【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純

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貴重なものをみすみす渡すわけ、ありませんよ

それぞれの思惑 6

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「ロイエンタール伯爵。其方には公爵になってもらおうと思っている」

「公爵……」

 リーゼロッテがアマーリエやエーリックから聞いていたことは、間違いではなかった。
 ただ、直接バルタザールから告げられれば、その事態の大きさに、重圧を感じてしまう。

「公爵ともなれば、交易の相手など溢れるぐらいに湧いて出るだろう。私の紹介などいらぬ。好きな相手を選べばいい」

「それならば、その授与を待つことに致します。ありがたく、頂戴致します」

 大きな重圧と引き換えに、手に入れられるものもまた魅力的で、ベルンハルトはつい二つ返事で了承を示した。

「だが、爵位の授与はエーリックが言い出したことでな。リーゼロッテと結婚したのだから、当然公爵と成るべきだと。それでは今回の対価とはならぬだろう」

 今回のことでリーゼロッテへの扱いも変わっていくだろう。王族との関係が回復すれば、周りの貴族たちも変わっていくはずだ。
 公爵となって交易相手を作れば、冬の食糧難にも対処できるはず。いざとなれば魔力石を取引材料にすることだってできる。
 だが、ベルンハルトの望んでいたこの二つが、魔力石の対価にならないのだとすれば、もう一つを口にしても良いのだろうか。

「それでは、もう一人爵位を授けて欲しい者がおります。ロイスナーには他に貴族はおりません。公爵領となるのであれば、できれば増やしていただきたいと思っております」

「それもそうか。だが、誰だ? 何かしらの功績が必要になる」

「今回の魔力石調達に尽力してくれた人物です。我が家を長きに渡り支え続けてくれている者」

「それで、名前は?」

「アルベルトに、男爵の地位を」

 ベルンハルトが心の奥底に隠したもう一つの望み。アルベルトの未来のためにも、勝ち取っておきたい対価。
 あの視線を送ってきたヘルムートには、もしかしたらバレていたのかもしれないが。

「アルベルト?」

「はい。ロイエンタールの執事長で、ヘルムートの息子です」

「アルベルトさんが男爵に?!」

 他領地と取引を始めれば、ベルンハルトが領地を留守にすることも出てくるだろう。その時に領内を任せられる相手として、アルベルトが爵位を持てばそれも可能だ。

「あぁ。アルベルトになら任せられるからな」

「良いと思います。いつでも、ベルンハルト様のことを考えてくれますから」

 リーゼロッテの笑顔が、ベルンハルトの考えを後押しする。

「そのような相手なら、男爵にしても良いな。つまらぬことを考えぬ様、よく見張っておいてくれ」

 バルタザールの了承を得ることができれば、ベルンハルトの描いた希望は全て叶う。
 この決定が伝わったときのアルベルトの驚く表情を見るのが楽しみで、つい頬が緩む。

「国王陛下。これで十分です。手に余るほどのもの、心より感謝致します」

「いや。こちらこそ、魔力石のことは本当に世話になった」

 バルタザールがベルンハルトに向けて手を差し出した。取引が一通り終わったことの合図のようだ。
 それを受けてベルンハルトも堂々とその手を握る。いくら国王相手とはいえ、今回は下手に出る必要もないだろう。

「魔力石は外にあるはずです。どちらへ、運び入れましょうか?」

「中庭にその場へ通じる門が作られている。そこから運び入れるつもりだ」

「わかりました。では、そちらへ運ばせます」



「これほど、大きなものだったのか」

 ヘルムートによって中庭に運ばれていた魔力石を見ながら、バルタザールが感心した様に声を上げた。その様子から、大きさに関しては問題ないものだとわかる。
 改めてリーゼロッテの魔力の大きさや、力の注ぎ方を尊敬せずにはいられない。

「それにしても、これを使える様にすることができるだろうか」

 リーゼロッテが作り出した魔力石を眺めながら、徐々にバルタザールの顔が曇る。
 結界として使うためには、魔力石を染め上げなければならない。
 それはリーゼロッテに贈ったお守りと同様に魔力を注ぎ込んでいくのだが、魔力石が大きい分、必要な魔力も大きくなるだろう。

「国王陛下とエーリック様で不安を感じるのであれば、もしよろしければ、私もお手伝い致しましょう」

「ロイエンタール伯爵! それはありがたい!」

 必要な魔力量に不安を感じていたバルタザールの声が弾み、その顔を見ながらベルンハルトがほくそ笑んだ。


 中庭から城内へ運び入れた魔力石を、バルタザールとエーリック、そしてベルンハルトが取り囲む。
 あの小さな魔力石と違い、今度は割れてしまう心配はいらないだろう。
 結界として使えるものになるよう、そのイメージを膨らませる。
 目の前にある魔力石から視線を外し、そのまま後ろに向ければ、いつものようにリーゼロッテが微笑んでいるのが見えた。
 魔力石を作り出した時のリーゼロッテの様に、今の全力でもって染め上げる。

(彼女のように。次は、私の番だ)

 ベルンハルトの望みを叶える、そのチャンスは一度きりだろう。

「父様。ロイエンタール伯爵。それでは始めます」

 次期国王であるエーリックが中心となるべきだと、バルタザールを言葉を受け、この場を取り仕切るのはエーリックだ。
 その後ろには、いつの間に来ていたのか、ユリアーナの姿も見える。

「あぁ」

「準備は整っております」

「お願いします」

 エーリックの言葉を合図に、それぞれがその手に魔力を込め始めた。
 それが徐々に新しい魔力石へと伝わり、次第に魔力石の色が薄い青色へと変わり始める。
 国を守るための結界が、もう一度張り直されるこの瞬間、ベルンハルトが望んでいたチャンスは今しかない。

 リーゼロッテが生み出した大きな魔力石。それを今一度目に焼き付けながら、ベルンハルトはもう一人の人物を思い描く。
 あれだけ自由に空を飛びながら、決してこの場にいることのできない存在。
 これまでだって存分に世話になった。そしてこれからも、ベルンハルトを助けてくれるであろう龍。
 人間ですらない龍にお礼をしたいなど、バルタザールの前で口にすることもできなかった。

(レティシア。貴女のために私ができることは、これぐらいだ)

 真っ青な空に浮かぶ若草色。その鮮やかな景色が、消えてなくなることのないように、ベルンハルトは膨大な魔力を一気に注ぎ込む。
 魔力石を染め上げることとは別のイメージを、描いた。
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