【完結】隣国の王子の下に嫁いだ姫と幸せになる方法

光城 朱純

文字の大きさ
上 下
20 / 98
国を出て、新しい国へ

サポナ村

しおりを挟む
 ザクッ。道を踏みしめる足音が変わったのがわかった。地面に何か別のものが混じっているらしい。

「アイシュタルト。ここだ。ここが、サポナ村。」

 ルーイの言葉に地面に向けていた顔を上げて、周りを見渡す。崩壊した建物が目の前に広がる。扉が壊されただけの建物はまだ良い方だ。壁が粉々に砕かれたのだろう、破片が建物の周りに散らばった状態のものもある。

「ひでぇだろ?俺が逃げた時はここまでじゃなかった。」

 村人を追い立てて、財の強奪が行われたか。攻め込んだ相手が、空になった村を見れば、当然の行動だ。責めたくもなるが、仕方のない行為だ。守れなければ、国中で行われる。

「俺の家…もう少し奥なんだ。」

 私が何を考えてるのかはルーイにはわかっているのだろう。私の言葉を待たずに、村の奥の方へ足を運んでいく。

 ザクッ。ザクッ。砂地の地面に、建物であったものの破片が混じっているのか。私たちの足音だけが、静かな村の中に不気味に響く。

「ここだよ。」

 ルーイが案内をしてくれた家は、他の場所に比べて良い状態を保っていた。

「綺麗……なのではないか?」

「うん。俺も驚いてる。手付かずみたいだ。貧乏過ぎて、何もないように見えたのかな。それとも、家が小さすぎて、見落とされたかな。」

 ははっ。ルーイが空笑いを混じえてそう話す。冗談でも言わなければ、この状態は不自然でしかない。周りにある建物はほぼ全てが何かの被害を受けていた。

 ルーイの生家だけが、扉も窓も無事な状態を保っている。見落とされた?そんなはずはない。歩いてくる途中に、小さな家はいくつも見た。それらも全て、見事に破壊されていた。本当に一つ残らず。

 何故だ?何故、ルーイの生家だけ。可能性はたった一つ。誰かが直したのだ。それしか、考えられない。

「ルーイ。」

「うん。わかってる。」

 ルーイも私と同じことを考えていたようだ。誰が?気になるのはそれだけだ。

「入ってみよう。」

「うん。」

 ルーイが頷くと、生家に近寄っていく。

「ルーイ!私が先だ。」

 何が出てくるかわからない。もちろん、ルーイの生家を血で汚すつもりはないが、出てくるものによっては、倒さなければならないだろう。

「でも……」

「何かあれば、守ると言っただろう?任せておけ。」

 改めて剣を構え直し、私は扉に手をかけた。

 バタン!!!威嚇も込めて、少し乱暴に扉を開ける。一歩中に入って室内を見渡すが、何かがいる気配はない。

「誰も、いないな。」

 私が中に入るまでは身を隠していたはずのルーイが、後ろから声をかけてくる。相変わらず隠れるのが上手いな。

「あぁ。綺麗ではあるが、誰かが住んでるわけではないようだ。」

 誰もいないどころか、人が生活している気配もない。それならば、何故これほどまでに手入れされているのだろう。今すぐにでも生活できそうだ。

「俺が住んでた頃より綺麗かもしれない。」

「ククッ。そのようなこと、あるわけないだろう?」

「いや。あるんだって。男二人の兄弟だぜ。暴れ回って、そこら中傷だらけ。何もかも出したままで、片付けなって母親に怒られて。懐かしいな。」

 ルーイは思い出話が眩しそうに、一点を見つめて目を細める。ここで暮らしていたルーイが懐かしさを感じるほどなのか。

「アイシュタルト。ありがとな。」

「ん?どうした?」

「いや、アイシュタルトと一緒じゃなかったら、俺ここまで来なかっただろうから。ありがとう。」

「いつも、案内してもらっているからな。その礼だ。大したことではない。」

 私がルーイにしてもらっていることを思えば、これぐらいのこと、何のこともない。それぐらいの恩を感じている。

「街へ戻ろう。ゆっくりもできなくて悪いけど、この辺に泊まれる場所、ないんだ。」

「あぁ。ルーイがよければ、戻ろう。」

 私たちはルーイの生家を出て、元来た道を戻ることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ
恋愛
美しい旦那様は結婚初夜に言いました。 「君を愛するつもりはない」と。 そんな……、私を愛してくださらないの……? 「うっ……!」 ショックを受けた私の頭に入ってきたのは、アラフォー日本人の前世の記憶だった。 ああ……、貧乏で没落寸前の伯爵様だけど、見た目だけはいいこの男に今世の私は騙されたのね。 貴方が私を妻として大切にしてくれないなら、私も好きにやらせてもらいますわ。 旦那様、短い結婚生活になりそうですが、どうぞよろしく! 誤字脱字お許しください。本当にすみません。 ご都合主義です。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...