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第4部
お散歩デート ちゅっちゅ編
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優しい風が吹き渡ったあと、あたりに虹色に光る球体が、泉から、草花から、無数に浮かび上がった。
その1つがふわりとアシェルナオの前に漂う。
「なんだ?」
精霊の泉での幻想的な出来事なのだから、決して悪いものではないことはわかるのだが、初めて見る景色にヴァレリラルドは辺りを見回す。
「シャボン玉みたい。ヴァルにも見える?」
「見えるよ。テュコとフォルシウスも見えるみたいだ」
テュコはヴァレリラルドと同様に警戒を怠らない瞳で様子を見ていた。
フォルシウスは恍惚の表情で手を組み合わせている。
『みんながナオにありがとうって言ってるのー』
『みんなみんな、うれしいってー』
『それとねー、ナオがきれいにしてくれたのに』
『悲しい思いをさせてごめんね、って』
『お礼とおわびだよー』
精霊たちが興奮してきゃっきゃっとはしゃぎまわっている。
『精霊たちが我先に姿を現すと、その数が多すぎて愛し子は混乱するでしょう。ですからオーブを作って愛し子に感謝の気持ちを伝えています』
「感謝してくれるの? 僕で、よかったの? 僕……」
アシェルナオの瞳が揺れる。
アシェルナオの前で、オーブが1つ弾けた。
『ナオでよかったよー』
小さな光を放ってオーブが消える瞬間に可愛い声が聞こえた。
『ナオ、ありがとう』
『きれいにしてくれてありがとう』
『もとの泉にもどしてくれてありがとう』
『森をきれいにしてくれてありがとう』
『きれいな花が開いたよ』
『鳥が戻ってきたよ』
風にのり、ゆっくりとアシェルナオの周りをまわるオーブがはじけるごとに、一瞬の輝きと言葉がアシェルナオに降り注ぐ。
「見ていて心が満たされる感じがする。ナオ、私にもわかるよ。これが答えだって」
ヴァレリラルドはアシェルナオの肩を抱いて抱き寄せる。
「……うん。うん」
アシェルナオは目の前の風雅な光景と純粋な言葉の数々に、瞳を潤ませて見ていた。
『愛し子の歌には瘴気を浄化する力があります。浄化された土地や水からは新たな精霊が生れる。この景色を作り出したのも、愛し子の心が清浄でとても綺麗だからです』
ウンディーネはアシェルナオの額に唇をつける。
『愛しい子。困ったことがあれば呼んでください』
「ありがとう、うーにゃん」
アシェルナオが手を振ると、ウンディーネも手を振って、消えた。
「ナオ、座ろうか」
ヴァレリラルドは泉の近くでマントをはずすと、草花の上に広げた。
「汚れない? 草花の染みついちゃうよ?」
正真正銘の「王子様のマント」を地面に敷いて、その上に座ることに罪悪感を感じるアシェルナオ。
「クリーンで綺麗になるから気にしないでいいよ」
「わかった」
わかったと言いながらも遠慮がちに端の方に腰を下ろすアシェルナオの隣に、ヴァレリラルドも座る。
「あのね、僕」
ヴァレリラルドの体に凭れかかり、アシェルナオは静かなさざ波の立つ泉の水面を見つめる。
「うん」
「精霊の愛し子になった自分と、悲惨な最期を遂げて不浄と呼ばれる者になった人たち。その違いはどこにあったんだろうって、ずっと考えてたんだ」
「うん」
「考えても、わからなかった。うーにゃんは……うーにゃんは見えた?」
「ナオがうーにゃんと呼びかけていたのは聞いたけど、姿は見えなかったよ」
「そか。うーにゃんは水の精霊で、僕の心が清浄で綺麗だから浄化する力があるって言ったんだ」
「私もそう思うよ」
「僕、そんなに心が綺麗なわけじゃないよ。カオルのことを意地悪だと思ってたし、父さんのことも大嫌いって言ったし」
後悔の念で目を伏せるアシェルナオ。
「意地悪とか大嫌いとか、言って当然だと思っている者は、そんなに辛い顔はしないよ。その顔は、本当は好きだよ、ごめんね、って言ってる顔だ」
アシェルナオの腕に手を回して、華奢な体をさらに引き寄せる。
「ヴァルは僕の心がわかるみたい」
嬉しくて、でもちょっとだけせつなくて、ヴァル胸に頬をつける。
「わかるよ。私が何年ナオのことを想い続けてきたと思う?」
「僕も、10歳になって前の記憶を思い出してからずっと、ヴァルのことを想ってきたよ。ヴァルだけすごくかっこよくなっていて、僕はただの小さい子供で、胸が苦しかった」
