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第5部
ひぃさま!
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「おまたせ」
アシェルナオ、ロザンネ、ヴァレリラルドが料理のプレートの乗ったトレイを持って庭先に現れると、ルーロフ、マフダル、テュコ。アイナ、ドリーン、マロシュ、ブレンドレル。クランツ、キナク、それにゴンドリエーレの2人がテーブルについていた。
残りの護衛騎士たちは交代でテーブルに着くことになっており、庭に等間隔に立っている。
「何かお手伝いを」
愛し子と王太子に給仕をされるのはどう考えても恐れ多くて、ルーロフが立ち上がる。
「いいから座って。はい」
アシェルナオはルーロフの前にプレートを置くと、
「テリトリバーガー」
誇らしげに、例のイントネーションで食べ物の名前を告げる。
「テリトリバーガー……包みパンとは違って、パンとパンの間に具材を挟んでいるんですね。見た目はとてもボリューミーですが、具は肉でしょうか。それに生のやさ……」
恐れ多くて恐縮していたルーロフだが、目の前に料理を置かれるとまだ食べる前から饒舌になった。
「いいから、食べて?」
アシェルナオに促されてプレートの上のものを手に取る。
包みパンと同じく素手で食べるのが正式な食べ方だと思ってそうしたのだが、アシェルナオが正解と言うように頷くと、ルーロフは大きな口を開けてそれにかぶりついた。
「んっ、んんんんん!」
瞳を大きく見開いて、ルーロフは咀嚼しながら言葉を発しようとしていた。
口の中のものを呑み込むと、
「ナオ様、ショウユがとても香ばしいです。それが甘いソースになっていて、それに鶏肉の肉汁が混ざり合ってなんともいえない風味になっています。肉の甘みと弾力にトマトの酸味が加わることで、いや、美味しい。包みパンは全てをトマトとチーズが包み込む感じがしますが、これはそれぞれの食材がお互いを引き立てながらうまくまとまっています。それにこの黄色いソースがいいアクセントになっていますね。これはなんというソースでしょうか」
一気に言葉を繰り出す。
ルーロフのコメントを聞いて、テュコも、マフダルも、みな手づかみで食材を挟んだパンを持ち、かぶりつく。
アイナとドリーンも、ナプキンを膝にのせて優雅に口を開けてかぶりつく。
「美味しいですね。肉のボリュームがすごくて、けれど生野菜のおかげであっさりいただけます。ルーロフの言うようにショウユのソースと黄色いソースがいいです」
アシェルナオがどんな料理を作るかと楽しみながらも心配していたが、手軽だがちゃんとした料理を作ったことに、テュコは感心していた。
「アイナとドリーンはナイフとフォークを使ってもいいんだよ?」
アシェルナオは両手でパンを掴んで食べている女性2人に気を遣う。
「いいえ、ナオ様。お外でこうしていただいていると、ピクニックをしているようで楽しいです」
「それにとても美味しいです。お野菜がたっぷりなので、これ1つでメインとサラダをいただいているようです」
アイナとドリーンは楽しみながら美味しそうに食べている。
「よかった」
「ナオ様、これは忙しい時に片手で立ったまま食べられるので、騎士にはもってこいです。肉が大きいから腹持ちもしますし」
マフダルが言うと、
「アシェルナオ様、ぜひこれはエルランデル騎士団にも広めましょう。みんなますますアシェルナオ様に心酔すると思います」
キナクはあっという間に完食していた。
「ナオ様、すごく美味しいです。うちの母さんにも作ってほしいです」
「このショウユソースがいいですね。屋台で出しても流行ると思います」
マロシュとブレンドレルも完食していた。
「これはね、前の世界で『テリヤキトリバーガー』って言うファストフードで、略してテリトリバーガーね。学校の帰りに友達と食べてたんだ。黄色のソースはマヨネーズって言って、これもルーロフの作った酢から作ったよ。マヨネーズが好きすぎてマヨラーって言う新興宗教もあったんだよ」
