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貸出カード
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授業中の誰もいない、静まり返った図書室で、授業中に読む本を選ぶ。これが一週間に一度の私の習慣。
今週は、これとこれと、後はあっちの本。
図書室で本を選んでる時が、学校にいる時間の中で一番楽しい。少し埃っぽいような、それなのに心地よい本の匂い。それを身体中で感じながら図書室中を歩きながら本を選ぶ。その後は貸出手続きのために、本の裏表紙の内側に挟み込まれた貸出カードを手に取る。
裏表紙に貼り付けられた封筒の様なものの中に入った本の名前の書かれたカード。それにクラスと名前を書いて、図書室のカウンターの貸出カード入れに入れれば、貸出手続きは終わり。
封筒の中からそれを取り出そうと、そっと指先でつまみ出す。スルスルと抜き取られていくカードにはこれまで本を借りた人の名前が書かれている。
ずらっと並んだ名前の最後に書かれた、名前の一つを見つけると、私の胸が大きく高鳴った。
また、あの名前だ。
もう何度も見た同じ名前。
つい、カードに書かれたその名前を人差し指で触ってみる。そんなことをしても、この名前の人物が誰かなんて、わかるわけもない。それでも、その名前を愛おしむように、指先で何度も辿る。
貸出カードの名前に気づいたのは二年になってすぐのこと。図書室の本棚の端の方にある、誰も読んでないはずの本。その本の貸出カードにすら、同じ名前を見つけた時だ。
それからは毎週、貸出カードを見るのが楽しみになった。
名前を見つければ、その度に胸が高鳴って、選んだ本の中にその名前を見つけられないと、少し残念に思う。
まるで片想いでもしているようだ。
本を選んでいるのか、その名前を探しているのか、それすらもわからなくなるぐらい、その名前が気になった。
そうやってドキドキしながら見る名前は『今井 悠』。いまい……ゆう?はるか?ひさし?男?女?
どんな読み方があるのか、漢字辞典で調べただなんて、誰にも言えない。
それでもいつまで経っても『今井 悠』の正体はわからない。クラスは2年1組。同じクラスのはずなのに。いくらクラスが同じでも、私は一度も教室に行ったことがないし、誰もいない図書室で本を選ぶ。『今井 悠』が誰なのか、調べることなんてできない。
正体もわからない『今井 悠』の名前に、私は毎週ドキドキさせられていた。
『今井 悠』が先週借りた本を、私が今週借りる。
『今井 悠』が読んだ本は、次はどんな物語だろうと、借りた本を抱え、胸を弾ませて授業中の廊下を保健室に向かって歩く。
図書室や保健室は教室棟とは別棟だから、授業中の今、他の生徒に会う可能性は限りなく低い。それでも、曲がり角や階段、いつどのタイミングで誰に会うのかわからない。
誰にも会わずに無事に保健室までたどり着いて、ほっと安堵の息をつく。いつもの様に保健室の真ん中にある机の上に本を置いて、その前の椅子に座る。
入学式の翌日から、私の指定席はここ。
長期休みが終わっても、学年が上がっても、私に席替えはない。朝から夕方まで、ここで指定されたプリントを埋めて、図書室で借りてきた本を読む。
いわゆる、保健室登校だから。
今週は、これとこれと、後はあっちの本。
図書室で本を選んでる時が、学校にいる時間の中で一番楽しい。少し埃っぽいような、それなのに心地よい本の匂い。それを身体中で感じながら図書室中を歩きながら本を選ぶ。その後は貸出手続きのために、本の裏表紙の内側に挟み込まれた貸出カードを手に取る。
裏表紙に貼り付けられた封筒の様なものの中に入った本の名前の書かれたカード。それにクラスと名前を書いて、図書室のカウンターの貸出カード入れに入れれば、貸出手続きは終わり。
封筒の中からそれを取り出そうと、そっと指先でつまみ出す。スルスルと抜き取られていくカードにはこれまで本を借りた人の名前が書かれている。
ずらっと並んだ名前の最後に書かれた、名前の一つを見つけると、私の胸が大きく高鳴った。
また、あの名前だ。
もう何度も見た同じ名前。
つい、カードに書かれたその名前を人差し指で触ってみる。そんなことをしても、この名前の人物が誰かなんて、わかるわけもない。それでも、その名前を愛おしむように、指先で何度も辿る。
貸出カードの名前に気づいたのは二年になってすぐのこと。図書室の本棚の端の方にある、誰も読んでないはずの本。その本の貸出カードにすら、同じ名前を見つけた時だ。
それからは毎週、貸出カードを見るのが楽しみになった。
名前を見つければ、その度に胸が高鳴って、選んだ本の中にその名前を見つけられないと、少し残念に思う。
まるで片想いでもしているようだ。
本を選んでいるのか、その名前を探しているのか、それすらもわからなくなるぐらい、その名前が気になった。
そうやってドキドキしながら見る名前は『今井 悠』。いまい……ゆう?はるか?ひさし?男?女?
どんな読み方があるのか、漢字辞典で調べただなんて、誰にも言えない。
それでもいつまで経っても『今井 悠』の正体はわからない。クラスは2年1組。同じクラスのはずなのに。いくらクラスが同じでも、私は一度も教室に行ったことがないし、誰もいない図書室で本を選ぶ。『今井 悠』が誰なのか、調べることなんてできない。
正体もわからない『今井 悠』の名前に、私は毎週ドキドキさせられていた。
『今井 悠』が先週借りた本を、私が今週借りる。
『今井 悠』が読んだ本は、次はどんな物語だろうと、借りた本を抱え、胸を弾ませて授業中の廊下を保健室に向かって歩く。
図書室や保健室は教室棟とは別棟だから、授業中の今、他の生徒に会う可能性は限りなく低い。それでも、曲がり角や階段、いつどのタイミングで誰に会うのかわからない。
誰にも会わずに無事に保健室までたどり着いて、ほっと安堵の息をつく。いつもの様に保健室の真ん中にある机の上に本を置いて、その前の椅子に座る。
入学式の翌日から、私の指定席はここ。
長期休みが終わっても、学年が上がっても、私に席替えはない。朝から夕方まで、ここで指定されたプリントを埋めて、図書室で借りてきた本を読む。
いわゆる、保健室登校だから。
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