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陽射しも風も、何もかもが暖かな春
春の行事 4
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「お庭、広いのね」
「お母様の趣味なの。リーゼは昔からお好きだったわね」
「えぇ。これだけ大きいと手入れも大変そう」
ヘルムートと共に来ているからか、ついそんなことが気にかかる。
「そうかもしれないわ。庭師が三人いても、たまにお母様に注意されているもの」
「三人……」
思わず後ろに控えるヘルムートの顔を横目で見れば、ヘルムートはほんの少し眉を上げて得意げに微笑んだ。
ロイスナーの城の方が狭いとはいえ、ヘルムート一人で十分手入れが行き届いているというのは、どういうことだろうか。
ディースブルク伯爵夫人の求めるものが高いのか、ヘルムートの能力が高いのか。
「そうなの。夏は水やりだけで大変みたい」
「こ、これだけの広さだものね」
魔法で水を出すにも一人では足りないということか。
「さ、こちらの客室を使って。ディナーまでそれほど時間はないのだけど、くつろいでいらして」
「アマーリエ。ありがとう」
「こちらこそ。まさか会いに来ていただけるなんて思ってもいなかったわ。それでは、また後で」
アマーリエに案内された客室はこの城の中でも上質な部屋だろう。ただの友人を招くには大袈裟なぐらいの気遣いに、恐縮してしまう。
「奥様、荷物はこれで全てです。先程使用人用の客室も案内いただけましたので、私はそちらに控えております。イレーネがこちらにはおりますので、問題ないと思いますが、何かありましたらお呼びください」
「ヘルムートさん、ありがとうございました」
「奥様、さすがにこちらでは、それはおやめ下さい」
「あら。やっぱりだめかしら?」
「使用人をそのように呼ばれるのは、貴族として褒められたものではありませんから」
「わかりました。それではこちらにいる間だけ」
「ロイスナーに戻られた後もそのままで構いませんから」
「いいえ。ヘルムートさんにはお友達になっていただかなくてはいけませんもの」
「まだそのようなことを仰っていたのですか」
リーゼロッテの言葉を呆れたような顔で聞き流すと、ヘルムートはそのまま部屋を後にした。
ロイスナーの城で繰り広げられるようなヘルムートとの会話は、リーゼロッテの緊張を解きほぐす。初めてのディースの城へ、ヘルムートと共に来られて良かったと、心からベルンハルトへ感謝した。
アマーリエとのディナーは終始和やかに進んだ。他家への招待にリーゼロッテが不慣れであることを知ってるアマーリエが、リーゼロッテの為に整えた場は、貴族らしい形式や格式を重んじるものとは違い、気のおけない友人と共に楽しむことのできる食事であった。
まるで学生の頃に戻ったかの様な雰囲気にリーゼロッテが困惑していれば、「少しずつ貴族らしいものにしていけばいいの」と、その頃と変わらぬ顔でアマーリエが笑った。
明日は庭でお茶会を、との誘いをもらって客室へと戻れば、イレーネが就寝の用意を整えてくれ、リーゼロッテはその身をベッドへと横たえた。
アマーリエの心尽くしのもてなしと、イレーネやヘルムートによる気遣い。その二つがリーゼロッテの心を包み込む。
いつもなら寂しいはずの独り寝も、今夜だけはその寂しさから解放されたようだった。
「良い天気で良かったわ。せっかくお庭にお誘いしたのに、雨なんて降ったら残念だもの」
翌日は春めいた暖かい陽気に包まれて、伯爵夫人ご自慢の庭に出るのに恵まれた天気であった。
そこで開催されるのは二人きりのティーパーティ。周りに控える侍女も限りなく少なくし、二人だけの秘密の時間。他の場所では言いづらいこともあるだろうからと、お互いのために設けた時間。
「風も少なくて、暖かくて……あら?」
「どうされたの?」
リーゼロッテの目に映ったのは青い顔をして庭を歩く使用人の姿。三人いるとは言っていたが、その誰もが普通よりも顔色が悪い。
「あの方達、大丈夫かしら?」
「多分、水やりが終わったのね。魔力を使いすぎたんだわ」
「あんな顔色になってまで?!」
「一番魔力の多い者が今日はお休みだから。お母様もいないんだし、手を抜けば良いのに」
「大丈夫なの?」
「この後は仕事も任せてないし、しばらく休めるはず。気にさせてしまってごめんなさい」
「いいえ。お休みが取れるならいいの。でも、あんな顔色になるなんて、魔力石を使ったりはしないの?」
普段からいくつもの魔力石を持ち歩いているヘルムートは、きっと庭の手入れの時にも使っていることだろう。そうでなければ一人でなんて、やり切れないはずだ。
「ま、魔力石なんて! あんな高価なもの使えるわけないわ」
「……それもそうね」
アマーリエの驚いた顔に、王都と同様にディース領においても魔力石が貴重なものだと実感する。
隣の領地であるディースであっても、高価なものだと言われる魔力石。
そんな魔力石を城中で使ってまでも、使用人を雇うことを躊躇しなければいけないのだろうか。.