「なんとも可愛らしい宗教ですね。ナオ様は召し上がらないんですか?」
「僕はさっきてまりずしを食べたから。でも、厨房でヴァルが味見してくれてるのを少し分けてもらった。ね?」
「ああ。試食第一号の栄誉をもらった。美味しかったよ」
アシェルナオと1つのバーガーを齧りあったヴァレリラルドが輝くような笑みを浮かべる。
「さあ、追加のテリトリが出来ましたよ。騎士の方たちも交代でどうぞ」
ロザンネが追加を持って来ると、交代を待ちわびていた騎士たちが身を乗り出す。
「ナオ様手ずから料理を作っていただき、ありがとうございます。うちのメニューに載せたいくらいです」
食べ終わったルーロフがアシェルナオの前に進み出た。
「うん、いいよ?」
あっさりとアシェルナオは許可を出す。
「え、いいのですか?」
ねだったわけではないのだが、簡単に許可を出すアシェルナオに、ルーロフは肩透かしをくらった感じだった。
「だって、ルーロフの作った醤油と酢でソースを作ったんだよ? それにテリトリは僕が考えた料理じゃないから、僕が権利を主張するのもおかしいでしょう?」
ふふっ、と笑うアシェルナオに、
「ナオ様は本当に……この世界になくてはならない存在です」
無欲で、人を楽しませるために苦労を惜しまない。その尊さに、ルーロフは再び頭を下げた。
「大丈夫。今度はそんなに簡単にいなくならないから」
「ナオ様、あつかましいついでに、もう1つお願いしてもよろしいでしょうか」
ルーロフは恐る恐る顔をあげる。
「うん、いいよ」
「私はまた、ナオ様のお歌が聴きたいです。ショウユやスを作っても作っても、納得のいくものができなかったり行き詰ったりすると、前に聞かせてもらったナオ様のお歌を思い出して自分を奮い立たせていました。また、聞かせていただけないでしょうか」
「えーと、うーん、いいよ」
悩んだふりをしてみせたが、全然悩んでいないアシェルナオは可愛く頷くと、建物を背景にして庭全体を見渡せる場所に立った。
すぅぅっ、と息を吸うと、アシェルナオは歌いだす。
それは17年前に披露した、リータ村で耳にした男衆たちの舟歌だった。
軽快なテンポの明るい旋律が場の空気を盛り上げる。
歌い終えると、今度も17年前に歌った歌、さっきもゴンドラで歌った歌を歌う。
17年ぶりに聞く歌に、ルーロフはうっとりと聞きほれた。辛い時、うまくいかない時、梛央の消失に行き場のない怒りを覚えた時に心を慰めてくれた思い出の歌が、しみじみと心にしみていた。
やがてアシェルナオの歌が終わると、ルーロフは大きな拍手を送った。
「ありがとう」
アシェルナオが照れたように笑うと、ヴァレリラルドやテュコ、護衛騎士たちも拍手を送る。
それとは別にパチパチと拍手の音が聞こえた。
「ん?」
アシェルナオが振り向くと、夕凪亭の庭と隣の敷地との境を区切る白い柵の向こうに5人の子供たちの姿があった。
「おねえちゃん、歌じょうずー」
「もっとお歌ききたい」
拍手をしながら要望してくる子供たちに、
「おねえちゃんはおねえちゃんじゃないよ?」
アシェルナオは子供たちに近づきながら訂正する。
「すごく覚えのある光景だ」
子供たちとアシェルナオの会話を聞きながら、自分の子供の頃を思い出してマロシュはいたたまれない気持ちになった。
「マロシュたちとナオとの会話を思い出すよ」
ヴァレリラルドも懐かしく思い出しながら破顔する。
「ぼく知ってる。いとし子様で、王太子の妃殿下だよ」
年嵩の男の子が得意げに胸を張る。
「ひぃ殿下?」
「ひぃさま?」
ブルネット巻き毛の女の子が首を傾げると、オレンジブラウンのおさげの女の子も首を傾げる。
「ひぃさま!」
「ひぃさま!」
ひぃさまという言葉が気に入ったらしく、子供たちはアシェルナオを見て声をあげた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
エール、いいね、ありがとうございます(。uωu))ペコリ
