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第4部
受け止めてくれてありがとう
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両岸の木々がせり出すように生い茂る清流を3艇のゴンドラが進んでいく。
底冷えのする気温だが、穏やかな日差しが木々の枝の間から差し込み、キラキラと降り注いでいた。
木々の葉や両岸の下映えは季節柄鮮やかな緑とはいかないが、あたたかな色に染まった葉や草木は、オールの音とともに心を落ち着かせた。
「ナオ様、お寒くないですか?」
ところどころに雪の積もる清流の景色は美しいが風は冷たく、ゴンドラを漕ぎながらマフダルはアシェルナオを気にかける。
先頭を行くゴンドラには最前列にキナクとショルンスバリ。二列目にアシェルナオとスヴェン。三列目にテュコとフォルシウスが座っていた。
「寒くないよ? ローブは暖かいし、アイナとドリーンが服の下にもあったかいものを着せてくれたし、ひぃがローブの中にいるから、ぽかぽかだよ?」
『ナオ、ぽかぽか?』
アシェルナオのローブからひぃが顔を出す。
「うん、ぽかぽか。ありがとうね、ひぃ」
『うふふー』
嬉しそうに笑うと、ひぃはアシェルナオのローブの中に潜った。
「キュー」
ふよりんもひぃを追いかけるようにローブの中に潜る。
「ふよりんは寒がりなんだねぇ。マフダルは寒くない? スヴェンは?」
「私はゴンドラを漕いでいるので、汗が出るくらいですよ」
「俺も普段から鍛えているし、さっきまで馬で風を切っていたのと比べたら全然寒くない」
当然だ、と言わんばかりのマフダルとスヴェン。
「すごいねぇ。僕も鍛えた方がいい?」
アシェルナオは後ろにいるテュコを振り向く。
「ナオ様は何もしなくても。ですが浄化が終わったらランニングを再開しましょうか」
「最近ランニングしてなかったからねぇ」
「アシェルナオ様、私もお供していいですか? アシェルナオ様に作っていただいたトレーニングウェアで伴走したいです」
前列のキナクが振り向き、
「お供させてやるから、ちゃんとショルンスバリ殿のように警戒しろ」
テュコに叱咤された。キナクの横に座るショルンスバリは左右、前方、上方に鋭い視線を向けている。
それを見て、ふと気になったアシェルナオは、
「団長さん?」
背後からショルンスバリに声をかける。
「ひゅっ、は、はい」
大きな体をビクっと震わせ、ショルンスバリがチラリとアシェルナオを振り向く。
「警戒のお邪魔にならないように、前を向いてていいよ? 僕、源泉? 源流? の浄化をするんだよね? でもこの川はとても綺麗だよ?」
アシェルナオは視線を川面に移した。
凍えそうに冷たそうな水は澄み渡り、底の岩が見えるほどだった。
「はい。清流に変化はありません。ですが念のため見に行かせた者が源流の周囲に小さいですが瘴気だまりを見つけました。いまのところ清流に変化はないとはいえ、いつ影響が出るとも知れません。この川は領民の命の水。愛し子様に瘴気の不安を消し去っていただきたいのです」
領主、領民の願いを代弁するショルンスバリは、その責務の大きさから重い口調になった。
「はーい」
アシェルナオは花が綻ぶような笑みを浮かべて了承する。
「あ」
あまりの爛漫さに、思わずあっけにとられるショルンスバリに、
「あ?」
アシェルナオは小首を傾げる。
「あ、あの、トレーニングウェアとはなんでしょう?」
咄嗟にショルンスバリは、さっきのキナクとアシェルナオのやり取りを思い出した。
「トレーニングウェアとは、17年前にナオ様がシルヴマルク王国に来られた当初から素材探しをされていた、トレーニングに適した服のことです。汗を吸い、伸縮性があり、汚れてもいいように作られていながらデザイン性にも優れています。エルランデル公爵家の騎士たちに配布されていますが騎士たちに好評です。ちなみに私とナオ様はお揃いのスウェットです」
流れるように説明しながらも、優越感に浸るように胸を張るテュコ。
「トレーニングウェア? スウェット? アシェルナオ、俺もそれがほしい。俺も一緒にランニングしたい」
「ん-、スヴェンにエルランデル公爵家の家紋の入ったトレーニングウェアは……。じゃあ、今度ハルルたちのも一緒にお揃いのスウェットを作ろう? アルテアンに頼んでおくね」
「ありがとう、アシェルナオ。早くハルネスたちにも話したいな」
「うん。喜んでくれるといいなぁ。あ、スウェットとは別に、お揃いの衣装作りたいな。バンドの時に着るやつ」
「いいな、それ」
「うん、いいよね」
今は学友として、スヴェンと話せることが楽しいアシェルナオだった。
やがて川の幅が狭くなり、オールが川の底に当たるようになったところで、マフダルは川岸にゴンドラを寄せた。
「ここからは歩きになります」
ショルンスバリはマフダルに頭を下げてゴンドラを降りる。
続いてキナク、スヴェン、フォルシウスが降り、テュコが降りる。
「ナオ様、飛んでください」
テュコに言われて、アシェルナオはゴンドラのふちに足をかけて軽やかにジャンプする。
それを両手で受け止めたテュコは、アシェルナオを大事そうに抱えて岸に降ろした。
「僕、ちゃんと着地できてたよ?」
「ええ。でもこれから山道を歩くのに万が一足を捻ってしまったら、スヴェンに背負われている姿をずっとさらさないといけなかったんですよ?」
「……受け止めてくれてありがとう」
「どういたしまして」
満面の笑みを浮かべるテュコを見て、どこか釈然としないアシェルナオだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
