【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純

文字の大きさ
上 下
23 / 104
冬の寒さに身も心も凍えてしまいます

ロイスナーの冬 3

しおりを挟む
「ヘルムートさん!」

 翌日、リーゼロッテは再びヘルムートの下を訪れた。

「奥様。おはようございます。二日続けてというのは、珍しいですね」

 リーゼロッテがヘルムートの下を訪れるのは週に一日。その一日で一週間分のことを報告して相談して、そしてまた翌日へと繋げていく。
 約束なんてしてるわけじゃない。
 リーゼロッテの部屋の窓から庭を覗けば、ヘルムートが庭にいるのが見える。そうして押しかけて行くだけだ。
 ヘルムートは庭師のくせに庭にいないことも多く、それ以外の日に何をしてるかはわからない。以前尋ねたこともあったが、「色々ですよ」とかわされてしまった。
 リーゼロッテのことを御者として迎えに来てくれたこともあり、他にも様々な仕事を受け持っているのだろうと勝手に思ってる。
 だから、毛布を見つけた翌日、ヘルムートが庭にいたのは幸運だ。

「ちょっと聞きたいことがあるの」

「はい。何でしょうか。それは、その大荷物のことですか?」

 毛布の現物を見せて話をしなければ伝わらないのではないか。温室で手に入れた毛布が、間違いなくロイスナーのものであると確認もしたい。
 そんな思いで、リーゼロッテは庭まで毛布を抱えて持ってきた。

「えぇ。この毛布はロイスナーのもので合ってるかしら?」

 リーゼロッテが差し出した毛布にヘルムートが触る。
 ゆるゆるとその感触を確かめるように手を動かすと、すぐに首を縦に振った。

「はい。この手触りはロイスナーのものですね。我が領地では寒さをしのぐ為に他領よりも質の良い毛布を作っております。必要に迫られてのことではありますが、その技術は秀でたものなんですよ。こちらは間違いなくロイスナーで作られたものです」

 ヘルムートが自信をもって断言してくれたことに、リーゼロッテの顔に笑みが浮かぶ。
 毛布をかけてくれた人物に近づいている気がしていた。

「やっぱり。わたくし、これをシュレンタットで手に入れたの」

「まさか、シュレンタットで同様のものが作られていると?」

「いいえ。そういうことではなくて。わたくしが温室で眠っている時に、どなたかがかけて下さったの」

「温室で……眠る?」

「あ、そ、そこはお気になさらないで。うふふ」

 ヘルムートの発言を笑って誤魔化せば、その顔が不可解さに歪む。
 王女らしくないどころか、女性としても問題だとは思うが、あの時のリーゼロッテにはそんなことを気にする余地はなかった。

「は、はぁ。それで、温室でどなたかにいただいたと?」

「そうなのです! わたくし、その方を探していて……もしかしたら……」

「もしかしたら?」

「ベルンハルト様ではないかと」

「ほぅ。なぜ、そう思われるのですか?」

「だって、ベルンハルト様はお花がお好きでしょう? わたくし、温室でお会いしたのよ」

 ヘルムートの顔に驚きが広がる。
 アルベルトに話をした時もそうだったが、ベルンハルトの花好きはどうやら知られていないようだ。

「ベルンハルト様は花が好きでいらっしゃるんですね。存じ上げませんでした。今度、執務室にお届け致しておきます」

「えぇ。ぜひ、そうして下さいな。きっと喜びますわ」

「ご忠告、感謝いたします」

「それでね、このことをベルンハルト様にうかがったらどうかと思って。これをきっかけにもう少し仲良くなれないかしら」

「奥様。それは今しばらくお待ちください」

 ヘルムートは今にも雪の降り出しそうな空を見上げてそう言った。

「どうして? 何か訳でもあるの?」

「今はベルンハルト様も忙しいと思います。ゆっくりお話しされる時間をとるのであれば、冬が終わった頃が良いかと」

「冬が終わる? まだ始まったばかりよ? それ程までにお忙しいの?」

「今は準備に余念がない頃でしょう」

「準備? 何の?」

「それは、私の口から話すことではありませんね。ベルンハルト様がお話になるまでお待ちください。あの方が話されないのであれば、まだ言うべきではないというご判断でしょうから」

「む……話してもらえないのね」

「私は話すべきだと思うんですよ。奥様でいらっしゃるわけですし。ですが、ベルンハルト様にもお考えやお気持ちがありますから。それに、間もなくわかると思います」

 昨日といい今日といい、ヘルムートは口にすることのできない事情を抱えているようだが、ロイスナーに来て日の浅いリーゼロッテにはそれを知るよしもない。
 ヘルムートがこの様子ではベルンハルトから打ち明けてもらえる時を待つしかないのだが、今の様な関係でそんな日が来るのかと、見えない未来が更に黒く塗りつぶされていく。
 いつものテーブルに毛布を置いて、リーゼロッテはベルンハルトとの繋がりになるかもしれないと、さっきまで輝きを放っていた毛布に顔を埋める。
 また違う手を探さねばならない。
 そう思って見る毛布は、先程までの輝きは形を潜め、空を覆い尽くす雪雲のように濁って見えた。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

きっと幸せな異世界生活

スノウ
ファンタジー
   神の手違いで日本人として15年間生きてきた倉本カノン。彼女は暴走トラックに轢かれて生死の境を彷徨い、魂の状態で女神のもとに喚ばれてしまう。女神の説明によれば、カノンは本来異世界レメイアで生まれるはずの魂であり、転生神の手違いで魂が入れ替わってしまっていたのだという。  そして、本来カノンとして日本で生まれるはずだった魂は異世界レメイアで生きており、カノンの事故とほぼ同時刻に真冬の川に転落して流され、仮死状態になっているという。  時を同じくして肉体から魂が離れようとしている2人の少女。2つの魂をあるべき器に戻せるたった一度のチャンスを神は見逃さず、実行に移すべく動き出すのだった。  異世界レメイアの女神メティスアメルの導きで新生活を送ることになったカノンの未来は…?  毎日12時頃に投稿します。   ─────────────────  いいね、お気に入りをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉
ファンタジー
元冒険者のアラサー女のライラが、離婚をして冒険者に復帰する話。 ライラはかつてはそれなりに高い評価を受けていた冒険者。 というのも、この世界ではレアな能力である精霊術を扱える精霊術師なのだ。 そんなものだから復職なんて余裕だと自信満々に思っていたら、休職期間が長すぎて冒険者登録試験を受けなおし。 周囲から過去の人、BBA扱いの前途多難なライラの新生活が始まる。 2022/10/31 第15回ファンタジー小説大賞、奨励賞をいただきました。 応援ありがとうございました!

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

処理中です...