「卒業式の日のナオは、顔をベールで隠していたから気が付かなかった。もし顔を見ていたら、10歳のナオにも本気で愛を語っていただろうな。どんなナオでも、愛してるから」
ヴァレリラルドの顔が近づいてくるのを、アシェルナオは目を開けたまま見ていた。
やがて間近に端麗な顔が来ると、アシェルナオは自然と瞳を閉じる。
唇に、ヴァレリラルドの唇が重なり、ついばむような軽い口づけになる。
「テュコの笛が鳴らないね」
離れていくヴァレリラルドの顔を、頬を染めて、名残惜しそうに見つめるアシェルナオに、
「これは視察であり、お散歩であり、デートだからね。キスくらいは許されないと、私が反乱を起こす」
笑いながらヴァレリラルドが言った。
「デートだもんね? イチャイチャしていいんだよね?」
アシェルナオは思い出したように言うと、自分からもヴァレリラルドにくっついて、ふふっ、と笑う。
『ナオ、ちゅっちゅしたー』
『ナオ、しあわせそうー』
精霊たちもきゃっきゃっとはしゃぐ。
「うん、幸せ」
しみじみと呟きながら、アシェルナオは泉を見つめる。
「私も幸せだよ。ナオは前の世界から、生きるためにこの国に来たんだ。ナオは精霊に愛されて、みんなに愛されるためにこの国に来た。そして身をもって私の命を助けた。ナオは決して不浄じゃない。私の光だ」
「ヴァルがそう思ってくれるなら、僕もそう思う」
※※※※※※※※※※※※※※※※
長くなるので、一旦ここで切ります。
いいね、エール、ありがとうございます。
本当に、ありがとうございます。
昨日の朝、直属の上司に進捗状況の報告をしたのですが、報告をしながら涙が流れていました。
感情が爆発したわけでもなく、泣くつもりもなかったのです。「頑張れば来週の締め切りに間に合います、月末の本締めにも間に合います」と言ったところで、たぶん「来週頑張れば」のところで、私一人が頑張れば、と思ってしまったのだと思います。意識せずに自然に涙が出てきて自分でもびっくりしました。
自分で思っている以上に心身ともにいっぱいいっぱいだったみたいです。
いつもは足を引っ張ったり、手伝うと言ってくれる他の島の人に厭味を言って阻止したり、いろいろ難癖をつけてくるお局様がそれを見て、率先してフォローに来てくれました。
他の島の人たちも、お局様に厭味を言われてもいいから、と手伝ってくれました。おかげで再任用の方が休んでも、いる時以上にはかどりました。全部1人で抱え込まなくていいよ、と言われてありがたかったです(T_T)
その1つがふわりとアシェルナオの前に漂う。
「なんだ?」
精霊の泉での幻想的な出来事なのだから、決して悪いものではないことはわかるのだが、初めて見る景色にヴァレリラルドは辺りを見回す。
「シャボン玉みたい。ヴァルにも見える?」
「見えるよ。テュコとフォルシウスも見えるみたいだ」
テュコはヴァレリラルドと同様に警戒を怠らない瞳で様子を見ていた。
フォルシウスは恍惚の表情で手を組み合わせている。
『みんながナオにありがとうって言ってるのー』
『みんなみんな、うれしいってー』
『それとねー、ナオがきれいにしてくれたのに』
『悲しい思いをさせてごめんね、って』
『お礼とおわびだよー』
精霊たちが興奮してきゃっきゃっとはしゃぎまわっている。
『精霊たちが我先に姿を現すと、その数が多すぎて愛し子は混乱するでしょう。ですからオーブを作って愛し子に感謝の気持ちを伝えています』
「感謝してくれるの? 僕で、よかったの? 僕……」
アシェルナオの瞳が揺れる。
アシェルナオの前で、オーブが1つ弾けた。
『ナオでよかったよー』
小さな光を放ってオーブが消える瞬間に可愛い声が聞こえた。
『ナオ、ありがとう』
『きれいにしてくれてありがとう』
『もとの泉にもどしてくれてありがとう』
『森をきれいにしてくれてありがとう』
『きれいな花が開いたよ』
『鳥が戻ってきたよ』
風にのり、ゆっくりとアシェルナオの周りをまわるオーブがはじけるごとに、一瞬の輝きと言葉がアシェルナオに降り注ぐ。
「見ていて心が満たされる感じがする。ナオ、私にもわかるよ。これが答えだって」
ヴァレリラルドはアシェルナオの肩を抱いて抱き寄せる。
「……うん。うん」
アシェルナオは目の前の風雅な光景と純粋な言葉の数々に、瞳を潤ませて見ていた。
