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第4部
ふよりんー
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歌い終わったアシェルナオは、空を見上げる。
歌声が天高く舞い上がり、今は会えない家族のもとへ向かうのを見送るように。
ヴァレリラルド、そしてテュコとフォルシウスもまた、前の世界に残してきた者たちへの思いに心を震わせているアシェルナオを、黙って見守っている。
果てない思いを胸に、現実の世界に向き合うように顔を前に向けたアシェルナオの頭上から、ホワイトシルバーのまるいものがふよふよと降りて来た。
「お前、無事だったんだね」
アシェルナオが両手を差し出すと、それはアシェルナオの手のひらにすとんと収まった。
「この前は瘴気に近づこうとしてたから心配したよ。……ヴァル、これは見える?」
アシェルナオは手のひらごと丸い物体をヴァレリラルドに見せる。
「ああ、見える。だが、これは……まさか……?」
顎に手を当てて考え込むヴァレリラルド。
「ん?」
その反応に、アシェルナオは小首をかしげた。
「ナオ様、どうかしましたか?」
問題が起きたのかと、テュコとフォルシウスが歩み寄る。
「この子ね、この前瘴気に近づこうとしてたんだ」
そう言ってテュコとフォルシウスに手のひらのもふもふを差し出す。
「これは……」
「実物を目にすることができるとは……」
2人もヴァレリラルドと同じ反応をしていて、
「この子のこと知ってるの?」
アシェルナオは不思議そうに手の中のもふもふを見つめる。
「むしろ、わかりませんか? ホワイトシルバーの、毛がふさふさの、ナオ様の大好きな……」
「リンちゃん? この子、リンちゃんの子供?」
驚くアシェルナオに、手のひらのもふもふがぴょんと飛び上がった。
「リングダールの子供というか、子供のリングダールというか……」
「聖獣の幼体です。初めて目にしました」
フォルシウスは拝むように手を組みあわせて聖獣を見る。
「リンちゃんて、聖獣だったの? お前、聖獣? 大きめのケサランパサランかと思ったよ。それで、なんて呼べばいい?」
ケサランパサランも民間伝承上の謎の生物なのだが、アシェルナオは手に収めたもふもふに尋ねる。
もふもふは首を傾げるように体全体を傾ける。
『僕たちみたいに、ナオが名前をつけたらいいよー』
『ナオにつけてほしいってー』
「そうなの? うーん、じゃあね? リンちゃんがふよふよ浮いてるから、ふよりんはどう?」
『ふよふよふよりんー』
『かわいい名前ねー』
『ふよりんも気に入ったみたいだよー』
ふよりんがくるくると回転して喜びを表現している。
「ふよりん、よろしくねぇ」
「キュッキュー」
可愛い鳴き声をあげて、ふよりんはアシェルナオの手のひらの上で左右にふよふよしている。
「ナオ様、もう帰りましょう。あまり長居しないことが条件でしたよ」
ふよりんと触れあっているうちに、無情にもテュコが視察兼お散歩デートの終了を告げた。
「もう?」
名残惜し気なアシェルナオに、
「公爵とも早く帰ると約束したからね。ナオ、今度は2人きりでデートしよう」
ヴァレリラルドがマントにクリーンをかけて身に纏う。
「うん。2人きりでね。イチャイチャしようね」
約束だよ、とアシェルナオはテュコとヴァレリラルドを交互に見る。
「まあ、善処はします」
今後の予定に組み込む気のないテュコは笑顔で答えた。
「キュッキュー」
『ふよりんも帰るってー』
「そうなんだ。またね、ふよりん」
アシェルナオがふよりんに別れの挨拶をすると、
「キュッキュキュッキュ」
ふよりんが体を左右にうごうごさせた。
『ふよりんも一緒にねー』
『ナオのおうちに帰るよー』
精霊たちが通訳した。
「そうなの? それでいいの? ふよりんには家族はいないの?」
家族との別れの辛さを思い出したばかりのアシェルナオが尋ねる。
「キュー」
『ぼくたちはみんな1人で生まれるよ一』
『だけど、みんなと一つだよー』
『ふよりんもぼくたちも、1人だけど、1人じゃないよー』
「精霊も聖獣も、みんな仲間なんだね?」
ふよりんがぴょんぴょん跳ねて同意をあらわす。
「よろしくね、ふよりん。テュコ、ふよりんも一緒に帰るって」
「聖獣も?」
「聖獣も?」
テュコとフォルシウスの言葉が重なる。
「うん。ふよりんの希望だよ? でも、ふよりんは何食べるんだろうねぇ?」
『ナオのやさしさかなー』
『愛情だねー』
『空気もたべるねー』
『ぼくたちと一緒だねー』
『いっしょいっしょー』
「……そうなんだ?」
そう言えば精霊たちも何も食べないのだけど、優しさとか愛情を食事として提供した覚えのないアシェルナオは、微妙な微笑みを浮かべるしかなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
少し間があいてすみません。間があいたのに短めになってすみません。