ベルンハルトが人を寄せ付けたくないのか。
本当に雇う余裕がないのか。
はたまた、その両方か。
(まだ、わたくしの知らないことばかりね)
リーゼロッテは、アマーリエに気づかれぬ様、そっとため息をついた。
「お母様の趣味なの。リーゼは昔からお好きだったわね」
「えぇ。これだけ大きいと手入れも大変そう」
ヘルムートと共に来ているからか、ついそんなことが気にかかる。
「そうかもしれないわ。庭師が三人いても、たまにお母様に注意されているもの」
「三人……」
思わず後ろに控えるヘルムートの顔を横目で見れば、ヘルムートはほんの少し眉を上げて得意げに微笑んだ。
ロイスナーの城の方が狭いとはいえ、ヘルムート一人で十分手入れが行き届いているというのは、どういうことだろうか。
ディースブルク伯爵夫人の求めるものが高いのか、ヘルムートの能力が高いのか。
「そうなの。夏は水やりだけで大変みたい」
「こ、これだけの広さだものね」
魔法で水を出すにも一人では足りないということか。
「さ、こちらの客室を使って。ディナーまでそれほど時間はないのだけど、くつろいでいらして」
「アマーリエ。ありがとう」
「こちらこそ。まさか会いに来ていただけるなんて思ってもいなかったわ。それでは、また後で」
アマーリエに案内された客室はこの城の中でも上質な部屋だろう。ただの友人を招くには大袈裟なぐらいの気遣いに、恐縮してしまう。
「奥様、荷物はこれで全てです。先程使用人用の客室も案内いただけましたので、私はそちらに控えております。イレーネがこちらにはおりますので、問題ないと思いますが、何かありましたらお呼びください」
「ヘルムートさん、ありがとうございました」
「奥様、さすがにこちらでは、それはおやめ下さい」
「あら。やっぱりだめかしら?」
「使用人をそのように呼ばれるのは、貴族として褒められたものではありませんから」
「わかりました。それではこちらにいる間だけ」
「ロイスナーに戻られた後もそのままで構いませんから」
「いいえ。ヘルムートさんにはお友達になっていただかなくてはいけませんもの」
「まだそのようなことを仰っていたのですか」
リーゼロッテの言葉を呆れたような顔で聞き流すと、ヘルムートはそのまま部屋を後にした。
ロイスナーの城で繰り広げられるようなヘルムートとの会話は、リーゼロッテの緊張を解きほぐす。初めてのディースの城へ、ヘルムートと共に来られて良かったと、心からベルンハルトへ感謝した。
アマーリエとのディナーは終始和やかに進んだ。他家への招待にリーゼロッテが不慣れであることを知ってるアマーリエが、リーゼロッテの為に整えた場は、貴族らしい形式や格式を重んじるものとは違い、気のおけない友人と共に楽しむことのできる食事であった。
まるで学生の頃に戻ったかの様な雰囲気にリーゼロッテが困惑していれば、「少しずつ貴族らしいものにしていけばいいの」と、その頃と変わらぬ顔でアマーリエが笑った。
明日は庭でお茶会を、との誘いをもらって客室へと戻れば、イレーネが就寝の用意を整えてくれ、リーゼロッテはその身をベッドへと横たえた。
アマーリエの心尽くしのもてなしと、イレーネやヘルムートによる気遣い。その二つがリーゼロッテの心を包み込む。
いつもなら寂しいはずの独り寝も、今夜だけはその寂しさから解放されたようだった。
「良い天気で良かったわ。せっかくお庭にお誘いしたのに、雨なんて降ったら残念だもの」
翌日は春めいた暖かい陽気に包まれて、伯爵夫人ご自慢の庭に出るのに恵まれた天気であった。
そこで開催されるのは二人きりのティーパーティ。周りに控える侍女も限りなく少なくし、二人だけの秘密の時間。他の場所では言いづらいこともあるだろうからと、お互いのために設けた時間。
「風も少なくて、暖かくて……あら?」
「どうされたの?」
リーゼロッテの目に映ったのは青い顔をして庭を歩く使用人の姿。三人いるとは言っていたが、その誰もが普通よりも顔色が悪い。
「あの方達、大丈夫かしら?」
「多分、水やりが終わったのね。魔力を使いすぎたんだわ」
「あんな顔色になってまで?!」
「一番魔力の多い者が今日はお休みだから。お母様もいないんだし、手を抜けば良いのに」
「大丈夫なの?」
「この後は仕事も任せてないし、しばらく休めるはず。気にさせてしまってごめんなさい」
「いいえ。お休みが取れるならいいの。でも、あんな顔色になるなんて、魔力石を使ったりはしないの?」
普段からいくつもの魔力石を持ち歩いているヘルムートは、きっと庭の手入れの時にも使っていることだろう。そうでなければ一人でなんて、やり切れないはずだ。
「ま、魔力石なんて! あんな高価なもの使えるわけないわ」
「……それもそうね」
アマーリエの驚いた顔に、王都と同様にディース領においても魔力石が貴重なものだと実感する。
隣の領地であるディースであっても、高価なものだと言われる魔力石。
そんな魔力石を城中で使ってまでも、使用人を雇うことを躊躇しなければいけないのだろうか。.
ベルンハルトが人を寄せ付けたくないのか。
本当に雇う余裕がないのか。
はたまた、その両方か。
(まだ、わたくしの知らないことばかりね)
リーゼロッテは、アマーリエに気づかれぬ様、そっとため息をついた。
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