ああ、ほんとうにもう! な、毎日です。
アシェルナオ、ロザンネ、ヴァレリラルドが料理のプレートの乗ったトレイを持って庭先に現れると、ルーロフ、マフダル、テュコ。アイナ、ドリーン、マロシュ、ブレンドレル。クランツ、キナク、それにゴンドリエーレの2人がテーブルについていた。
残りの護衛騎士たちは交代でテーブルに着くことになっており、庭に等間隔に立っている。
「何かお手伝いを」
愛し子と王太子に給仕をされるのはどう考えても恐れ多くて、ルーロフが立ち上がる。
「いいから座って。はい」
アシェルナオはルーロフの前にプレートを置くと、
「テリトリバーガー」
誇らしげに、例のイントネーションで食べ物の名前を告げる。
「テリトリバーガー……包みパンとは違って、パンとパンの間に具材を挟んでいるんですね。見た目はとてもボリューミーですが、具は肉でしょうか。それに生のやさ……」
恐れ多くて恐縮していたルーロフだが、目の前に料理を置かれるとまだ食べる前から饒舌になった。
「いいから、食べて?」
アシェルナオに促されてプレートの上のものを手に取る。
包みパンと同じく素手で食べるのが正式な食べ方だと思ってそうしたのだが、アシェルナオが正解と言うように頷くと、ルーロフは大きな口を開けてそれにかぶりついた。
「んっ、んんんんん!」
瞳を大きく見開いて、ルーロフは咀嚼しながら言葉を発しようとしていた。
口の中のものを呑み込むと、
「ナオ様、ショウユがとても香ばしいです。それが甘いソースになっていて、それに鶏肉の肉汁が混ざり合ってなんともいえない風味になっています。肉の甘みと弾力にトマトの酸味が加わることで、いや、美味しい。包みパンは全てをトマトとチーズが包み込む感じがしますが、これはそれぞれの食材がお互いを引き立てながらうまくまとまっています。それにこの黄色いソースがいいアクセントになっていますね。これはなんというソースでしょうか」
一気に言葉を繰り出す。
ルーロフのコメントを聞いて、テュコも、マフダルも、みな手づかみで食材を挟んだパンを持ち、かぶりつく。
アイナとドリーンも、ナプキンを膝にのせて優雅に口を開けてかぶりつく。
「美味しいですね。肉のボリュームがすごくて、けれど生野菜のおかげであっさりいただけます。ルーロフの言うようにショウユのソースと黄色いソースがいいです」
アシェルナオがどんな料理を作るかと楽しみながらも心配していたが、手軽だがちゃんとした料理を作ったことに、テュコは感心していた。
「アイナとドリーンはナイフとフォークを使ってもいいんだよ?」
アシェルナオは両手でパンを掴んで食べている女性2人に気を遣う。
「いいえ、ナオ様。お外でこうしていただいていると、ピクニックをしているようで楽しいです」
「それにとても美味しいです。お野菜がたっぷりなので、これ1つでメインとサラダをいただいているようです」
アイナとドリーンは楽しみながら美味しそうに食べている。
「よかった」
「ナオ様、これは忙しい時に片手で立ったまま食べられるので、騎士にはもってこいです。肉が大きいから腹持ちもしますし」
マフダルが言うと、
「アシェルナオ様、ぜひこれはエルランデル騎士団にも広めましょう。みんなますますアシェルナオ様に心酔すると思います」
キナクはあっという間に完食していた。
「ナオ様、すごく美味しいです。うちの母さんにも作ってほしいです」
「このショウユソースがいいですね。屋台で出しても流行ると思います」
マロシュとブレンドレルも完食していた。
「これはね、前の世界で『テリヤキトリバーガー』って言うファストフードで、略してテリトリバーガーね。学校の帰りに友達と食べてたんだ。黄色のソースはマヨネーズって言って、これもルーロフの作った酢から作ったよ。マヨネーズが好きすぎてマヨラーって言う新興宗教もあったんだよ」
「なんとも可愛らしい宗教ですね。ナオ様は召し上がらないんですか?」
「僕はさっきてまりずしを食べたから。でも、厨房でヴァルが味見してくれてるのを少し分けてもらった。ね?」