『愛し子の歌には瘴気を浄化する力があります。浄化された土地や水からは新たな精霊が生れる。この景色を作り出したのも、愛し子の心が清浄でとても綺麗だからです』
ウンディーネはアシェルナオの額に唇をつける。
『愛しい子。困ったことがあれば呼んでください』
「ありがとう、うーにゃん」
アシェルナオが手を振ると、ウンディーネも手を振って、消えた。
「ナオ、座ろうか」
ヴァレリラルドは泉の近くでマントをはずすと、草花の上に広げた。
「汚れない? 草花の染みついちゃうよ?」
正真正銘の「王子様のマント」を地面に敷いて、その上に座ることに罪悪感を感じるアシェルナオ。
「クリーンで綺麗になるから気にしないでいいよ」
「わかった」
わかったと言いながらも遠慮がちに端の方に腰を下ろすアシェルナオの隣に、ヴァレリラルドも座る。
「あのね、僕」
ヴァレリラルドの体に凭れかかり、アシェルナオは静かなさざ波の立つ泉の水面を見つめる。
「うん」
「精霊の愛し子になった自分と、悲惨な最期を遂げて不浄と呼ばれる者になった人たち。その違いはどこにあったんだろうって、ずっと考えてたんだ」
「うん」
「考えても、わからなかった。うーにゃんは……うーにゃんは見えた?」
「ナオがうーにゃんと呼びかけていたのは聞いたけど、姿は見えなかったよ」
「そか。うーにゃんは水の精霊で、僕の心が清浄で綺麗だから浄化する力があるって言ったんだ」
「私もそう思うよ」
「僕、そんなに心が綺麗なわけじゃないよ。カオルのことを意地悪だと思ってたし、父さんのことも大嫌いって言ったし」
後悔の念で目を伏せるアシェルナオ。
「意地悪とか大嫌いとか、言って当然だと思っている者は、そんなに辛い顔はしないよ。その顔は、本当は好きだよ、ごめんね、って言ってる顔だ」
アシェルナオの腕に手を回して、華奢な体をさらに引き寄せる。
「ヴァルは僕の心がわかるみたい」
嬉しくて、でもちょっとだけせつなくて、ヴァル胸に頬をつける。
「わかるよ。私が何年ナオのことを想い続けてきたと思う?」
「僕も、10歳になって前の記憶を思い出してからずっと、ヴァルのことを想ってきたよ。ヴァルだけすごくかっこよくなっていて、僕はただの小さい子供で、胸が苦しかった」
「卒業式の日のナオは、顔をベールで隠していたから気が付かなかった。もし顔を見ていたら、10歳のナオにも本気で愛を語っていただろうな。どんなナオでも、愛してるから」
ヴァレリラルドの顔が近づいてくるのを、アシェルナオは目を開けたまま見ていた。
やがて間近に端麗な顔が来ると、アシェルナオは自然と瞳を閉じる。
唇に、ヴァレリラルドの唇が重なり、ついばむような軽い口づけになる。
「テュコの笛が鳴らないね」
離れていくヴァレリラルドの顔を、頬を染めて、名残惜しそうに見つめるアシェルナオに、
「これは視察であり、お散歩であり、デートだからね。キスくらいは許されないと、私が反乱を起こす」
笑いながらヴァレリラルドが言った。
「デートだもんね? イチャイチャしていいんだよね?」
アシェルナオは思い出したように言うと、自分からもヴァレリラルドにくっついて、ふふっ、と笑う。
『ナオ、ちゅっちゅしたー』
『ナオ、しあわせそうー』
精霊たちもきゃっきゃっとはしゃぐ。
「うん、幸せ」
しみじみと呟きながら、アシェルナオは泉を見つめる。
「私も幸せだよ。ナオは前の世界から、生きるためにこの国に来たんだ。ナオは精霊に愛されて、みんなに愛されるためにこの国に来た。そして身をもって私の命を助けた。ナオは決して不浄じゃない。私の光だ」
「ヴァルがそう思ってくれるなら、僕もそう思う」
※※※※※※※※※※※※※※※※
長くなるので、一旦ここで切ります。
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本当に、ありがとうございます。
昨日の朝、直属の上司に進捗状況の報告をしたのですが、報告をしながら涙が流れていました。
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自分で思っている以上に心身ともにいっぱいいっぱいだったみたいです。
いつもは足を引っ張ったり、手伝うと言ってくれる他の島の人に厭味を言って阻止したり、いろいろ難癖をつけてくるお局様がそれを見て、率先してフォローに来てくれました。
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