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国を出て、新しい国へ
地図から消えた村
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ルーイの故郷に行くには朝から出発する必要があるそうだ。情報収集を始めてしまっては、故郷へ行く決心が鈍るといけない。
私はルーイに故郷へ向かうことを優先させた。
「俺の故郷はサポナ村っていうんだ。」
街から出て、故郷へと向かう道の途中、ルーイが話を始めた。
「のどかな村でさ、コーゼとの国境がすぐ近くで。そのせいか、しょっちゅう兵士たちが来てた。飯は食わないけど、食料はいるらしくて……村としてもかなり助かってたんじゃないかな。」
「国境門に常駐する兵士のことだろうな。兵士にとっても、食料の供給できる村や街は重要だ。」
「やっぱりね。コーゼが攻めてきた時、村のことを守ろうとしてくれてて。そういう理由なんだな。」
「食料は命綱だ。そこがなくなったということは、今は少し厳しいのかもしれないな。」
「門の反対側に新しい村ができてるよ。宿の安い村。」
「あぁ。昨日の話か。」
「なぁ。アイシュタルトはさ、村がなくなるってどういうことかわかる?」
ルーイがいつも見せてる笑顔を消して、私の方を向いた。
「どういう……というのは?」
「サポナはコーゼに攻め入られて、焼け野原になってさ、誰も住まなくなったんだ。村がなくなるって、そういうことだろ?」
「ま、まあな。」
「なぁ。地図ってさ、何年かごとに新しくなるの知ってる?」
「もちろん。シャーノでも変わっておる。」
「一つ前の地図にあったサポナ村の名前が、新しい地図から消えたんだ。」
「……っ」
自分の故郷の名前が地図から消える。焼け野原になってしまった景色よりも、酷く残酷な気がした。もうそこにサポナ村は再興されない。国がそう認めたということだ。
「一つ前の地図に、当たり前にあった名前が、見事に消えてるの。そんなところに村なんてなかったみたいに。もう、地図のどこにもサポナの名前はない。」
「地図……そういえば、ルーイは地図を見ないのだな。」
「どっちに行けばいいかわかってるから。それに、サポナの消えた地図は見たくない。」
私と旅をし始めてから、ルーイは一度たりとも地図を開いてはいない。森も砂漠も、道が道でないところでも、迷うことなく進んでいく。
「俺、新しい地図見れないんだよ。気分、悪くなっちゃって。ずっと旅してれば、新しい道も街も村も地図なんてなくてもわかる。」
地図を見られないことを、何ということもないような口ぶりで話す。そうなれるまで、どれだけかかったのだろうか。
「だから、地図なんて必要ねぇの。どうせ、載ってて欲しいものは載ってないんだし。アイシュタルトも地図見ないよな?」
「私は、新しいものを買う前にルーイに出会ったからな。地図を見ながら進むより、ずっとわかりやすいし楽しい。それに、銅貨1枚なら地図より安い。」
私はあえて口角を上げる。ルーイの心が下向きな話から逸れるきっかけになれば良かった。ただそれだけだ。
「金貨じゃないからな!あー。なんで旅商人が金貨で、俺は銅貨なんだよ!!ぜったい俺の方が役に立ってる、だろ?」
「フッ。だから、食事も宿も面倒をみると言っているではないか。」
「いやいや、それでも金貨の方が多くない?」
「旅がいつまで続くかわからないではないか。そのうちにひっくり返るだろう。」
「アイシュタルトが笑うまでかぁ。本当に笑う?」
「だから、大口開けて笑うのは無理だと言っただろう。」
「2周しても?3周なら?」
「その頃には道案内はいらぬな。」
「えぇ?!俺、用無し?」
「私一人でも歩けそうではないか。そしたら、宿も食事も一人分で済む。」
「嘘だろ。こんなに楽しいのに?まだまだ続けようぜ。」
