもんな。」

「あぁ。」

「そっかぁー。そりゃ強いはずだよ。逃げねぇよなぁ。」

「逃げることなど、あってはならないからな。」

 護るべき人がいる。自分の命を優先して、逃げることなど、許されるはずもない。私が生きてきたのは、そういう世界だ。

「お、俺のことはそんなに必死で守らなくていいからな!ちゃんと逃げろよ。」

「当たり前だ。」

「即答?!逃げるなど……とか言わねぇの?」

「言わぬ。置いて逃げる。」

「え?あれ?俺、見捨てられるの?」

「……」

 わたしが黙ったまま視線を外すと、ルーイの慌てる様子に拍車がかかる。

「お、おい!」

「……クッ。ククッ。」

「じ、冗談……?」

「あぁ。見捨てぬ。逃げるときは一緒に逃げるぞ。」

「なんだぁー。きつい冗談。」

 ルーイが安心してその場で座り込んだ。

「そのような場で……ほら。」

 ルーイを立たせようと私が手を差し出す。まるで、出会った時のようだ。

「悪い。」

 そう言ってルーイが私の手を取り、引き寄せた。

「っ?!」

 転びそうになるところを、足に力を入れて耐える。

「ちぇー。失敗したか。」

「何をするんだ!」

「俺ばっかりからかわれたからなぁ。」

「クッ。まだまだだな。」

 私たちは目を合わせると、道の端に移動して腰を下ろす。

「仕えていた姫が、コーゼに嫁いだってこと?」

「あぁ。」

「カミュートにきた理由をさ、『したくもないことをやらされそうだった』って言ってたけど、それに関係あるの?」

「そうだな。」

「そっかぁ。アイシュタルトも色々あるよなぁ。よくも知らない、隣の国にこなきゃいけなかったんだよな。いつでも、何事もない様な顔してるから、忘れてた。」

「忘れたままでも構わないが。」

「またそういう言い方……コーゼのこと、心配だな。」

「あぁ。」

 姫のことが頭をよぎれば、おのずと視線が下を向く。心配しかできない、この手で護ることのできない、自分の無力さに嫌気がさす。

「コーゼの、姫のことも探ってみるか。」

 ルーイの提案に、思わず顔を上げる。

 ニヤッと笑うルーイの顔が目に入る。

 私は何故、このような反応を返すようになってしまったのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

処理中です...