そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

文字の大きさ
上 下
365 / 425
第4部

出会った時からの友達だよね?

しおりを挟む
 
 「チド殿。ジルという方は、もしかして隣のエクルンド公国の公子のウジェーヌ様では?」

 詰所の建物の陰にチドを連れて来たブレンドレルはいきなり核心を突く問いを投げかける。

 「まあ。会ってすぐにそこまで見破ってしまわれるとは。私が見込んだだけあって素晴らしい騎士様ですこと」

 チドは感心したようにブレンドレルを見つめる。

 「では、ジル殿は……」

 「ええ、そのように聞いております」

 「エクルンド公国の一件はすでにカタがついています。というか、エクルンド公国側は、公子のことは知らないと言っているようで……。なので、我々もジル殿が自分はウジェーヌ公子と名乗らぬ限りは身柄を確保しようとは思っていません」

 「私は、ジルがこれからどうしたいのかを自分の意志で決めるまでは、ジルの好きなようにさせたいと思っています。名乗りを上げるつもりは私にもジルにもありませんが、だからと言って窮屈な思いをさせたくないとも思っています」

 「……わかりました。ジル殿はあなたに匿われてよかったと思いますよ」

 ウジェーヌとともにこの国に入って来たエクルンド公国の騎士たちの顔を思い浮かべながらブレンドレルはそう思った。

 それに、子供の初恋をエルとルルの拉致に使おうとした大公の思惑を考えると、すぐにエクルンド公国に帰らなかったことはウジェーヌの心の安寧にはよかったことだと思えた。

 「ありがとうございます。それで、騎士様にお願いがありますの」

 チドは嬉しそうにブレンドレルを見上げる。

 「お礼だけのためにここまで訪ねてこられたのではないと思っていましたよ」

 何かを企んでいそうなチドの言葉に、だが悪意が感じられない人柄に、ブレンドレルは悪い気はしなかった。

 「ジルは、少しも偉ぶったところがなく、素直な子です。かの国ではどうだったか知りませんが、今は神官としての質素な生活を、物珍しく思うことこそあれ、忌避することなく楽しく過ごしています。そんなジルが、自分の息子か孫のように可愛いくて。騎士様、あの子にもっと世の中の楽しいことを教えてやっていただけませんか?」

 「それはどういう?」

 チドの真意がわからずにブレンドレルは首を傾げる。

 「デートですよ、デ・エ・ト」

 チドの目が好奇心で爛々と光った。

 「デ……どうして私に?」

 目を光らせるチドが一瞬魔獣のように見えて、ブレンドレルはたじろぐ。

 「それはもう、一目惚れしたからですよ、私が。き、し、さ、ま、に」

 そう言うとチドは、顔を強張らせるブレンドレルを見て、ほほほほほ、と高笑いをした。





 「いっ……いと……アシェルナオ様」

 詰所に入ると、入り口近くにいた従卒がアシェルナオとテュコの姿を見て直立不動になる。

 「アシェルナオ様?」

 周囲の第二騎士団の騎士たちがその声に気が付いて振り向く。

 アシェルナオ・エルランデルと言えば、先日王太子殿下と婚約式を行い、バルコニーでのお披露目の際に突然襲ってきた瘴気を浄化して精霊の愛し子だと公表された、ある意味国王よりも上の存在。

 居合わせた第二騎士団に所属する者は騎士や従卒は勿論、文官からお掃除のおばちゃんまで一斉に臣下の礼を執ったり跪いたりした。

 なんだか水戸黄門みたいだな。僕、印籠持ってたっけ?

 アシェルナオは困惑しながら自分の身の回りを確認すると、ふよりんが「キュ?」と心配そうな鳴き声をあげた。

 アシェルナオはふよりんを見て、これか、と閃く。そしてふよりんを両手の手のひらの上に乗せると、

 「エルランデル公爵家次男、アシェルナオ・エルランデルです」

 水戸黄門(の旅の仲間)が印籠を披露するように、アシェルナオも聖獣のふよりんを披露する。

 人々は平伏するのではなく、顔をあげ、聖獣と愛し子の神々しすぎる可愛さに、心を打ち抜かれていた。

 「あの、今日はエルとルルに会いに来ました」

 なんだか思ったような反応ではないことに戸惑いながらアシェルナオは用件を告げる。

 「第二騎士団団長のヤルナッハと申します。その2人でしたら、作業が大詰めだったそうで、さきほど帰って来たところです。今ならまだ起きているでしょう。部屋にご案内します」

 さあ、と清々しい笑顔で案内しようとするヤルナッハを、

 「団長」

 副団長のニカイが呼び止める。

 「いいんだ。ここは団長である私が案内する」

 ヤルナッハは、うむ、と頷いてアシェルナオとテュコを先導すべく宿舎に向かって歩き出した。



 
 
 アシェルナオは颯爽と前を歩くヤルナッハのあとを軽い足取りでついていく。

 「今日はゆっくりしておくようにとシーグフリード様に言われましたよね。午後からも浄化があるんですよ?」

 エルとルルを訪ねることに、そもそもエルとルルに会うことに、テュコは承服していなかった。

 「兄様には内緒だよ? テュコ。僕たち、出会った時からの友達だよね?」

 ド〇えもんに甘えるの〇太のように清々しい顔のアシェルナオに、

 「都合のいい時だけ友達は無しです」

 テュコは厳しかった。

 「でもね? 浄化がひと段落したら学園に戻るよね? そしたらダンジョン開きがあるんだよ? そしたらテントとか、いっぱい持っていきたいよね?」

 「ナオ様、ダンジョンはピクニックとは違いますよ」

 「うん。お泊りもするなら修学旅行に近いよね? テュコも一緒に行くよね?」

 アシェルナオは可愛く首を傾げる。

 「勿論です。ナオ様が危険な場所に行くときに私が同行しないわけがありません」

 能天気な発言で可愛さをふりまくアシェルナオから少しでも目を離したくないテュコは、きっぱりと言い切る。

 「じゃあマジックバッグいるよねぇ。兄様には内緒ね?」
 
 ふふふ、と小悪魔的に笑うアシェルナオに、どうしてこんなに脳天気でクソ可愛いんだと、テュコは歯噛みした。
 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※

 エール、いいね、ありがとうございます。

 ちょっと夏バテです。
しおりを挟む
感想 113

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。 主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。 その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。 リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。 個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。 ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。 リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。 だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。 その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。 数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。 ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。 だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。 次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。 ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。 ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。 後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。 彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。 一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。 ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。 そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。 ※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。 ※現在、改稿したものを順次投稿中です。  詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

処理中です...