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護衛騎士
姫様のお見舞い
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トントン!椅子に座って剣の手入れをしていると、扉をノックする音が響く。
午前中と約束しただけであったので、私は朝から部屋を出ることができなかった。時間まで指定してくれれば良かったのに……とフェリスに文句の一つでも言ってやりたいところだが、思いの外早めの来訪に、溜飲が下がる。
「はい。」
「失礼致します。フェリスでございます。」
「はい。お待ちしておりました。」
私は剣を鞘に戻し腰に差すと、扉を開けに向かった。そして、扉を開けると、そこに立っている姫を迎え入れた。
「クリュスエント様、お待ちしておりました。このような場所で申し訳ありませんが、どうぞお入り下さい。」
「しつれい、します。」
「所詮は騎士の部屋です。姫をもてなすことができるほどの家具も揃えておりません。そちらの椅子におかけいただいてもよろしいですか?」
私は姫に、そしてそのまま一緒に部屋へと訪れたフェリスへ視線を投げる。
「姫さま、どうぞ。」
「えぇ。」
姫が先程まで私が座っていた椅子に腰掛けると、私は剣の手入れの道具を部屋の傍へ片付けた。
「フェリス様はこちらへどうぞ。」
テーブルとセットになっているもう一脚の椅子をフェリスへとすすめると、姫の前に跪いた。
「昨日は大変失礼いたしました。」
「あ、あの、おけがはもういいのですか?」
「はい。クリュスエント様の御心を煩わせるような怪我ではございません。ご心配をおかけ致しました。」
「よかったです。」
姫はそう言うと安心した顔で微笑まれた。
「あの、こちらを。おみまいはお花をお持ちするのものと、ききました。庭にさいていたものなので、ごうかなものではありません。」
姫がそう言うと、フェリスが私の前に歩みより、小さな花束を手渡した。その花束を受け取り、姫の顔と見比べた。
「ありがとうございます。綺麗なお花ですね。」
「!!アイシュタルトもそう思いますか?私も大好きなお花です!」
私からの言葉を社交辞令だと受け取ることもなく、姫は心から私に同意を示した様に見えた。本当にお好きな花なのだろう。姫は手渡された花よりも可愛らしく、可憐に笑顔を浮かべられた。
「姫さま。」
「フェリス。そ、そうでした。失礼いたしました。」
姫が何かに気づいた顔をして、すぐに笑顔を隠された。
あぁ。淑女教育か。こうして、あのつまらない顔を作る女へとなっていくのか。せっかく可愛い顔をしているのに、勿体ない。
私はいつでも貼り付けたような笑顔を崩さない、フェリスに視線を向け、つい姫の将来を思い浮かべてしまった。
「姫さま、そろそろアイシュタルトのお邪魔になりますので。」
「え、えぇ。そうですね。アイシュタルト、それではおだいじに、なさって下さい。」
「勿体ないお言葉でございます。」
「それでは、また。」
「はい。次の護衛任務の時に、お会いできることを楽しみにしております。」
私は貼り付けた様な笑顔を見せた姫に深く頭を下げ、部屋から送り出した。
姫を部屋から送り出した後、貰い受けた花束を適当なカップに生ける。私の部屋に花瓶なんてものがあるはずもない。少し高さのあるカップに生けられた花は、手折られたことが悲しいのか、そんな入れ物に入れられたことが悲しいのか、すぐに下を向いてしまった。
まるで私が平気だとわかる前の姫のようだ。儚げで、すぐに壊れてしまいそうで、ピンクのドレスがよく似合う。この花は本当に姫によく似ている。
庭に咲いていると言っていたな。後で見に行ってみることにしよう。
午前中と約束しただけであったので、私は朝から部屋を出ることができなかった。時間まで指定してくれれば良かったのに……とフェリスに文句の一つでも言ってやりたいところだが、思いの外早めの来訪に、溜飲が下がる。
「はい。」
「失礼致します。フェリスでございます。」
「はい。お待ちしておりました。」
私は剣を鞘に戻し腰に差すと、扉を開けに向かった。そして、扉を開けると、そこに立っている姫を迎え入れた。
「クリュスエント様、お待ちしておりました。このような場所で申し訳ありませんが、どうぞお入り下さい。」
「しつれい、します。」
「所詮は騎士の部屋です。姫をもてなすことができるほどの家具も揃えておりません。そちらの椅子におかけいただいてもよろしいですか?」
私は姫に、そしてそのまま一緒に部屋へと訪れたフェリスへ視線を投げる。
「姫さま、どうぞ。」
「えぇ。」
姫が先程まで私が座っていた椅子に腰掛けると、私は剣の手入れの道具を部屋の傍へ片付けた。
「フェリス様はこちらへどうぞ。」
テーブルとセットになっているもう一脚の椅子をフェリスへとすすめると、姫の前に跪いた。
「昨日は大変失礼いたしました。」
「あ、あの、おけがはもういいのですか?」
「はい。クリュスエント様の御心を煩わせるような怪我ではございません。ご心配をおかけ致しました。」
「よかったです。」
姫はそう言うと安心した顔で微笑まれた。
「あの、こちらを。おみまいはお花をお持ちするのものと、ききました。庭にさいていたものなので、ごうかなものではありません。」
姫がそう言うと、フェリスが私の前に歩みより、小さな花束を手渡した。その花束を受け取り、姫の顔と見比べた。
「ありがとうございます。綺麗なお花ですね。」
「!!アイシュタルトもそう思いますか?私も大好きなお花です!」
私からの言葉を社交辞令だと受け取ることもなく、姫は心から私に同意を示した様に見えた。本当にお好きな花なのだろう。姫は手渡された花よりも可愛らしく、可憐に笑顔を浮かべられた。
「姫さま。」
「フェリス。そ、そうでした。失礼いたしました。」
姫が何かに気づいた顔をして、すぐに笑顔を隠された。
あぁ。淑女教育か。こうして、あのつまらない顔を作る女へとなっていくのか。せっかく可愛い顔をしているのに、勿体ない。
私はいつでも貼り付けたような笑顔を崩さない、フェリスに視線を向け、つい姫の将来を思い浮かべてしまった。
「姫さま、そろそろアイシュタルトのお邪魔になりますので。」
「え、えぇ。そうですね。アイシュタルト、それではおだいじに、なさって下さい。」
「勿体ないお言葉でございます。」
「それでは、また。」
「はい。次の護衛任務の時に、お会いできることを楽しみにしております。」
私は貼り付けた様な笑顔を見せた姫に深く頭を下げ、部屋から送り出した。
姫を部屋から送り出した後、貰い受けた花束を適当なカップに生ける。私の部屋に花瓶なんてものがあるはずもない。少し高さのあるカップに生けられた花は、手折られたことが悲しいのか、そんな入れ物に入れられたことが悲しいのか、すぐに下を向いてしまった。
まるで私が平気だとわかる前の姫のようだ。儚げで、すぐに壊れてしまいそうで、ピンクのドレスがよく似合う。この花は本当に姫によく似ている。
庭に咲いていると言っていたな。後で見に行ってみることにしよう。
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