ククッ。下向きの話からは逸れたが、くだらぬ話へ意識を向けてしまったようだ。ルーイの顔に笑顔が戻る。その笑顔に安堵感を覚える自分に、驚きを隠せない。
私はルーイに故郷へ向かうことを優先させた。
「俺の故郷はサポナ村っていうんだ。」
街から出て、故郷へと向かう道の途中、ルーイが話を始めた。
「のどかな村でさ、コーゼとの国境がすぐ近くで。そのせいか、しょっちゅう兵士たちが来てた。飯は食わないけど、食料はいるらしくて……村としてもかなり助かってたんじゃないかな。」
「国境門に常駐する兵士のことだろうな。兵士にとっても、食料の供給できる村や街は重要だ。」
「やっぱりね。コーゼが攻めてきた時、村のことを守ろうとしてくれてて。そういう理由なんだな。」
「食料は命綱だ。そこがなくなったということは、今は少し厳しいのかもしれないな。」
「門の反対側に新しい村ができてるよ。宿の安い村。」
「あぁ。昨日の話か。」
「なぁ。アイシュタルトはさ、村がなくなるってどういうことかわかる?」
ルーイがいつも見せてる笑顔を消して、私の方を向いた。
「どういう……というのは?」
「サポナはコーゼに攻め入られて、焼け野原になってさ、誰も住まなくなったんだ。村がなくなるって、そういうことだろ?」
「ま、まあな。」
「なぁ。地図ってさ、何年かごとに新しくなるの知ってる?」
「もちろん。シャーノでも変わっておる。」
「一つ前の地図にあったサポナ村の名前が、新しい地図から消えたんだ。」
「……っ」
自分の故郷の名前が地図から消える。焼け野原になってしまった景色よりも、酷く残酷な気がした。もうそこにサポナ村は再興されない。国がそう認めたということだ。
「一つ前の地図に、当たり前にあった名前が、見事に消えてるの。そんなところに村なんてなかったみたいに。もう、地図のどこにもサポナの名前はない。」
「地図……そういえば、ルーイは地図を見ないのだな。」
「どっちに行けばいいかわかってるから。それに、サポナの消えた地図は見たくない。」
私と旅をし始めてから、ルーイは一度たりとも地図を開いてはいない。森も砂漠も、道が道でないところでも、迷うことなく進んでいく。
「俺、新しい地図見れないんだよ。気分、悪くなっちゃって。ずっと旅してれば、新しい道も街も村も地図なんてなくてもわかる。」
地図を見られないことを、何ということもないような口ぶりで話す。そうなれるまで、どれだけかかったのだろうか。
「だから、地図なんて必要ねぇの。どうせ、載ってて欲しいものは載ってないんだし。アイシュタルトも地図見ないよな?」
「私は、新しいものを買う前にルーイに出会ったからな。地図を見ながら進むより、ずっとわかりやすいし楽しい。それに、銅貨1枚なら地図より安い。」
私はあえて口角を上げる。ルーイの心が下向きな話から逸れるきっかけになれば良かった。ただそれだけだ。
「金貨じゃないからな!あー。なんで旅商人が金貨で、俺は銅貨なんだよ!!ぜったい俺の方が役に立ってる、だろ?」
「フッ。だから、食事も宿も面倒をみると言っているではないか。」
「いやいや、それでも金貨の方が多くない?」
「旅がいつまで続くかわからないではないか。そのうちにひっくり返るだろう。」
「アイシュタルトが笑うまでかぁ。本当に笑う?」
「だから、大口開けて笑うのは無理だと言っただろう。」
「2周しても?3周なら?」
「その頃には道案内はいらぬな。」
「えぇ?!俺、用無し?」
「私一人でも歩けそうではないか。そしたら、宿も食事も一人分で済む。」
「嘘だろ。こんなに楽しいのに?まだまだ続けようぜ。」
ククッ。下向きの話からは逸れたが、くだらぬ話へ意識を向けてしまったようだ。ルーイの顔に笑顔が戻る。その笑顔に安堵感を覚える自分に、驚きを隠せない。
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