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第4部
出て来い、ボフ美!
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アシェルナオを1人にさせるために部屋を出たヴァレリラルドたちは、1階のホールに場所を移した。
執務を終えたベルンハルドとローセボームも駆けつけ、一同は重い空気の中、顔を突き合わせて思案していた。
アシェルナオが眠っている間に日は傾き、室内の灯りは煌々としているのだが、状況もあいまって薄暗く感じられた。
「オルドジフ殿、瘴気に触れた者にはどのような影響があるんでしょう」
オリヴェルが尋ねる。
「吸い込んだのではなく、指先が少し触れただけであれば、直接的な身体への影響はないと思われます」
オルドジフは神殿長補佐としての経験を語り、オリヴェルもパウラも肩から力を抜く。だが、
「しかしナオ様の様子を見るに、瘴気の陰の気を取り込んでしまわれたようです」
オルドジフの言葉の続きを聞くと、再び息を詰める。
「すまない。私がついていながら……」
目の前でアシェルナオが瘴気に触れてしまったことに責任を感じて、ヴァレリラルドは頭を下げる。
「テュコからも状況の報告は受けています。アシェルナオは何かが瘴気に近づくのを止めようと走り出したとか……。殿下のせいではありません」
「あの子は……やんちゃな子ですものね」
諦め半分、愛しさ半分でパウラが呟く。
「オルドジフ殿、アシェルナオが取り込んだ瘴気とはどういうものなのだろうか」
シーグフリードはオルドジフに視線を向ける。
「瘴気は汚染された土地や汚染された水などから発生し、人が瘴気を吸うと病気になると言われています。病気になった人間は自身からも瘴気を発し、周囲の人間を病気にさせていくという連鎖を生みます……。また、瘴気が長く留まると、そこで魔獣が発生します。ですが、さきほどフォルシウスから聞いた話ですと、精霊の泉から発した瘴気はとても濃い禍々しいものだったとか。精霊王が言われた、精霊の泉に落とされた不浄なものが大きな陰の気を生んでいたのでしょう」
「それをナオが浄化してくれた。なのにこんなことになってしまって、すまない」
早急に精霊の泉の浄化を行うにはアシェルナオに頼むしかなかったベルンハルドもまた、頭を下げた。
「アシェルナオがやると決めたことです。国王が簡単に頭を下げたらいけません」
それでも思うことはあるため、オリヴェルの口調は八つ当たり気味だった。
「精霊の泉に落とされた不浄のものの正体がナオ様を苦しめているなら、その正体が何かを問い詰めましょう」
テュコは宙を睨む。
アシェルナオは、どんな時でも誰かが側にいることを厭わなかった。
だから17年前のエンロートの時もオルドジフがずっと看病することができたし、世話をするテュコたちを受け入れてきた。
だが今のアシェルナオは世話をされることもだが、部屋に誰かがいることさえ拒み、1人で苦しんでいる。
テュコの視界に壁際で項垂れるアイナとドリーンが入り、
「出て来い、ボフ美!」
やるせない感情のままに呼ぶ。
間を置かずに空中に正座したボフスラヴァが現れた。
「ボフ美です。聖域の森も精霊の泉も、ナオちゃんのおかげで浄化できたよぅ。ナオちゃんにありがとうって言おうとしたけど、言えなかったよぅ」
アシェルナオの部屋に行ったらしいボフスラヴァは、どんな状況なのかを知って悄然としていた。
「精霊王。あなたはこの浄化がナオにとって辛いものになるとおっしゃっていましたね。精霊の泉に落とされた不浄が何なのか、知っていらしたんですね?」
アシェルナオとテュコの影響で、言葉遣いは丁寧だがボフスラヴァへの畏敬は薄れているヴァレリラルドだった。
「うん……」
「不浄のものとはなんだ、ボフ美」
「……ナオちゃんと同じくらいの年の男の子たち、の、死体……たくさん……」