「ああ。試食第一号の栄誉をもらった。美味しかったよ」
アシェルナオと1つのバーガーを齧りあったヴァレリラルドが輝くような笑みを浮かべる。
「さあ、追加のテリトリが出来ましたよ。騎士の方たちも交代でどうぞ」
ロザンネが追加を持って来ると、交代を待ちわびていた騎士たちが身を乗り出す。
「ナオ様手ずから料理を作っていただき、ありがとうございます。うちのメニューに載せたいくらいです」
食べ終わったルーロフがアシェルナオの前に進み出た。
「うん、いいよ?」
あっさりとアシェルナオは許可を出す。
「え、いいのですか?」
ねだったわけではないのだが、簡単に許可を出すアシェルナオに、ルーロフは肩透かしをくらった感じだった。
「だって、ルーロフの作った醤油と酢でソースを作ったんだよ? それにテリトリは僕が考えた料理じゃないから、僕が権利を主張するのもおかしいでしょう?」
ふふっ、と笑うアシェルナオに、
「ナオ様は本当に……この世界になくてはならない存在です」
無欲で、人を楽しませるために苦労を惜しまない。その尊さに、ルーロフは再び頭を下げた。
「大丈夫。今度はそんなに簡単にいなくならないから」
「ナオ様、あつかましいついでに、もう1つお願いしてもよろしいでしょうか」
ルーロフは恐る恐る顔をあげる。
「うん、いいよ」
「私はまた、ナオ様のお歌が聴きたいです。ショウユやスを作っても作っても、納得のいくものができなかったり行き詰ったりすると、前に聞かせてもらったナオ様のお歌を思い出して自分を奮い立たせていました。また、聞かせていただけないでしょうか」
「えーと、うーん、いいよ」
悩んだふりをしてみせたが、全然悩んでいないアシェルナオは可愛く頷くと、建物を背景にして庭全体を見渡せる場所に立った。
すぅぅっ、と息を吸うと、アシェルナオは歌いだす。
それは17年前に披露した、リータ村で耳にした男衆たちの舟歌だった。
軽快なテンポの明るい旋律が場の空気を盛り上げる。
歌い終えると、今度も17年前に歌った歌、さっきもゴンドラで歌った歌を歌う。
17年ぶりに聞く歌に、ルーロフはうっとりと聞きほれた。辛い時、うまくいかない時、梛央の消失に行き場のない怒りを覚えた時に心を慰めてくれた思い出の歌が、しみじみと心にしみていた。
やがてアシェルナオの歌が終わると、ルーロフは大きな拍手を送った。
「ありがとう」
アシェルナオが照れたように笑うと、ヴァレリラルドやテュコ、護衛騎士たちも拍手を送る。
それとは別にパチパチと拍手の音が聞こえた。
「ん?」
アシェルナオが振り向くと、夕凪亭の庭と隣の敷地との境を区切る白い柵の向こうに5人の子供たちの姿があった。
「おねえちゃん、歌じょうずー」
「もっとお歌ききたい」
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「おねえちゃんはおねえちゃんじゃないよ?」
アシェルナオは子供たちに近づきながら訂正する。
「すごく覚えのある光景だ」
子供たちとアシェルナオの会話を聞きながら、自分の子供の頃を思い出してマロシュはいたたまれない気持ちになった。
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ヴァレリラルドも懐かしく思い出しながら破顔する。
「ぼく知ってる。いとし子様で、王太子の妃殿下だよ」
年嵩の男の子が得意げに胸を張る。
「ひぃ殿下?」
「ひぃさま?」
ブルネット巻き毛の女の子が首を傾げると、オレンジブラウンのおさげの女の子も首を傾げる。
「ひぃさま!」
「ひぃさま!」
ひぃさまという言葉が気に入ったらしく、子供たちはアシェルナオを見て声をあげた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
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