エール、いいね、ありがとうございます。
底冷えのする気温だが、穏やかな日差しが木々の枝の間から差し込み、キラキラと降り注いでいた。
木々の葉や両岸の下映えは季節柄鮮やかな緑とはいかないが、あたたかな色に染まった葉や草木は、オールの音とともに心を落ち着かせた。
「ナオ様、お寒くないですか?」
ところどころに雪の積もる清流の景色は美しいが風は冷たく、ゴンドラを漕ぎながらマフダルはアシェルナオを気にかける。
先頭を行くゴンドラには最前列にキナクとショルンスバリ。二列目にアシェルナオとスヴェン。三列目にテュコとフォルシウスが座っていた。
「寒くないよ? ローブは暖かいし、アイナとドリーンが服の下にもあったかいものを着せてくれたし、ひぃがローブの中にいるから、ぽかぽかだよ?」
『ナオ、ぽかぽか?』
アシェルナオのローブからひぃが顔を出す。
「うん、ぽかぽか。ありがとうね、ひぃ」
『うふふー』
嬉しそうに笑うと、ひぃはアシェルナオのローブの中に潜った。
「キュー」
ふよりんもひぃを追いかけるようにローブの中に潜る。
「ふよりんは寒がりなんだねぇ。マフダルは寒くない? スヴェンは?」
「私はゴンドラを漕いでいるので、汗が出るくらいですよ」
「俺も普段から鍛えているし、さっきまで馬で風を切っていたのと比べたら全然寒くない」
当然だ、と言わんばかりのマフダルとスヴェン。
「すごいねぇ。僕も鍛えた方がいい?」
アシェルナオは後ろにいるテュコを振り向く。
「ナオ様は何もしなくても。ですが浄化が終わったらランニングを再開しましょうか」
「最近ランニングしてなかったからねぇ」
「アシェルナオ様、私もお供していいですか? アシェルナオ様に作っていただいたトレーニングウェアで伴走したいです」
前列のキナクが振り向き、
「お供させてやるから、ちゃんとショルンスバリ殿のように警戒しろ」
テュコに叱咤された。キナクの横に座るショルンスバリは左右、前方、上方に鋭い視線を向けている。
それを見て、ふと気になったアシェルナオは、
「団長さん?」
背後からショルンスバリに声をかける。
「ひゅっ、は、はい」
大きな体をビクっと震わせ、ショルンスバリがチラリとアシェルナオを振り向く。
「警戒のお邪魔にならないように、前を向いてていいよ? 僕、源泉? 源流? の浄化をするんだよね? でもこの川はとても綺麗だよ?」
アシェルナオは視線を川面に移した。
凍えそうに冷たそうな水は澄み渡り、底の岩が見えるほどだった。
「はい。清流に変化はありません。ですが念のため見に行かせた者が源流の周囲に小さいですが瘴気だまりを見つけました。いまのところ清流に変化はないとはいえ、いつ影響が出るとも知れません。この川は領民の命の水。愛し子様に瘴気の不安を消し去っていただきたいのです」
領主、領民の願いを代弁するショルンスバリは、その責務の大きさから重い口調になった。
「はーい」
アシェルナオは花が綻ぶような笑みを浮かべて了承する。
「あ」
あまりの爛漫さに、思わずあっけにとられるショルンスバリに、
「あ?」
アシェルナオは小首を傾げる。
「あ、あの、トレーニングウェアとはなんでしょう?」
咄嗟にショルンスバリは、さっきのキナクとアシェルナオのやり取りを思い出した。
「トレーニングウェアとは、17年前にナオ様がシルヴマルク王国に来られた当初から素材探しをされていた、トレーニングに適した服のことです。汗を吸い、伸縮性があり、汚れてもいいように作られていながらデザイン性にも優れています。エルランデル公爵家の騎士たちに配布されていますが騎士たちに好評です。ちなみに私とナオ様はお揃いのスウェットです」
流れるように説明しながらも、優越感に浸るように胸を張るテュコ。
「トレーニングウェア? スウェット? アシェルナオ、俺もそれがほしい。俺も一緒にランニングしたい」
「ん-、スヴェンにエルランデル公爵家の家紋の入ったトレーニングウェアは……。じゃあ、今度ハルルたちのも一緒にお揃いのスウェットを作ろう? アルテアンに頼んでおくね」
「ありがとう、アシェルナオ。早くハルネスたちにも話したいな」
「うん。喜んでくれるといいなぁ。あ、スウェットとは別に、お揃いの衣装作りたいな。バンドの時に着るやつ」
「いいな、それ」
「うん、いいよね」
今は学友として、スヴェンと話せることが楽しいアシェルナオだった。
やがて川の幅が狭くなり、オールが川の底に当たるようになったところで、マフダルは川岸にゴンドラを寄せた。
「ここからは歩きになります」
ショルンスバリはマフダルに頭を下げてゴンドラを降りる。
続いてキナク、スヴェン、フォルシウスが降り、テュコが降りる。
「ナオ様、飛んでください」
テュコに言われて、アシェルナオはゴンドラのふちに足をかけて軽やかにジャンプする。
それを両手で受け止めたテュコは、アシェルナオを大事そうに抱えて岸に降ろした。
「僕、ちゃんと着地できてたよ?」
「ええ。でもこれから山道を歩くのに万が一足を捻ってしまったら、スヴェンに背負われている姿をずっとさらさないといけなかったんですよ?」
「……受け止めてくれてありがとう」
「どういたしまして」
満面の笑みを浮かべるテュコを見て、どこか釈然としないアシェルナオだった。
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エール、いいね、ありがとうございます。
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