ボフスラヴァの告白に、その場にいる者の表情が固まる。
「……なんだ、それは」
一瞬表情を強張らせたものの、すぐに血相を変えるテュコ。
「たくさんて、その少年たちはどこの誰で、なぜ亡くなったんです?」
シーグフリードはその少年たちの出自を知っている気がして立ち上がってボフスラヴァに詰め寄る。
「最近から、十数年前までの累々とした死体。でも、どこの誰かは知らないよぅ。みんなひどい殺され方だったのはわかるけど。怒りや悲しみ苦しみ痛み。強い恨み。その思いが強すぎて、大きな陰の力が瘴気を生んだの」
「誰が、そんなひどいことを……」
呟きながらヴァレリラルドはシーグフリードを見る。
以前シーグフリードが言っていた、各地で少年たちが行方不明になっている事件。その少年たちがひどい殺され方をして精霊の泉に落とされたのではないか。
その疑念に、シーグフリードは頷くことで同意する。
「ひどすぎる……。非業の死を遂げた多数の少年たちの無念の思いがどんなに強かったか、聖域の森の瘴気を見たらわかります。ナオ様はただの瘴気を浄化するより心身を消耗していたはずです。けれど泉を浄化するまでは、と疲れを見せずに率先して先を急がれていた。なのに、浄化すべき不浄の原因が少年たちの恨み憎しみだった時のナオ様の動揺は……」
どれだけ強かったのか。
フォルシウスが言わずとも、目を覚ましたアシェルナオの様子が物語っていた。
「いまボフ美がナオちゃんに何かを言える立場じゃない……でも、本当に、感謝してるのよぅ」
そう言うとボフスラヴァは消えてしまった。
「ボフ美!……せめて、この浄化がなぜナオ様にとって辛いものになるのかを言ってくれていたら……」
「取り合えず、今日はそっとしておこう。テュコ、アイナ、ドリーン。すまないが、頼むよ」
オリヴェルが言われなくても、部屋には入れずともアシェルナオに異変があればすぐに駆け付けるよう待機しているつもりだったテュコたちは黙って頷いた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
お声がけ、エール、いいね、ありがとうございます(。≧ _ ≦。)
守衛さんに顔と名前を覚えられるくらいサービス超早出の毎日ですが、
おかげで心を壊さずにいられます(。≧ _ ≦。)
執務を終えたベルンハルドとローセボームも駆けつけ、一同は重い空気の中、顔を突き合わせて思案していた。
アシェルナオが眠っている間に日は傾き、室内の灯りは煌々としているのだが、状況もあいまって薄暗く感じられた。
「オルドジフ殿、瘴気に触れた者にはどのような影響があるんでしょう」
オリヴェルが尋ねる。
「吸い込んだのではなく、指先が少し触れただけであれば、直接的な身体への影響はないと思われます」
オルドジフは神殿長補佐としての経験を語り、オリヴェルもパウラも肩から力を抜く。だが、
「しかしナオ様の様子を見るに、瘴気の陰の気を取り込んでしまわれたようです」
オルドジフの言葉の続きを聞くと、再び息を詰める。
「すまない。私がついていながら……」
目の前でアシェルナオが瘴気に触れてしまったことに責任を感じて、ヴァレリラルドは頭を下げる。
「テュコからも状況の報告は受けています。アシェルナオは何かが瘴気に近づくのを止めようと走り出したとか……。殿下のせいではありません」
「あの子は……やんちゃな子ですものね」
諦め半分、愛しさ半分でパウラが呟く。
「オルドジフ殿、アシェルナオが取り込んだ瘴気とはどういうものなのだろうか」
シーグフリードはオルドジフに視線を向ける。
「瘴気は汚染された土地や汚染された水などから発生し、人が瘴気を吸うと病気になると言われています。病気になった人間は自身からも瘴気を発し、周囲の人間を病気にさせていくという連鎖を生みます……。また、瘴気が長く留まると、そこで魔獣が発生します。ですが、さきほどフォルシウスから聞いた話ですと、精霊の泉から発した瘴気はとても濃い禍々しいものだったとか。精霊王が言われた、精霊の泉に落とされた不浄なものが大きな陰の気を生んでいたのでしょう」