超早出(無給)&残業(無給)&お昼休みも30分しか取れず、で、一日11時間働いていました。
負の無限地獄(無間地獄ではないです)は続く……。
本当にすみません……。
歌声が天高く舞い上がり、今は会えない家族のもとへ向かうのを見送るように。
ヴァレリラルド、そしてテュコとフォルシウスもまた、前の世界に残してきた者たちへの思いに心を震わせているアシェルナオを、黙って見守っている。
果てない思いを胸に、現実の世界に向き合うように顔を前に向けたアシェルナオの頭上から、ホワイトシルバーのまるいものがふよふよと降りて来た。
「お前、無事だったんだね」
アシェルナオが両手を差し出すと、それはアシェルナオの手のひらにすとんと収まった。
「この前は瘴気に近づこうとしてたから心配したよ。……ヴァル、これは見える?」
アシェルナオは手のひらごと丸い物体をヴァレリラルドに見せる。
「ああ、見える。だが、これは……まさか……?」
顎に手を当てて考え込むヴァレリラルド。
「ん?」
その反応に、アシェルナオは小首をかしげた。
「ナオ様、どうかしましたか?」
問題が起きたのかと、テュコとフォルシウスが歩み寄る。
「この子ね、この前瘴気に近づこうとしてたんだ」
そう言ってテュコとフォルシウスに手のひらのもふもふを差し出す。
「これは……」
「実物を目にすることができるとは……」
2人もヴァレリラルドと同じ反応をしていて、
「この子のこと知ってるの?」
アシェルナオは不思議そうに手の中のもふもふを見つめる。
「むしろ、わかりませんか? ホワイトシルバーの、毛がふさふさの、ナオ様の大好きな……」
「リンちゃん? この子、リンちゃんの子供?」
驚くアシェルナオに、手のひらのもふもふがぴょんと飛び上がった。
「リングダールの子供というか、子供のリングダールというか……」
「聖獣の幼体です。初めて目にしました」
フォルシウスは拝むように手を組みあわせて聖獣を見る。
「リンちゃんて、聖獣だったの? お前、聖獣? 大きめのケサランパサランかと思ったよ。それで、なんて呼べばいい?」
ケサランパサランも民間伝承上の謎の生物なのだが、アシェルナオは手に収めたもふもふに尋ねる。
もふもふは首を傾げるように体全体を傾ける。
『僕たちみたいに、ナオが名前をつけたらいいよー』
『ナオにつけてほしいってー』
「そうなの? うーん、じゃあね? リンちゃんがふよふよ浮いてるから、ふよりんはどう?」
『ふよふよふよりんー』
『かわいい名前ねー』
『ふよりんも気に入ったみたいだよー』
ふよりんがくるくると回転して喜びを表現している。
「ふよりん、よろしくねぇ」
「キュッキュー」
可愛い鳴き声をあげて、ふよりんはアシェルナオの手のひらの上で左右にふよふよしている。
「ナオ様、もう帰りましょう。あまり長居しないことが条件でしたよ」
ふよりんと触れあっているうちに、無情にもテュコが視察兼お散歩デートの終了を告げた。
「もう?」
名残惜し気なアシェルナオに、
「公爵とも早く帰ると約束したからね。ナオ、今度は2人きりでデートしよう」
ヴァレリラルドがマントにクリーンをかけて身に纏う。
「うん。2人きりでね。イチャイチャしようね」
約束だよ、とアシェルナオはテュコとヴァレリラルドを交互に見る。
「まあ、善処はします」
今後の予定に組み込む気のないテュコは笑顔で答えた。
「キュッキュー」
『ふよりんも帰るってー』
「そうなんだ。またね、ふよりん」
アシェルナオがふよりんに別れの挨拶をすると、
「キュッキュキュッキュ」
ふよりんが体を左右にうごうごさせた。
『ふよりんも一緒にねー』
『ナオのおうちに帰るよー』
精霊たちが通訳した。
「そうなの? それでいいの? ふよりんには家族はいないの?」
家族との別れの辛さを思い出したばかりのアシェルナオが尋ねる。
「キュー」
『ぼくたちはみんな1人で生まれるよ一』
『だけど、みんなと一つだよー』
『ふよりんもぼくたちも、1人だけど、1人じゃないよー』
「精霊も聖獣も、みんな仲間なんだね?」
ふよりんがぴょんぴょん跳ねて同意をあらわす。
「よろしくね、ふよりん。テュコ、ふよりんも一緒に帰るって」
「聖獣も?」
「聖獣も?」
テュコとフォルシウスの言葉が重なる。
「うん。ふよりんの希望だよ? でも、ふよりんは何食べるんだろうねぇ?」
『ナオのやさしさかなー』
『愛情だねー』
『空気もたべるねー』
『ぼくたちと一緒だねー』
『いっしょいっしょー』
「……そうなんだ?」
そう言えば精霊たちも何も食べないのだけど、優しさとか愛情を食事として提供した覚えのないアシェルナオは、微妙な微笑みを浮かべるしかなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
少し間があいてすみません。間があいたのに短めになってすみません。
超早出(無給)&残業(無給)&お昼休みも30分しか取れず、で、一日11時間働いていました。
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