【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純

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魔法が使えなくたって仕方ないじゃない

温室での出会い 4

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 その日の貴族たちの社交は、夜会が中心だったようで、まだ夜の社交界デビューすら果たしていないリーゼロッテは自室に閉じこもっていた。
 バルタザールとは昨日温室で見かけたきり顔すら合わせていない。予想通り、次に会うのは来月になるはず。
 夜会の会場から聞こえてきている音楽を遠くに感じながら、ほとんど叱られずに済んだことに満足していた。
 来月はどの様な手段で逃げ出そうか。今月とはまた別の手段で逃げ出さなければならない。
 毎月同じ手に引っかかるほど、バルタザールは甘い相手ではなく、リーゼロッテの一ヵ月はそんなことに神経を使いながら過ぎていく。

 本来であれば、社交界へのデビューも果たさなければならないはずの年齢。いくら魔法が使えないことを影で何と言われていても、年頃の王女が社交界に顔を出さないのも外聞が悪い。
 数年前に卒業した国立学院の同級生の中には、既に立派にデビューを果たし、パートナーにエスコートをされてる者もいると聞いた。
 魔法が使えないこと以外は、マナーもダンスも軽いお茶会を通して、準備は整っているはずなのに。魔法が使えないことの陰口を叩かれるリーゼロッテを不憫に思うのか、そんな王女を子供にもってしまった恥をかきたくないのか、バルタザールはリーゼロッテの社交界へのデビューをこと更に拒否した。
 まぁ、十中八九後者だけど。

 そんなわけで一人で暇になってしまったリーゼロッテは、今夜も温室へと足を伸ばす。昨夜とは違って、バルタザールから逃げる身ではない。何も気に病むことのない身で見る今夜の月は、一段と輝いて見えた。
 昨夜はゆっくり見ることの出来なかった花を一つ一つ丁寧に見て回る。
 きちんと手入れのされた花たちは、日暮れと共に眠りにつくもの、夜の深まりと共にその美しさを深めるもの、それぞれが楽しそうに今宵の時を過ごす。
 そこには耳障りな噂話も、嘲笑もない。一輪一輪が自分の姿に自信をもっているように見えた。

(私とは、大違いね)

 その美しい姿に見惚れながら、つい後ろ向きな思考が顔を出す。いつでも平気な顔をしているリーゼロッテの、本当の思いを知る者は誰もいない。
 この場にいる月と花だけが、その憂いに満ちた顔を見る。

 温室の中でどれぐらいの時間が経っただろう。月に、花たちに見守られながら、リーゼロッテは再びその気持ちを立て直した。
 夜も更け、いつのまにか遠くに聞こえた夜会の音楽も消え去る。きっと今夜はお開きになったのだろう。後は各々の客室で、小さなお茶会が開かれる。バルタザールも既に自室に戻ったに違いない。
 リーゼロッテも、そろそろ部屋に戻ろうと、温室の出口へと足を向ける。
 そして、一歩足を踏み出した時、リーゼロッテの足音が響くその前に、どこからか足音が聞こえてきた。

 温室の出入口は一つ。リーゼロッテが向かおうとしたその出入口から、入ってきた者がいる。
 こんな夜更けに、誰だろうか、不審に感じはするが、昨夜と違って隠れる必要もない。
 リーゼロッテはその場で立ち止まり、向かってくる相手を待った。
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