「それをナオが浄化してくれた。なのにこんなことになってしまって、すまない」
早急に精霊の泉の浄化を行うにはアシェルナオに頼むしかなかったベルンハルドもまた、頭を下げた。
「アシェルナオがやると決めたことです。国王が簡単に頭を下げたらいけません」
それでも思うことはあるため、オリヴェルの口調は八つ当たり気味だった。
「精霊の泉に落とされた不浄のものの正体がナオ様を苦しめているなら、その正体が何かを問い詰めましょう」
テュコは宙を睨む。
アシェルナオは、どんな時でも誰かが側にいることを厭わなかった。
だから17年前のエンロートの時もオルドジフがずっと看病することができたし、世話をするテュコたちを受け入れてきた。
だが今のアシェルナオは世話をされることもだが、部屋に誰かがいることさえ拒み、1人で苦しんでいる。
テュコの視界に壁際で項垂れるアイナとドリーンが入り、
「出て来い、ボフ美!」
やるせない感情のままに呼ぶ。
間を置かずに空中に正座したボフスラヴァが現れた。
「ボフ美です。聖域の森も精霊の泉も、ナオちゃんのおかげで浄化できたよぅ。ナオちゃんにありがとうって言おうとしたけど、言えなかったよぅ」
アシェルナオの部屋に行ったらしいボフスラヴァは、どんな状況なのかを知って悄然としていた。
「精霊王。あなたはこの浄化がナオにとって辛いものになるとおっしゃっていましたね。精霊の泉に落とされた不浄が何なのか、知っていらしたんですね?」
アシェルナオとテュコの影響で、言葉遣いは丁寧だがボフスラヴァへの畏敬は薄れているヴァレリラルドだった。
「うん……」
「不浄のものとはなんだ、ボフ美」
「……ナオちゃんと同じくらいの年の男の子たち、の、死体……たくさん……」
ボフスラヴァの告白に、その場にいる者の表情が固まる。
「……なんだ、それは」
一瞬表情を強張らせたものの、すぐに血相を変えるテュコ。
「たくさんて、その少年たちはどこの誰で、なぜ亡くなったんです?」
シーグフリードはその少年たちの出自を知っている気がして立ち上がってボフスラヴァに詰め寄る。
「最近から、十数年前までの累々とした死体。でも、どこの誰かは知らないよぅ。みんなひどい殺され方だったのはわかるけど。怒りや悲しみ苦しみ痛み。強い恨み。その思いが強すぎて、大きな陰の力が瘴気を生んだの」
「誰が、そんなひどいことを……」
呟きながらヴァレリラルドはシーグフリードを見る。
以前シーグフリードが言っていた、各地で少年たちが行方不明になっている事件。その少年たちがひどい殺され方をして精霊の泉に落とされたのではないか。
その疑念に、シーグフリードは頷くことで同意する。
「ひどすぎる……。非業の死を遂げた多数の少年たちの無念の思いがどんなに強かったか、聖域の森の瘴気を見たらわかります。ナオ様はただの瘴気を浄化するより心身を消耗していたはずです。けれど泉を浄化するまでは、と疲れを見せずに率先して先を急がれていた。なのに、浄化すべき不浄の原因が少年たちの恨み憎しみだった時のナオ様の動揺は……」
どれだけ強かったのか。
フォルシウスが言わずとも、目を覚ましたアシェルナオの様子が物語っていた。
「いまボフ美がナオちゃんに何かを言える立場じゃない……でも、本当に、感謝してるのよぅ」
そう言うとボフスラヴァは消えてしまった。
「ボフ美!……せめて、この浄化がなぜナオ様にとって辛いものになるのかを言ってくれていたら……」
「取り合えず、今日はそっとしておこう。テュコ、アイナ、ドリーン。すまないが、頼むよ」
オリヴェルが言われなくても、部屋には入れずともアシェルナオに異変があればすぐに駆け付けるよう待機しているつもりだったテュコたちは黙って頷いた。
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